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婚約破棄宣言!……?

【短編版】婚約破棄?断罪?興味ありません。それよりこのロールキャベツ美味しい。領地にいる婚約者に食べさせたい!

作者: 春野美咲

展開がちょっとアレ(指示代名詞)。


 今日は学園の卒業パーティ。

 私も卒業生として華々しいドレスで身を包み、会場に座していた。

 卒業生を祝すために在校生の姿もチラホラ見えるが、今はそれよりも会場の端に並ぶ沢山の料理に目が奪われる。


(あぁ、王都の料理もこれで最後か……)


 私は男爵家の娘で、学園を卒業すればすぐに領地に戻ることになっている。

 もちろん、実家に帰ることになんの不満もないが、王都の食生活には少しばかり未練が残る。

 お肉、お魚、野菜……、どれもこれも新鮮なものばかり。

 調味料なんかは特にすごい!

 流石は王都である。国の最先端!!


(……それが今夜で最後か)


 少しばかり私が感傷に浸っていると、何やら会場がざわめき出した。


(何だろう?)


 せっかくこんなにも沢山の料理が並んでいるのだから、皆もトングを片手に食事に集中すればいいのに。


(いや、そうすると私の分が減る。やはり駄目だ)


 それに王都に別宅を持たない我が領地とは違って、王都住まい可能な子息や令嬢が大半だからそんなに料理には執着する意味がないのだろう。うん。


(その分私が食べてしんぜよう。うん、そうしよう)


 さあ、いざっ!! とトングを手に獲物(料理)を見定めていると、会場の中心から大きな声が聞こえてきた。


「今を以て、貴様との婚約を破棄する!!」


 円型の会場で私は壁沿いの一番端にいた。

 それなのにその言葉をはっきり耳にすることができたのは、声の発生元が頑張って声を張り上げた結果なのだろう。

 しかし、こんな晴れやかな舞台でそんなしらけるような話を持ってくる阿呆が一体どこにいるのであろう?


(最近流行りの茶番だろうか?)


 最近は婚約を破棄する! と言って実はこんな事情がありましたって感じで、本当は愛していた、的な最終的に周囲から見たら「なんだそりゃ」の一言につける茶番が流行っているらしい。

 なぜ明確に言い切らないのかと言えば、それは偏に私がその現場(会場)に居合わせたことがないからである。

 男爵令嬢の私が呼ばれるパーティなんて、同格の男爵家かあるいはひとつ上の子爵家によるパーティしかない。

 しかし、男爵や子爵家の子息やご令嬢がそう易々と婚約に関して宣言できる権利も余裕もない訳で、必然的にそういう場に私がはちあわせることはない。


(まさか卒業パーティで経験するとは……)


 世代が違ったなら「面白い現場に居合わせた!」っと自慢にもなるが、同じ世代だと将来「そういえば卒業パーティの時こんなことがあった世代」と思うのも思われるのもなんか嫌だ。

 いやだって、結婚して子供ができてその子供が学園に通って長期休暇の際に領地に帰ってきたとき「お母さんの世代の卒業パーティは……」なんて言われてみろ。ちょっと気まずい。


(どうかささやかな茶番で終わりますように)


 学園では時折何世代も前の話を脈々と繋いでしまうことがある。

 実際私が学園生活で耳にしたのだって「婚約者がいる相手に求婚してしまった可哀想な公爵子息」とか「公爵令嬢同士が同じ男を取り合って最終的に子爵令嬢に漁夫の利された」とか。

 まぁ、いい話では「婚約者に裏切られた令嬢に真の愛を捧げた王子」とかもある。


(まぁ、これは何十年も前の話で、今では幼子の寝物語にされる絵本にされているけど)


 私がそんなことをつらつらと考えている間に、いつの間にか騒ぎの発端は更に盛り上がりを見せていた。


「貴様がこれまで行ってきた罪、その全ては洗いざらい証拠を揃えてある。言い逃れはできぬぞ!!」


(あぁ、断罪系か)


 真実の愛、とかだったら面白そうだったけど、どうやらそうではないらしい。

 「なら興味なし」と私は改めて今宵最後の王都料理に向き合うのだった。



「証拠? そんなものがあるのなら今この場で提示して見せて下さいな」

「フン、よく回る口だ。どの口が言う!」


(口口うるさいな。あっ、このロースステーキすごい! 口当たり最高!!)


