10ランフォード視点
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。はなまる
ランフォードはルヴィアナを見送ると大きくため息を吐いた。
どうして俺がルヴィアナ嬢の面倒を見てるんだ?
行きがかり上そんな展開になったが、俺はそんな事に関わりたくはないのに…
俺は忙しいんだ。誰にも言ってはないが新しい剣を作るのに今は他の事に構っている暇はないのに…
そうは思っても彼女を一目見て思い出したくない人を思い出した。
彼女はとても美しいアメジスト色の瞳をしていて今日で会ったルヴィアナの瞳の色とそっくりだった。
だが、もうあの世界の事は忘れなければ、すべて夢のような出来事だった。
こんな事になったのも思えばランフォードの妹のコレットが魔族のいけにえにならなければならなくなったからだ。
コレットは生まれた時から金色の瞳をしていて、もしかしてコレットはいけにえになるために生まれて来た子供かも知れないと両親は思ったそうだ。
100年に一度のいけにえの話はすべての国民が知っていることで、その時期がもう近いのは確かだった。
そして金色の瞳をしている人間は魔源の力が強い事も貴族の間では周知の事実だった。
だが、ランフォードにそんな事は知らされず年の離れた妹を可愛がり愛した。
数年前に両親が馬車の事故で亡くなり爵位を継ぐといけにえの話の事を知るが、それからはますますコレットを可愛がった。
そんなはずはない。コレットをいけにえになんかさせるもんかと…思っていた。
だが、去年コレットが17歳を迎えると国王から呼び出しが来た。
コレットをいけにえとして差し出すようにと…
ランフォードは国王に食って掛かった。
どうしてコレットが犠牲にならなければならないのかと、そして真実を知らされる。
その真実を知ってランフォードは愕然とした。
考えてみれば魔源の力が王族、いわゆる貴族に多いのはそんな理由があったからだと知る。
この話は国王と私しか知らない話で、他には絶対に漏らしてはならないと言われた。
まさか魔族との間にそんな取り決めがされていたなんて…
俺はこの国の人間で国王の命令とあればそれがどんな事であっても逆らうことは出来ない。
「コレット許してくれ…お前には魔族の王のもとに嫁いでもらわなくてはならない。そんな事無理だとわかっている。でもこうするしか方法がないんだ。許してくれコレット…」
コレットは泣き崩れた。泣いて泣いて…そして7カ月前コレットは魔族の迎えに連れられて森に入って行った。
もう二度とコレットに会えないだろう。
わかってはいたが一緒について行ったランフォードはどうしようもなく怒りを抑えきれず、つい魔獣にくってかかり魔獣と争いになり瀕死の重傷を負ってしまう。
それから1か月ランフォードは意識不明で生死の境をさまよった。
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ランフォードは生死の間を彷徨っている時転移したらしかった。
行き先は日本という国で車に惹かれて死ぬ運命だった男の身体に入ったらしい。
その男は外国人だったので彼は違和感なくその男に転移した。
そして運よく彼ははねられた車の持ち主に拾われる。それは天鬼組というやくざの会長だった。
転移したランフォードは本当の事を話すことも出来ず記憶喪失と思われたことも良かった。
そして天鬼組のやくざとしてやって行くことになった。
レントワール国と似たようなやくざの世界にランフォードは溶け込んで行った。
元の世界に帰れるかもわからず、その世界で知り合った杏奈という女性にコレットを重ねてしまい、情が湧いて彼女の世話をやくうちに杏奈を好きになってしまう。
そう、あの美しい色の瞳をした女性。それが杏奈だった。
彼女を「お嬢」と呼び送り迎えをしたものだ。
そしてこの世界には刀という剣がある事も知る。この刀と途方もなく切れ味が良くレントワール国にある剣とは比べ物にならないほど軽い事も。おまけに材料は砂鉄だとも知った。レントワール国に戻れるかもわからないまま作り方まで調べたりしていた。
そんな時、杏奈に危険が降りかかり彼は杏奈をかばって命を落とす。
そしてどういうわけかレントワール国に帰って来たらしい。
気が付いた時意識を失って1か月が過ぎていた。
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意識を取り戻したランフォードは次第に転移していたと確信する。
ランフォードは日本という国に1年ほどいたのは間違いなかった。
日本という国でやくざという組織で働ていたことも、そしてあの国では自由というものがあると言う事も知った。
個人が何をしても許されるという。それは国王の命令に従わなくてもいいという事。国民はすべて自分の意志でやりたいことが出来てそれを選べる権利があることも知った。
だから杏奈も父親の意志を継がずに保育士の仕事を選んだのだろう。
もし日本という国に生まれたならコレットもいけにえになんかならなくてよかったのだろうか?
