15ランフォード視点
ランフォードは大股で執務室を後にした。
国王に話をするためダンテスを応接室に待たせたままなのに、廊下で立ち止まり窓から外を眺める。
気持ちを落ち着けるのには少し時間が必要だった。
俺は、腹を立てているのかうれしいのかもよくわからなかった。
もやもやとした感情が胸の奥で渦巻いていて…
最初にいけにえの事をいとも簡単に話したルヴィアナにカチンときた。
だってそうだろう?俺の妹は…コレットは17歳という年で魔族の所に行かされて今だってどんな恐い思いをしているかと思うと胸が張り裂けそうになる。
何とか一日も早く魔族を倒して妹を助け出したい。それが俺の本心だ。
だが、そんな事を考えていると誰にも気づかれてはならないことも事実だ。
あまり癇癪を起すとそんなことまで言ってしまいそうで俺はぐっと感情を抑え込んだ。
そして今度は領地に赴くことになる話をした途端。
ルヴィアナは俺の事を心配ばかりして…家族もいない俺の事など誰も気にすることなどないのに…
ひどく心配したあの瞳はうるうるして、まるで宝石のように輝きを放っていて、今にもその瞳から宝石のような涙がこぼれ落ちそうになっていて、握りしめた手は痛いほど白くなって、どうして俺のためなんかにそんなに?
誰かに心配されるなんて望んでもいない。
俺には魔族を倒すという目的がある。一人の方が身軽だしそんな人がいると思えばまた気が重くなる。
だから、誰とも深い付き合いはするまいと決めていたはず…なのに…
ルヴィアナは…彼女は王太子の婚約者でもうすぐ結婚する人。
そんな事わかっているはずなのに…何でこんなに胸が苦しいんだ?
それにあの瞳を見ているとなぜか杏奈…お嬢の事も思い出されて…
一体何を考えているんだ俺は…ったく。
いいからもう忘れろ!
ルヴィアナは心配はしているだろうが、それはさっき無神経なことを言って俺を怒らせたと思ったから、まあ、たしなみの行為だ。
それに彼女はいずれ王妃になる女性でそれは俺の仕える人という事なんだからと。
やっと気持ちに折り合いがついた。
ランフォードは応接室に戻るとダンテス伯爵を連れて国王の執務室を訪れた。
「陛下、お目に書かれて光栄でございます。私は辺境の地ルベンから参りましたゼルク・ダンテスと申します。今日はお忙しいところ恐縮でございます」
ダンテス伯爵はそれはもう嬉しそうに国王にひれ伏した。
「ああ、遠いところご苦労であった。して今日はどのような?」
そこでランフォードはダンテスから聞いた状況を説明した。
「それはお困りであろう。何か対策を立てねばなるまいが…ランフォードは何かいい考えでもあるのか」
さすがは国王だ。ランフォードが一緒にここに来たということはともうわかっているらしい。
「はい、陛下。こうなった以上魔獣征伐はもはや猶予はありません。一刻も早い騎士隊の派遣を命じて頂きたい。わたくし自ら騎士隊を率いて行く所存であります」
「だが、ランフォード。傷はもういいのか?かなりの深傷を負ったと聞いているが?」
「傷はすでに完治しております。あの時の不覚、今回で取り戻したいと思っております」
「お前がそこまで言うのなら、あれは完成したという事か?」
「まだ完璧とまで入っておりませんが試作を試してみようかと思っています」
「陛下、ランフォード様失礼ですが一体何のお話で?」
「いや、剣の強度をな…コホン。少しでも魔族征伐の役に立てばとランフォードが色々試作をな…しかし討伐にはいろいろ気苦労が耐えんであろう?魔石の力も相手が魔族となればなかなかであろうに。ダンテス殿、いや、とにかく気を付けて下されよ」
「はは、もったいないお言葉ありがとうございます」
「では陛下、明日の早朝出発いたしますので、これで失礼します。私は国王直属の騎士隊を半分ほど率いて行くことになりますので、王宮の警護には別同隊の騎士を派遣いたしますのでご安心ください」
「ああ、わかった。ふたりとも気を付けて、無理はせんようにな」
「はい、ここ得ております」
ランフォードはすぐに騎士隊に出向いて、事情を説明する。
王専属の騎士隊は副隊長が臨時司令官となる。
そして半数の騎士隊が辺境の地、ルベンに向かう事になった。
ディミトリー殿下の執務室にもランフォードは明日ルベンに指揮隊長として赴くことになったと報告に行った。
「悪いが、明日ルベンに赴くことになった。仕事を手伝えなくなるがすまん」
「それは‥仕方ありません。どうかお気をつけて」
ローランは気落ちした顔で渋々挨拶をした。
ルヴィアナは、一瞬目を見張りその後肩を落としがっかりした表情を浮かべた時、ランフォードの心はズクンと疼いた。
彼女ががっかりしたのは仕事を手伝うことが出来なくなったから。
ただそれだけなんだ。
ランフォードはしっかり心に言い聞かせた。
そして執務室を出て行った。
思った通り彼女は俺に声を掛ける事さえしなかったじゃないか。
いや、何を…違う。ルヴィアナなディミトリー殿下の婚約者だ。それが当たり前というものだろう。
彼女の態度は王太子の婚約者としてやるべきことをしているだけ、それは素晴らしい事じゃないか。
そうだろう?
なぜか、そう思えば思うほど嫌な気分になってしまう自分がいた。