「貴様など私の婚約者には認められん! 白状するなら今のうちだぞ?」

「わたくしが何を白状することがあるのです?」


(わぁ……こっちのお肉、肉汁最っ高!!)


「なんと浅ましい女だ。この場においてまだ言い逃れをするのか」

「わたくし、これっぽっちも思い当たることがございませんわ」


(うわぁ、これ何? この噛みごたえいいの。どんな食材を使えばこんなになるの? 思い当たる調理方法も思い浮かばない)


「フン、ならば分からせてやろう。貴様の罪、それは……」



 ここで会場の誰もが息を呑んだ。

 その空気の変化に気がついていながらも、私は片手に持つトングは手放せなかった。


(このキャベツに包まれた物体はなんだろう? 紐で結んであるけど、この紐食べれるの?)


「……それは、私が真に愛する令嬢に数え切れないほどの嫌がらせをしたことだ!!」


 ここで、私の手はついに止まった。


「殿下っ!!」

「王族たる私の恋人に手を出したからには、その罪償ってもらうぞ!!」


(……うそっ!?)


「王族ともあろう方が、婚約者のいる身で恋人……! なんて堂々たる浮気宣言。その相手はやはり……」

「あぁ、そうだ。貴様がこれまで幾度となく虐げてきた……」


(こんなこと、本当にあるの!!??)


「……もう、怖がらなくていいんだよ。私達の関係を隠す必要はどこにもない! さぁ、僕だけの花姫」


(まさかっ……!!)



 会場は静まり返った。

 騒ぎの発端たる男が一歩踏み出せば、会場の中心から男の踏み出した先である会場の端まで一筋の道が作られる。

 卒業生と僅かな在校生で埋め尽くされていたはずの会場は、一人の男が一人の女性のもとまでを辿れる一筋の線を作り上げた。

 それは王族がなせる技か、あるいは愛の力によるものか。

 殿下と呼ばれたその人は一歩ずつ、踏みしめながら進んでいく。


「もう誰にも、僕たちの邪魔をさせやしない。今宵から君が素直に僕と言葉を交わせるようになる」


 そして、彼がたどり着いた先には………………!


「さぁ、今の気持ちを素直に話してくれ!」


 私は彼に手を取られ、この感動を胸に叫んだ。


「……これっめっちゃ旨い!!!!」

「…………………………え?」


 急に手を取られ、つい無意識のうちに心音が口から零れていた。

 そしてたった今感じたこの感動を語らずにはいられない。


「これ、すごく旨い! キャベツに包まれたその中には肉汁たっぷりのお肉。外はシャキッと言う食感を残しながら中はじゅわっという感動をもたらす……。しかも、その肉を包むキャベツを更に包む一筋の糸。これはなんとこの国でも珍しい帝国産の『メン』と言うやつです!! 噛めば簡単に切れ、そのやわらかさのどこにも芯は存在しない! ならば一体どのようにしてこのキャベツを包み、結び目を施したか?! 料理人の腕が確かなことはひと目で間違いがないと言え、この口当たりの良さも恐れを抱くほど! 『すみません、料理長に一言』と言われてもおかしくないですよ!!」

「…………………………」


 私が興奮のままに語ると、やはり会場内は静まり返っていた。

 あら? と思った頃には時すでに遅し。

 眼の前には殿下、目がすごくまん丸いがこんな顔だったっけ?

 その後ろには目を見開いてこちらを見つめる一人の令嬢。あれ、公爵令嬢様かしら?


「…………………………、お初にお目にかかります殿下。今宵のパーティはなんとも賑やか……、ではないですが会場もとても華々しく……もないですが、殿下のご卒業を心よりお祝いするような良い天気ですね」


 もう夕暮れで外は赤く染まりつつある。

 良い天気、と言えるかは少し不安な空だが夕陽が差し込んでいるのだから問題ないだろう。

 慌てて表情と態度を取り繕ったものの相手の反応が薄い。ニコッとしてみたがやはり薄い。……アウトだったかな?