そんな疑問がずっと頭の中で繰り返し沸き起こって来る。
でも、ここはレントワール国なのだ。そんな事を考えても仕方がない。
でも一度自由の世界を経験したランフォードは、このままではやりきれなくなり、何かコレットのために出来る事がないだろうかと考え始めた。
そして思いついたのが、日本という国で知った刀を作れないかと言う事だった。
その刀があれば魔族を退治することが出来るかも知れない。
ランフォードはそして二度とコレットのような女性を出さないためには魔族をすべて根絶やしにするしかないと考えるまでに。
魔族がいなければ王族もあきらめがつく。そんな魔源の力に頼らなくてもこの国は国王制度が確立している。きちんと国としてやって行けるはずだ。
そしてランフォードの考えはとんでもない方向に向かい始める。
コレットはいけにえなんかではなく魔王に嫁いだ。魔族と人間の間に出来た子供、そう彼女の生んだ男の子が次の国王の子供として育てられるのだ。
そんなことはさせられない。
コレットが妊娠する前に魔族を残らず全滅させなければ、そしてコレットを連れ戻そう。
魔族のいない世界になれば問題はすべて解決するはずだ。
ランフォードの頭はそのことでいっぱいで他の事を考えている余裕はなかった。
だが、ルヴィアナに会ってあまりに杏奈と似た瞳の色を見て心が揺らいだ。
もしあの世界にあのままいたら俺は杏奈に愛を告白していたのだろうか?
ランフォードは知らない間に杏奈を愛していた。お嬢と呼ぶ人を…
だが、それはもう過去の事だ。そして二度と帰ることのできない世界の話なんだ。
ランフォードは自分に何度も言い聞かせた。
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そして現実を思い出すかのように国王から聞いた話をまた思い出す。
国王から聞いた話の大筋はこうだ。
今から1000年近く前、魔族はもうこの辺りに暮らしていたらしい。そこに入ってきたのが人間だった。
魔族の住んでいない地域に住み始めた人間と魔族はそのうち交流をするようになり、中には結婚して子供をもうける人間と魔族も出て来たらしい。
人間は作物を作り道具を持ち、魔族の持っていないものを持っていた。
魔族は狩りをして動物を食べて家は洞穴や洞窟などで、人間との交流は魔族にとっても有益だった。
だが、そんな時代はあっという間に終わる。
人間は魔族の暮らしている地域にある鉱山が欲しくて仕方がなくなった。
そこには鉄鉱石や石炭など必要な原料がごっそりあるからだ。
魔族のその鉱山を掘らせて欲しいと申し出るが魔族はその鉱山のある森で狩りをして暮らしを立てていたのでいい返事をすることはなかった。
魔族は魔族でたびたび人間と争いを起こしていた。魔族は魔獣になると見境がないからだ。
そして争いがおこる。
互いに殺し合い憎み合いそんな時代が50年ほどは続いたらしい。
だが、いつまでもそんな事をしているわけにはいかないと互いの王が話し合いをして闘いを終えることになる。
そして今のように魔族の暮らす地域と人間の暮らす地域が線引きされた。
互いにお互いの土地を侵略しないと決められた。
人間たちの新しい国の国王として魔族と人間の間に出来たものが選ばれた。それは魔源という力を持っていたから、どうやら魔族の持っている力が交配した人間に特別な力をもたらしたらしい。
その力は特別で炎を操ったり、水を湧き出させたり、人間を跳ね返したりといろいろ力を増幅させるパワーを持っていた。
だが国はすぐにまとまったわけではなかった。
闘いをするという人。闘いをやめたい人。いろいろな意見がありまとまることが出来なかった人たちが、やがてその神秘的な力に絶対的な信頼と服従をするようになって国はまとまり始めて行った。
そしてレントワール国は一つの国として成り立って行った。
そうやって数百年安定した時代が続いた。
だが、その後人間と人間だけの間に生まれた子孫が続くと魔源の力が弱くなっていった。
王族はそのことをひどく恐れ、国王が普通の人間と知られれば国王に取って代わろうとする輩も出てくるだろうと思い始める。
王族にしてみればそんな事はあってはならないことで、何とか魔源の力を得る方法を考える。
そして時の国王はとんでもないことを決めてしまう。
それは魔族の王のもとに魔源の力の強い令嬢を嫁がせること。
魔族も魔族だけの交配では野獣性が増して次第に凶暴的になり理性が欠けて行くことを危惧していた。
魔王は魔族の国を統治していくうえで人間の血が混じった方がいいと考えた。
お互いに利害が一致したのだ。
だが魔族と婚姻関係を結ぶなどと国民に言えるはずもなく、あくまでも魔族と人間の間で争いを起こさない為の契約で、100年に一度王族の血筋を引く令嬢をいけにえとして魔族の王に差し出すことになったと国民に告げる。
実際にはいけにえとなった令嬢は魔族の妻となり魔族と人間の間に子をなすのが目的だ。
生まれた子供の男子を王族の子供として育てて次の国王とする。そうすれば魔源の力を多く持った子孫をまた残すことが出来る。
それがいけにえのからくりだった。




