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 王宮に着くと早速執務室に向かった。

 ドアを開けて一番にローラン様を見た。

 彼のデスクは書類の山で埋まっていて、その隙間から彼が顔をのぞかせた。

 「ローラン様遅くなってすみません。お昼からは頑張りますので、いかがですお昼をご一緒しませんか?」

 「もう、ひどいじゃありませんか、おふたりともどこに行かれていたのですか?おかげで私はてんてこ舞いでしたよ」

 「悪かったなローラン。俺達も仕事で出掛けていたんだ。許してくれないか。午後からはきっちりその書類を片付けるから、ルヴィアナ嬢の言う通り先に食事にしないか?」

 「シャドドゥール公爵にそんな風に言われたら、文句もいえません。そうですね。お昼にしましょうか」


 やっとローラン様のご機嫌がなおったみたいで良かったですわ。

 ルヴィアナは持って来たサンドイッチをソファーの前のテーブルに広げてお茶を煎れに行く。

 「みなさん紅茶でよろしいかしら?」

 「ああ、だが君がお茶を入れるのか?」

 「ええ、いけませんか?ローラン様も座ってらして」

 「本当にいいんでしょうか…」

 「もちろんです。さあ、座って」

 そこまで言われるともう座るしかないとふたりはソファーに腰かけた。

 「すみませんクーベリーシェ嬢」

 「いいえ、先にサンドイッチを食べてらして」


 すぐにお茶を用意してそれぞれのカップに紅茶を注ぎ入れるとルヴィアナも座ってサンドイッチを食べ始めた。

 「このローストビーフすごくおいしいですね」ローラン様が舌鼓を打っている。

 こんなに嬉しそうなローラン様のお顔を見たのは初めてかも知れません。

 ルヴィアナ、あなたはいつもローラン様を軽んじていたのでしょうね。

 彼だって親切にすればこんなに打ち解けてくれてるじゃありませんか。


 「ああ、なかなか絶品だ。それに俺はこっちの卵が気に入った。こんなの初めて見たけど、もしかしてこれもルヴィアナ嬢が?」

 ランフォード様にまで褒められました。

 「そうですよ。わたくしも少しはお料理できるんですよ。良かったですわ、気に入ってもらえて卵は中にピクルスや玉ねぎなんかも入ってるんですよ。野菜不足になりがちな食事ですので…いかがです?」

 「ああ、いいアイディアだ。これ本当にうまいよ」

 ルヴィアナが作って来たのは、日本で言うタルタルソースみたいなもので、この国には卵サンドはなかったらしい。

 それに料理を作るなんてとお母様に言われたが、ルヴィアナはどうしてもディミトリーと仲直りがしたくて朝早くから頑張ったのだが…

 まあ、こうしておふたりに喜んでいただけましたから。と納得する。

 