「……あ、ぁあ、ありがとう。君の素直な気持ちが聞けて嬉しいよ」

「いえいえ、この会場にいる誰もが殿下のご卒業を祝福しております」


 もちろんこの会場の大半も同じ卒業生ではあるが、王族が何事もなく無事に卒業できるのだ。

 喜ばぬ国民は一人としていないだろう。


「……あぁ、君からその言葉が聞けて嬉しいよ。……でもせっかくこうして皆の前で直接話せるようになったんだ。もっと君の素直な言葉が聞きたい。……僕の言ってる意味、わかるよね?」

「……えっと、………………何かお話することありましたっけ?」


 そもそも今まで対面したことがないのですが?

 静まり返る会場は全く元の騒がしさを取り戻すことがない。

 ドレスの擦れる音すらしないのだが、皆生きてるのだろうか?

 殿下は未だに私の手を握って呆然としている。


「……何って……、も、もう、恥ずかしがらなくていい。怯えなくていいんだ。君を貶める者など、僕が追い払ってあげる!」


 だから、素直な君の気持ちを聞かせてほしい、と彼は言葉尻に付け足した。

 気のせいか握られていた手の力が強まった。


「ぇっと、……本当に素直に申しても?」

「ああ!」

「不敬には……」

「ならない! 誓うよ!」

「…………」


 王族である彼が誓いを立てる。

 私が何を言っても寛大な心で許す、と言うのだ。

 だから、私は先程から思っていた次の言葉を素直に声に出して言うことができた。


「……なら今すぐこの手を離して下さい」

「…………え」

「今すぐこの汚い手を離して下さい」

「…………え」


 二度も言ったのにまた聞き返された。

 難聴?


「…………っ、ぁあぁ、君の手が汚いなんてそんなことあるはず」

「いえ、殿下の汚い手を私の手から離して下さい」


 ずっと思ってたが、殿下は言葉の汲み取り、というか文脈が苦手なのだろうか?

 彼が先程喚いていたことも、何だか文脈的におかしい部分が耳に入っていた気がする。


「…………………………」


 何を申しても不敬にはならないと言ってくれたが、この手を無理やりはたき落とすのは流石に不敬に問われるだろうか。

 そんなことを考え始めた頃に、彼はゆっくりとだが私から手を離してくれた。

 ほっと息をつく。


「……確かに、君以外の女性に触れた手で君に触れるなど、君が怒っても仕方がない」


 ん?


「君がこんなにも正直にやきもちを焼いてくれるなんて、嬉しいよ」


 何言ってんだこの人?


「けれど、もうなんの心配もしなくていい。ヤツとの婚約は破棄した。今この瞬間から君が僕の婚約者だ」

「頭湧いてんのか」

「え?」

「…………」


 しまった、つい本音が。


「いえ、何をおっしゃっているのか……」


 私にはよく分からず……、と曖昧に誤魔化す。

 というかそろそろ食事を再開したい。パーティ終了までのリミットが……!

 今夜は全制覇すると決めてたのに。

 このまま無視して食事を再開しようか。

 殿下に挨拶を述べる寸前に置いたトングにそっと手を伸ばす。

 しかし、残念なことにトングを手に取る寸前に殿下はまたその汚い手で私の手を引いた。まじで何なの?


「君の今の気持ちも理解できる。突然のことで実感が湧かないんだろう」


 いや、湧いてますよ。貴方の頭が。


「だが、もう何も我慢しなくていいんだ。君の本当の気持ちを教えてくれ」

「……よろしいのですか?」

「あぁ!」


 彼は力強く頷いた。


「では……」


 一度息を吸い、吐く。


「さっさとその汚らしい手を離せ頭湧き上がった噴水野郎」

「……」

「食事を再開したいのに貴方が話しかけてくるせいでトングを持てない。パーティ終了まで時間がないんだから用があるなら簡潔に話して下さい」

「……」


 そこまで言ってもなお、何故か彼は一向に手を離す素振りを見せない。

 もういいだろうか、と私は無理やり手をひねって外した。


「……き…………きき、きみっ、君も素直じゃないね。……それも仕方ないか、僕たちがこうして公の場で対面することなんて初めてだから。でも、少し悲しいな」


 私も悲しい。全然話が終わってくれない。


「そうだ、たしかに僕はまだ言葉にしていなかったね。ちゃんと言うよ」

「………………」


 彼は跪き、私の手をもう一度取ろうとして……、諦めてそのまま私を見詰めて言った。


「僕と結婚してくれ。僕の婚約者になって欲しい。僕は君を愛して、」

「無理です」


 即答した私に、彼は固まる。

 というかずっと思っていたがこの人何言ってんだろう?

