12
早速街に一緒に買い物に出かける事になって。
ランフォード様はクールで真面目な顔をしていながら私が好きそうな店を案内していただいて驚きです。
それはもう可愛い小物が揃った雑貨店だったのです。
そのギャップが何だかおかしい気もするけど…それはこの際気にせずに。
そこではアメニティグッズや可愛らしいピローケースに小物入れなども買ってついでにお風呂で使う石鹸はエメラルドのような色合いのものを、体に塗るローションなんかも買ってしまいました。ちゃっかりわたしの分も買いましたけど。
ランフォード様は照れ臭そうにしながらも一緒にお店の中についてきてくれるなんて思ってた以上にすごく親切な方です。
次に行ったのはなんと今人気のお菓子の店だそうで、もう女心が分かっているなんてものじゃ…
きっとランフォード様はもてるんでしょうね。
こんな情報をゲットできるんですから。
えっ?でも記憶ではランフォード様は女性とお出かけするなんて聞いたことない気がするけど…
まあ、この際そんな事は置いといて…
今、レントワール国では宝石に見立てたビーンズのようなお菓子がはやりだとかで、かわいらしい缶に入ったビーンズはそれはそれは美しく形も星や花などがあってお客様にお出しする分とお土産用にもとたくさん買ってしまった。
もちろんわたくしの分もランフォード様の分も買いました。
「あの‥ランフォード様、女性の買い物に付き合うのは疲れませんか?申し訳ありません。お仕事と言いながらわたくしすっかり舞い上がってしまって、でも、こんなに楽しかったのは本当に久しぶりですわ」
どうやら彼はこんな所に来るのは苦手らしい。何だかまごつく彼が可愛いと思ってしまった。
「いや僕も久しぶりに楽しかった。なんていうかお伽の世界にいるみたいでこの国にもこんなかわいいものがたくさんあるんだって初めて知ったよ」
いいんですよ。そんな気を使わなくたって、男の人がこんな店に興味がないことくらいわかってますから。
そんな事を思いながら白々しく笑顔を浮かべる。
「良かったですわ。ではランフォード様の買い物に行きましょう。何を買われるんですか?」
「ああ、羽ペンとインクをね。これからサインする機会が増えるだろう。持っていたペンが傷んでいてね」
「そうなんですか。羽ペン…楽しみです」
「そう。ただの羽ペンだ」
ランフォード様は照れているみたいで素っ気ない答えが帰って来ました。
でも、ほんとはお買い物好きなのかもしれない。とさえ思ってしまった。
だって楽しそうにしてくれてるから…
きっと彼は紳士なんだ。
ふたりで文房具店に入った。
中には色とりどりの羽ペンがあって、それも種類がたくさんで、インクの瓶もおしゃれなものばかりでルヴィアナはまたしてもはしゃぐ。
ルヴィアナも父と母にもとそして兄にも合計4本の羽ペンを買いインクも買った。それに便せんや羽ペンなども特使の方にも使ってもらうことにする。
「ランフォード様のおかげで素敵なものが買えましたわ。ありがとうございます。あっ、それにわたくし…アイピローってご存知です?眠るとき目の上に乗せると気持ちいいんです。眠れない時なんかに良いもの何ですけど、お店になかったので自分で手作りしようと思ってますの」
「アイピロー?何ですかそれは…」
彼は間の抜けた表情で私を見られた。
こんなお顔もされるなんて。何だかランフォード様超可愛い。
「良かったらランフォード様の分も作りましょうか?きっと書類仕事で目がお疲れになるはずですもの。出来上がったらお持ちしますね」
「ああ、それはうれしい。さあ、帰ったら山のような仕事が待っている。だがその前に昼食にしませんか。このあたりで食べて帰りませんか?」
「ああ‥すみません。せっかくですがわたくし今日はサンドイッチを持って来ていますので…そうだわ。たくさんあるのでご一緒にいかがですか。殿下はもうお出かけになられたので私だけでは余ってしまいますわ」
「では一緒に頂きましょうか」
ランフォード様は嫌な顔もされずに同意された。
良かったわ。ご機嫌を損ねるかと思いましたが…
私たちは王宮に戻って執務室で食事をすることにした。
杏奈は思わず自分がおかしくなる。
思えばわたくし言葉使いがすっかりご令嬢になっていますわ。
まあ、この世界でやって行かなければなりませんから、この調子で頑張りましょうか…
馬車の中でルヴィアナはふっと杏奈の頃ロッキーと過ごした日のことを思い出してしまう。
あれは杏奈の19歳の誕生日のプレゼントを買いに行った時の事だった。今日のようにロッキーと一緒に雑貨店に行ってぬいぐるみやペンなどを買ってもらった。
いつもは誕生日プレゼントなんて誰かに買ってもらった事などなかったのに…でももうロッキーもいないし私も死んでしまったんだ。
そんな事を思い出したら急に胸が痛くなって鼻の奥が熱くなる。
こんな姿を見られたくはなかった。
「ルヴィアナ?ご気分でも悪いのですか。さっきからうつむいてばかりですが?」
私は慌てる。泣いているところを見られたくはない。どう誤魔化そう…
「いえ、違うんです。わたくしったら…ディミトリー殿下とはこんな時間を過ごしたことがないと思ってしまったら…ごめんなさい。泣くつもりはないのに…」
誤魔化そうとすればするほど涙は止まらなくなって…
こらえきれなくて涙が頬を伝う。ロッキーとの大切な時間を思い出してもう二度と来ないあの日を…
「すまん。俺の配慮が足りなかった。君は寂しい思いをしていたんだな。ディミトリーの奴、これからはそんな思いをさせないよう俺からも…」
「いえ、いいんです。そんなこと期待してなんかいませんから。もう気にしないで下さい。ごめんなさい。せっかく楽しい時間だったのに…」
「いいんだ。気にするな。俺の胸で良ければいつでも貸そう…おいでルヴィアナ思いっきり泣いていい…」
そう言ってランフォード様はルヴィアナをそっと引き寄せて胸の中に包み込んだ。
そう、返事も聞かずに…
一瞬ドキリと胸がばくつく。
でも、きっとランフォード様に取ったらわたくしなんて子供のようなものなんだわ。だって彼は確かもうすぐ30歳になるはず、それにしてはとてもそんな風には見えないですが…
でも…今はこうしていたい。彼の温もりはまるでロッキーの胸の中にいるかのようで、また泣けて来る。
ルヴィアナは彼のたくましい胸の中で王宮に着くまで泣いていた。
もう二度と会えないロッキーの思い出とともに…
婚約者のある身でこんな事してはいけない。そんなことくらいわかっています。でも今は…今だけ……
それに彼はわたくしの事など相手にもしていないんですから…




