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05

 木々の合間を抜け、小高い丘を超え、河川を渡っても人の気配とは出会えなかった。

 そもそも個々が日本なのかも怪しいわけで、仮に誰かと出会っても意思疎通が出来ず不審者として通報されるのが落ちだ。


 いや、まあそれはそれで家に帰る手段になって楽なんだけれども。

 ……いや今の自分、凄いカイジンフォルムじゃん。

 小川を渡る時に観たがなんというか、造形は細かいものの特徴らしい特徴の無いパッとしないフォルムだった。

 狼の意匠を持ったあの赤いカイジンや画面越しでも伝わるあの形容しがたい威圧感を持った形状のカイジンと比べるとなんとも心許ない。

 コスプレ扱いされない程度に安っぽくないのは救いか。


 まあ俺らしいといえば俺らしい、と慰めにもならない独白をしていると奇妙な気配を感じる。

 その方向に視線を向けると――――。


「アンタ、生きてたんだな」

「ええ、私は不滅の女神なのです」


 カイジンに惨たらしく殺されたはずの彼女は、まるで何もなかったかのようにそこに居た。

 肉体はおろか衣服まで、俺と出会ったその時のままでいる。

 安堵なんてモノは無くただ単に奇怪さだけを抱いた。


「不滅ならアイツらなんとかしろ。それかアイツ等の望む事をさせてやれ」

「えー嫌ですし、無理ですよ。彼等の望みは私を滅ぼす事ですから」

「……不滅の存在を、滅ぼす?」

「はい。そりゃ肉体的には不死ですけど、痛いのは痛いですし精神的苦痛を与え続ければ心は死ぬかもしれませんね」

「ああ……」


 漫画とかでよく見る不死の存在を殺す方法だな。

 あるいは完全に身動き出来なくさせて封印状態にするとかか。

 目の前の存在がどれほどのモノかは分からないが自身を神と称する以上、相応の力は持つのだろう。


「じゃあ逆にアイツらを倒すとか、そういう事は何で出来ないわけ?」

「タイマンならワンチャンあるかもしれないが、私が力を使うと位置バレちゃうみたいなんですよね。流石に複数人の相手をするのはちょっと……」

「女神の癖に弱くない?」

「戦いの女神じゃありませんので! それに心情的にそうしにくいと申しますか、一度掬った命を自分で殺すって酷くありません?」

「そりゃそうだろうが、だからって人に任せるよかマシだろ」

「し、辛辣……もしかして彼等の肩、持っちゃってます?」

「現状厄介事に巻き込んだ貴女へのヘイトは高いです」


 そう宣言すると女神は納得したような顔をしてこちらへと手招きをする。

 訝しく思いながら凝視していると急に胸元を何かに引っ張られ強制的に距離を詰められた。



「そういえば説明の途中でしたが、無論タダでとは言いませんよ」



 にんまりと笑うと女神がそっと胸の結晶体に振れる。

 すると次の瞬間、鎧が弾け飛んで元の肉体を取り戻した。

 色々あったが傷一つない、って、それよりもだ。


「給料出んの、これ」

「とりあえず彼レベルなら100万くらいですかね。強い相手なら500万、それ以上もあります!」


 一回ひゃ、100万!?

 いや、命のやり取りするなら安いのか?

 いやいや、なんで揺れてんだ俺……。


「ああ、でも今回は核の回収に止めたんでしたっけ? なら50万くらいにしちゃいましょうか」

「おい」

「冗談です。というか、お金でなくても良いですよ。女神なので、ある程度の願いなら何でも叶えられます」

「マジか……」


 もちろん最低限モラルのあるもの、他者の命や精神に直接影響を与えないモノでお願いしますと言いつけられる。

 加えて死人をこの世界で生き返らせる事は無理らしい。

 魂を異世界に送り生まれ変わらせる、とかなら大丈夫との事。

 もし願いを叶えたいなら細かい内容は会った時に話し合えるらしい。

 悪くないが……うーん。


「まあ、今回はお試しという事で報酬は振り込んでおきます! あ、それととりあえず元の場所に戻しますね」

「それは、ありがたいがまだ」

「残る話は次に会えた時にでも! 長く留まるとバレそうなので! ヤバくなったらまた呼びますね~!」


 問答無用で再び黒い霧に覆われ大きく溜息を漏らす。

 済し崩し的に彼女のボディーガードみたいな感じになってしまったが……願いが、叶うというのは後ろ髪が引かれるな。

 それに今回みたいに昇摂核を奪ってもOKなら誰も死んでいないし、俺は金を貰える。


 悪くない……気がする。


 物思いにふけっていると霧が晴れ、自宅に戻っていた。

 同時に懐のスマートフォンが鳴りカイジンの件のごたごたでネックレスを取りにいけなくなった旨が伝えられた。

 最寄りの交番に預けてほしいと言われそれを了承するが、正直届けるかは分からない。


 ふと、インターホンが鳴る。


 そういえばそろそろ姪達が帰ってくる頃合だ。

 ってヤバい、飯の用意してねえ!

 二人を出迎えながら、一先ず俺は日常へと戻った。 




 ◆




 なろうマン――成見太郎と真紅のカイジンの戦いが終わってしばらくして、バラバラになった男の元に純白のカイジンが舞い降りる。

 それに気付くと脈動していた欠片は動きを止め、無事だった眼はその姿を捉えた。


「随分派手に倒されましたね、エクィエ」

「フリエスト……」


 純白のカイジン――フリエストが右手を欠片に翳すと、まるで時間を巻き戻したかのように真紅のカイジン――エクィエが復元されていく。

 ただし以前心臓の位置にあった核が不在の為か、復元が完了する直前に全身に亀裂が入りエクィエは膝を付く。


「ちっ……やはり核を取り戻さないとダメか。ありがとうフリエスト、これでいい」

「そうですか。では……エクィエ、クラウンから伝言を預かっています」

「伝言?」

「はい。貴方は――――」



 我々から――エンド・ルケイアから追放です。



「は、はぁ!?」

「昇摂核を失った貴方は肉体強度こそ常人以上ですがそれ以外は常人以下です。ティファレート探索に同行するとかえって脚を引っ張る事になる、との事」

「そ、そうかもしれねぇが……だからって追放って、それじゃあ……」

「こちらの世界でも、あちらの世界でも、貴方の価値は孤独でこそ輝くのだとクラウンは判断したのでしょう」

「それは……そんなの、そんなの認めねぇぞ、俺は!!」

「……拾った命は大切にしてください。私はこれで」


 フリエストは彼に背を向け飛び立つ。

 エクィエはそれを追わず、そもそも追えない。

 仲間だと思っていた者達に見捨てられ、しかし今の自分にはそれを追いかける力すら無い。

 核を失った彼を構築するのは何よりも硬い肉体とそこに残った意識のみだ。

 喪失感の次に襲ってきた憤怒にウクィエは静かに俯き、拳を強く握る。



「ティファレート、クラウン――――なろうマン。絶対に、許さねェ」


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