 初対面の女性口説くとか本当に湧き上がってるな。

 周囲も先程から少しばかりざわめきを取り戻しつつある。

 ヒソヒソという音を背に、彼は言い募る。


「て、照れなくともいいじゃないか」

「照れてません」

「もう、勝手なことをした僕に対して怒っているのかい? たしかに今日のことは君になんの相談もなく……」

「いえ」


 ここで、私がなにか勘違いをしているような彼にきちんと伝えることを決めた。


「わたし、すでに婚約者がおりますから」

「……は?」

「ですから婚約」

「あ、ぁあ、僕のことかい? 全く、君はひねくれているね。拗ねているのかい? でも僕はそんなところも好」

「違います」

「…………」


 どうして彼とはこんなに話が噛み合わないんだろう? 相性が最悪なのだろうか?

 そもそも初対面だ。話が合わなくて当然なのか?

 でもこんなにも話が合わないなんて……。


「私、学園に入学する前から婚約者がおります。婚活なら他の方にして下さい」


 もしかして今の婚約者から離れたくて適当に私に声をかけたのかしら?

 勝手すぎじゃない?

 せめて相手作って打診してから事を起こしてほしい。

 あぁ、時間がどんどん過ぎていく……。


「な、どうして? 君は僕のことが好きなんだろう?」

「なぜそんな発想に至るのですか? 私は婚約者を愛しています。殿下のことはなんとも」

「だからそれは僕のこと」

「違います」


 本当に話が通じない。

 もしかして人違いでもしてるのかしら?

 いや、流石にこの距離で間違いって……。

 間違えたけどもう引けないから、とか?


「君は僕のこと愛して」

「ないです」


 でも、仮令一時でも婚約者以外の男を好きなんて言いたくない。というかこの人と婚約者に思われたくない。


「…………もういいですか?」


 我慢できずに彼の返事を待たずにトングを片手に料理の品定めを再開する。

 トング持った令嬢に話しかけるなんてよっぽどの常識知らずか……。


「待ってくれ!!」


 阿呆である。


「そ、その婚約者とは誰なんだ!!」

「……………………領地にいる方ですが」

「学園にはいないのか?!」

「いないですね」

「年上か?あるいは年下?」

「同い年ですね」

「………………」


 もう彼とは対面もせず肉や魚を皿に盛り付けていく。

 話しかけるなオーラは王族には効かないらしい。


「まさか、……平民なのか?」

「そうですが?」


 彼は絶句したようだ。

 何をそんなに驚いているんだ?

 王都に設立されたこの学園は言わば貴族学園。その学園に通わないということは貴族以下、平民であることを示している。

 男爵令嬢が平民と結婚なんてそんな珍しいことでもあるまい。

 私にはまだ学園に通っていないが既に自身の婚約者と仲睦まじい三つ下の弟がいるし、いざとなれば父方の従兄弟もいる。無理に家督を継ぐ必要もない。

 というか婚約届はすでに国に提出しているわけだし、この王子が知らないことのほうが不思議なのだが。



「……貴女、殿下と逢瀬を重ねてたわけじゃないの?」


 急に横から話しかけられたかと思ったら、相手はまさかの公爵令嬢だった。

 さっき目を極限まで見開いてた人ね。正面から見ると美人だわ。


「何故男爵令嬢である私が殿下と逢瀬を?」


 不敬は問わないとすでに殿下から言質は取ってあるので、公爵令嬢様にも遠慮なく素直に言葉を告げる。

 彼女はまた一度目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻したのか「お邪魔して悪かったわ」と言ってカーテシーをしたらスタスタと去っていった。

 意味がわからない。


「……そんな、そんなはず……。っ僕たちは愛し合っていただろう?!」


 だが、そんな彼女を彼にも見習ってほしい。

 というか本気で何言ってんのこの人?

 もはや人なの? 宇宙人じゃない?

 言葉通じなすぎじゃない?


