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03

「…………それは卑怯だろう」


 ――――虚ろな人生だった。


 金持ちの家に生まれ、兄姉達は皆出世した。

 にも関わらず末の俺だけは一人こうして寄生虫のような生活を送っている。

 そんな俺が命を張って守れるモノは何かと問われれば、まあ家族くらいしか思い浮かばない。

 自分を金蔓としか思っていない奴らとも、まるで何も出来ない自分でもない、ただ俺の中で価値のある存在達。

 羨みも無いわけでも無いが二十代も半ばを過ぎれば尊敬の念の方が勝るというもの。

 ましてや可愛い姪の世話はサブカルチャーに並ぶ俺の癒しになっている。


 皆を危険には晒せない。

 でも、俺は。


「っ、悠長に話すぎました!」

「へ?」


 怒号と爆音が響き、部屋を構築していた壁の一面が剥がされる。

 そして瓦礫の合間からクラウンとよく似た、しかし狼のような意匠と赤く激った血のような配色を持つ人影が俺とティファレートの間に割って入る。

 コイツ、カイジンか――!?


「見つけた」

「っ、これを!」


 彼女の手にあったネックレスが俺の胸に放り投げられる。

 同時に現れたカイジンの右手がティファレートの首を掴み床面へと叩き付け砕き抉れた家屋を更に損壊させた。

 圧倒的な破壊力、ここまでの暴力を見たのは初めてだった。



 そして、人の形をしたモノが此処まで壊されるのも。


 彼女の血は、人のように赤く、その肉の内には骨さえもある。


 だが彼女は生きていた。


 首を握りつぶされ、両断されたにも関わらず首をぱくぱくとさせ現れたカイジンに感情の読めない視線を向けていた。



「上手く人間に化けたな。だが、この程度で死なない事は知っている」

「ア、ァ」



 彼女の頭部にカイジンの拳が振り落とされる。


 その一撃で彼女の端正な顔が歪み、裂けた肉から血が弾けた。


 それでもカイジンは殴るのを止めない。


 やがて原型の残っていない肉の塊を右手で持つと、カイジンはもう片方の手で綺麗なままの首から下を握り立ち上がる。



 ――――おい。



 ――――流石にそこまでやるかよ。




「待てよ」

「あん、誰だテメェ」

「女神に助っ人頼まれたフリーターだ。正直に断る気で居たが――――」



 ――――気が変わった。



 そう口を開く前に、カイジンは数メートル先から俺の鼻先まで移動しじっと俺の顔を睨みつけて威嚇する。

 一瞬で殺される距離、恐怖はある、一手間違えただけで死ぬが、打開の方法は分からない。


「お前見たいな雑魚が助っ人か? ハッ――――死にたくないなら邪魔しねェ事だ」


 啖呵を切れない。

 口の中で血の滲むような味がする。

 だが、その一瞬の沈黙が、打開のチャンスだったのだろう。



「握って、願って――――」



 ――――力を。


 肉塊より漏れた声に従い俺はネックレスを強く握る。


 熱い。


 それは火に触れた時のような熱さ、だが不思議と苦痛では無かった。


 自分の中で何かが変わる感覚だする。


 胸の内で何かが形作られていく。


 形なき価値が、形ある核へと。



「昇摂核!? いや、その前に――――死ねッ!」


 肉塊ごとカイジンの腕が俺の腹に叩き込まれる。

 本来ならばここで俺の命は終わっていた。

 だが、拳が振るわれる直前に全身を覆った光の膜がその衝撃を霧散させ、次の瞬間にはその打点を中心に純白の鎧が形成されていく。


 腹、肩、腰、腕、足、頭部、自らの姿は見えないがなんとなく目の前のカイジンと似た姿をしているのであろう事は想像出来た。

 ネックレスは俺の手から消え先ほどまで無かった蒼白色の発光体を装飾とし鎧の首元に巻きついている。

 それはまさしく、俺がテレビの中で見たような――――。


「ヒーローになんかなれるかっての、俺が。だけどな!」


 掌底を食らわせるとカイジンはろくな受身を取らず吹き飛んだ。

 だが即座に体制を但し、殺意と共にこちらを睨みつけ、女神の残骸をその場に放り投げた。



「カイジン……いや、お前、何なんだよ」

「何なんだろうな。本名は流石に拙い。なら、そうだな――――なろうマン」

「――――は?」

「今考えた。お似合いの名前だろ?」



 拳を構え、眼前のカイジンを見据える。

 もう後には引けない事は既に理解していた。

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