 そうやって打ち解けながら食事を済ませると、ランフォード様は仕事に取り掛かった。

 彼は半年ほど前に魔獣征伐に出かけて大けがをしたらしいが、今ではすっかり元気になっているみたいです。

 ただ彼は王専属の騎士隊長だが騎士隊への復帰はまだらしく、それで国王がディミトリーの変わりを頼んだらしい。

 それに新しい剣をどうとか言ってましたが…まあ詳しいことはわかりません。


 次から次に仕事をするランフォード様は見事なまでにてきぱきと書類を片付けて行った。

 ルヴィアナはその書類の整理や出来上がった書類を各部署に届けるのが忙しかった。

 気づけば夕方までに今日の予定は終わっていた。


 「すごいですランフォード様。今日の予定はすべて終わりました。では私はこれで…こんなに早く帰れるのは久しぶりです。妻が喜びます」

 そう言えばローラン様は新婚だった。今まで遅くまで仕事をさせていたんですね。すみません。

 「ローラン様お疲れさまでした。今日はゆっくり休んでくださいね」

 「はい、ありがとうございますクーベリーシェ嬢もお疲れさまでした。では失礼します」

 はい、ローラン様奥様とゆっくり過ごしてくださいね。


 ルヴィアナはローラン様が帰られて振り返った。何だかうれしくてニコニコ微笑んだままでランフォード様と目が合ってしまう。

 あっ、見られた。こんなにやにやした顔なのに…なぜかひどく動揺してしまう。

 彼の口角が上がって笑顔になった。

 うっ…ますます恥ずかしくなり、耳まで熱くなってしまう。

 執務室にふたりきりだし、早く帰ろうと支度を急いだ。

 「では、わたくしもこれで失礼しますわ。ランフォード様今日はありがとうございました。では失礼します」

 やっと挨拶だけして部屋を出ようとした。

 「ルヴィアナ嬢、ではお見送りをしましょう」

 「えっ?でも、お忙しいのでは…」

 彼はさっとルヴィアナの手を取ると一緒に執務室を出て王宮の出口に向かう。

 馬車はもう表で待っていてそこまで彼がエスコートしてくれた。


 「ランフォード様はもう帰られるのですか?」つい余計なことを聞いてしまう。彼がこの後何をしようと関係ないはずなのに…

 「いえ、これから少し剣の稽古をしようかと思っています。しばらく休んでおりましたので体力が落ちていまして少し鍛えないと…では、失礼します」


 「あの…もしお嫌でなければ今度剣の稽古を見学してもいいでしょうか?」

 「女性がそんなものに興味がおありなのですか?」

 「いけませんか?この国にとって騎士隊は非常に重要なお仕事と伺っております。そんな方のお仕事ぶりを拝見するのも何かの役に立つのではないかと思っただけです」

 よくもまあそんな嘘を…本当は違うんです。ただランフォード様の剣を持つお姿を拝見してみたいだけの事なんですが…


 「そうかもしれません。次期王妃となられるルヴィアナ嬢のお役に立つのなら、いかほどでもお見せいたします。これからでも構いませんが今日はもうお疲れでしょう。また後日にでも…では失礼します」

 「お心遣いありがとうございます。では失礼します」



 ランフォード様の洗練されたその物腰にうっとりしてしまい。

 じっとわたくしを見つめられるその瞳にドキリとしてしまい。

 彼の銀髪がさらりと風になびくとさらに胸の奥が疼いてしまう。

 ロッキーとは違う魅力がいいえ、さらにその上を行くゴージャスな雰囲気にルヴィアナの心臓がきゅうっと締め付けられた。

 もしかしてわたくし…彼に恋を?そんな事あるはずが、それにいくら恋をしてもわたくしはもうディミトリー殿下のものと決まっているのですから…


 何も感じてはいけない。感情は抱いてはいけないときつく心に言い聞かせる。

 

 「あっ、ランフォード様。これをお渡しするのを忘れていました」

 お店で買ったビーンズ。彼の分もと買っていたことを思い出し急いで馬車から下りようとして脚を踏み外しそうになる。

 「危ない!ルヴィアナ」

 ランフォード様がルヴィアナの倒れそうになった身体を抱き留めた。

 「ご、ごめんなさい。わたくし、つい慌てて…」

 「お怪我はありませんか?」

 そっとランフォードはルヴィアナを地面に下ろす。

 「はい、大丈夫です。これをお渡しするのを忘れておりましたので…」 

 ルヴィアナはさっきの可愛らしい缶に入ったビーンズを手渡す。

 「これを私にですか?」

 ランフォード様は驚いた顔をされて…


 ああ、しまった。ランフォード様は甘いものは嫌いなんだわ。わたくしそんな事も確かめずに勝手なことをしました。

 「申し訳ありません、勝手なことをしてしまいました。甘いものお嫌いなんですね。ごめんなさい」

 彼の手に乗せた缶を取り上げようとした。

 ちょうどその時彼が手を動かしてわたしたちの手は重なり合ってしまう。


 「あつ、失礼」

 ランフォード様はさっと手を離された。

 わたくしもさっと手を離してしまい缶が地面にころがり落ちた。

 今度はまたふたり同時にしゃがんで缶を拾おうとして目が合った。

 「もう、私たちふたりで同じことをしてますね…」

 ルヴィアナは恥ずかしさでまたしても頬が熱くなった。

 それと同時にランフォード様も…彼は耳まで赤くなっています。

 「誰も嫌だとは言っていません。これは頂きます」

 ランフォード様はさっとその缶を拾うとルヴィアナに手を差しだしてくれた。


 ルヴィアナは馬車までエスコートされてまた馬車に乗り込んだ。

 「ありがとうございます。それからビーンズも受け取って頂いてうれしいです」

 「あなたからのプレゼントだったらどんなものでもうれしいです。あっ、誤解のないようにそんなお気持ちがうれしいという意味です。ではこれで失礼する」

 ランフォード様がさっと飛びのくとたちまち馬車は出発した。

 御者に馬車を出すよう合図されたらしい。

 私たちの間に何もあってはならない。周りに小さな誤解を与えるようなことさえも。

 ランフォード様はきっとそんなお気遣いをされたのだろう。

 そうわたくしは王太子の婚約者ですから…



 




 


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