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04

「お前……もうちょっと良い感じの名前があるだろうがァ!」

「そこぉぉ!?」


 怒号と共に飛び込んできた赤いカイジンを躱して距離を取る。

 一応学生時代に軽い護身術は習っていたが、正直戦えと言われても……。

 この姿になって、なんとなく"やれる事は分かる"。

 だけどこの場合の終わりってつまり、そういう事だよな。


 どれだけ悪人でも、どれだけ悪行を成したとしても、それを俺が憤ったとしても、それだけは躊躇われる。

 だが制圧は必要だ……あるて程度痛めつければ引いてくれる事を願って!


「なろうアックス!」

「名前ァ!」

「気にするなって、俺が使うモノだろう?」

「イチイチ声に出すんじゃねぇ! シリアスに戦いテェのに気が散るじゃねえか!」

「いや正直なとこ戦いたくないんですけどね俺は!」


 両手に出現した白銀の斧を振りかざす。

 思いっきり凶器だが、素手で家屋を破壊する肉体相手には少々心無いモノに見えた。

 だが乱雑に振りかぶったソレが相手の鎧を微かに削ぐと、相手は警戒し双斧を警戒し始める。


「馬鹿な事ほざく割にガチでやってくるじゃねェか。育ったら厄介な感じがピンピンするぜ」

「そりゃどうも。でも正直これっきりにしてほしいんですがね」

「馬鹿を言え。ティファレートに目を付けられたんだ。死んでも粘着されるし、アイツと関わる限りオマエは嫌でも俺達とぶつかるぞ」

「……うーわ面倒臭くなってきた。もうそいつ引き取ってもらうかな」

「えぇ……それなら、っておい何処行った!?」

「? 何処とは」

「オマエじゃ無ェよ!」


 周辺を見渡すが先ほどカイジンが放り投げた肉塊は何処にも無い。

 それどころかあの痛々しい血溜りすら嘘のようになくなり、しかし衝撃で壊れた床がその事実はあったと鮮明に告げている。

 あの程度では死なないと言ったのは、本当だったのか。


「どうしてくれんだよ……折角、ようやく見つけ出したのに!」

「す、すんません」

「謝って済む話じゃねぇ! 次邪魔されても面倒だ――――オマエ、ここで死んでろ」


 カイジンの姿が消える。

 同時に、背後から強い衝撃が走り次の瞬間には胸部に衝撃が加えられ一瞬息が出来なくなる。

 心臓が止まったとさえ思えた。

 いや、実際に止まったモノが無理矢理この鎧に動かされたのかもしれない。

 膝を床に着けるもギリギリで踏みとどまり、双斧を構え周囲を探る。


「遅ぇよ」

「――――ッ!」


 右腕がありえない方向にねじ曲がった。

 斧が落ち霧のように霧散する。

 左手で右手を押さえつけると次の瞬間には治ったような感覚がしたが、即座に背後から攻撃を受け前に突っ伏す。


「昇摂核を潰せばお前も終わるだろう。恨むなら俺と女神を恨みな」


 カイジンに蹴飛ばされ仰向けにさせられる。

 そして胸の発光体に手を伸ばすと、それを力任せに俺の胸へと押し込んだ。

 否、俺の心臓ごと潰すつもりなのだろう、それを。


 死の予感を、終わりを感じる。


 抵抗をしなければならない。

 

 眼前のコイツを倒さないといけない。






 ――――すまない。






「あん、今更何を――――はぁ!?」


 左手でカイジンの腕を掴み、右手をカイジンの胸へと当てる。

 次の瞬間右手から真っ白な光の奔流が溢れ出した。

 それは軟体動物の触手のようであり、あるいは太陽の冠のようでもあり。

 

 触れたモノを全て削り、断ち切っていく。

 家屋の天井であれ、外で立ち尽くしていた若木であれ、カイジンの硬い装甲であれ、まるでケーキをスプーンで掬ったかのように、簡単に。


「離せ、離しやがれ!」

「……悪いな」

「く、クソッタレ――!」


 カイジンが俺の胸を潰すよりも早く、光はカイジンの片腕を切り裂いた。

 残ったのは俺がしっかりと絡め取った右腕のみ。

 狼狽するカイジンを他所にゆっくりと光を束ねるように意識する。

 拡散から収束へ――――次の瞬間にはカイジンの鎧は幾重にも切り裂かれバラバラの欠片へと裂かれた。


 息を整えてゆっくりと立ち上がる。

 既に彼の腕に光のゆらぎは無い。

 カイジンの欠片を見下ろすと、それは驚く事にまだ生きているらしく小さく蠢いている。


「……昇摂核とか言ってたな。お前もそういうの、持ってたり?」

「や、やめ」

「これか」


 カイジンの身体の中から黒い手のひらサイズのガラス玉のようなモノを見つける。

 それを透かして見ると、その中には細かな光が無数にあり、まるで星空をその中に詰め込んでいるかのようだった。

 正直綺麗だと思った。

 でも多分、これを壊さないと終わらないとかそういうヤツだよな。


「じゃあな、カイジン」

「それだけは、やめてくれ、頼む。何でもするから」

「……ん? 今何でもって」

「何でもだ……それだけは、俺の命以上の価値がある。俺はこのままでもいい、だからせめて壊さないでくれ……」


 それは命乞い以上の何かを感じた。

 それは、そう、例えるならきっと俺も家族を人質に取られたらそう懇願するだろう、そんな必死さだった。


「それじゃあ約束。別に女神は追ってもいいけど俺の事は無視な」

「……良いのか?」

「ここらへんの甘さが後で悲劇に繋がるみたいな展開になったら、マジでこれぶっ壊してぶっ殺すからなオマエ」


 だから妥協案、この昇摂核とやらは貰っていく。

 ……口ぶりからするとこれ奪われてもワンチャン生きてそうだし。

 一先ずこの場を凌げたで良しとします。


「――――ありがとう」

「ご丁寧にどうも。良い感じにまとまったんだからバラバラのまま後ろから奇襲とかやめてね」

「し、しねぇし」

「そこで言葉に詰まるなよ……んじゃまぁ行くから、後は味方に助けてもらうなりしてもらえよ!」


 全速力で駆けぬけると学生時代では考えられないほどの、というか人間では考えられない程のスピードで足が動いた。

 きめぇ、いやすげぇ!

 オリンピック出たら最強なんじゃと思ったが明らかにドーピングだよなこれ!


「――――変なヤツ」


 後ろで何か聞こえたけど気にしない。

 そして走り出して気付いた。


 どこだよ此処。

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