「いえ、私が愛するのは今も領地で私の帰りを待っている婚約者ただ一人です」


 というかもう料理制覇は諦めるべきだろうか?

 ……最後の王都料理。


「そんなはず!!!! っっっつ!?」


 突然彼に強く腕を引かれたかと思えば、それはアッサリ外された。


「……この愚息が」


 会場が一気にざわめく。

 それもそのはず。

 今、突然目の前に現れ王子殿下を押さえたその人は、この国の最高権力者。

 国王陛下、その人だったのだから。


「男爵令嬢、愚息が迷惑をかけた」

「い、いえ……」


 眼の前の人に圧倒され、上手く言葉が出てこない。


「詫びと言っては何だが、其方が以前役所に申請した他国共通パスポートをすぐにでも発行しよう」

「!!」


 他国共通パスポート。これを持っていれば近隣周辺国を自由に行き来できる。

 それは私が一年前に発行申請を出したものだ。

 通常なら二年から五年は待たなくてはならないものだが、王族権限でその期限を早めてくれるらしい。

 なんと有り難いこと。


「確か其方は卒業後すぐに式を挙げ、新婚旅行に行く予定らしいな」

「よ、よく、ご存知で……」


 一体どこからそんな情報が……?

 確かに明日領地行きの馬車に乗って帰ったらすぐに式の準備だ。

 式が終わったあとは少し新婚生活を楽しんだ後、まずは国内旅行。観光地をあらかた回った後、パスポートが手に入り次第他国に旅行に行こうと婚約者と予定を立てていた。

 両親にもそれとなく話してはいたが、なぜそれを陛下が?


「なに、卒業してすぐ婚姻など下位貴族の中では珍しいからな」


 確かに、下位貴族の殆どは金銭的問題で婚姻やら式挙げは後回しにされることが多い。もちろん花嫁修業のような形で嫁婿が嫁ぎ先で住むことはあるが、やはり金銭面的にすぐに婚姻までは運びづらい。

 え?

 だからってその後の予定まで知ってる理由になる?

 …………あ、パスポートの発行期限早められないか、それとなく打診したときに受付の人に話したけど、……まさかそれで?


「少し気が早いとは思うが、おめでとう」

「……ありがとう、ございます」


 いや、未だに陛下の登場に動揺を抑えきれない。

 それは会場の皆も同じなようで。


「せっかくの華々しい日に、愚息が本当にすまなんだ」

「…………」

「愚息の婚約者殿が報告に来なかったら、一体どうなっていたことか」


 あ、さっきの……。

 陛下に報告してくれたのか、殿下の奇行。流石は公爵令嬢様、できる女性。

 やけに静かだなと殿下の方にちらりと視線を向ければ、なんと彼は気絶していた。いや、なんで?


「良ければ、もう一つ詫びに王都で有名な料理店でのフルコースを味わえる席のチケットを二枚ほどつけよう」

「え!」

「今宵の料理はすでに冷めてしまっているし、パーティももう終わりだからな」


 何という大盤振る舞い。最高かよ陛下!


「新婚旅行が終わった暁には王都にまた来るといい。もちろん交通費も出そう」


 え、神?

 婚約者の彼を王都に連れて来られる?


「其方も婚約者殿に王都の旨い料理を食べさせたかろう」


 神だわ。

 もう我が国の国王は神だわ。間違いない。

 コソッと小声で「愚息の迷惑料としては足りるだろうか?」と問われ私は勢いよく頷く。

 「いいえ却って多すぎます!」と声にして言わないのはやはり婚約者とともに王都に来れる喜びからか。


「……改めて。其方も、そして皆のものも、卒業おめでとう!」


 会場の空気は全て、陛下が持って行ってしまった。






 この日、この卒業パーティは伝説となった。

 それは殿下の珍行、陛下の寛大な采配、そして男爵令嬢の一蹴。その全て。


 これは、そのお話を文として誂えられた物語である。




 ちなみにその後殿下は廃嫡、病棟送り。精神疾患があると王族専属医が判断した。

 彼の元婚約者は、新しく侯爵子息の婚約者を陛下に紹介してもらい以前より輝くほどに美しくなったとか。

 陛下はこの事態の収拾から、卒業世代の若者とその保護者からの支持層を増やした。


 そして、一人の男爵令嬢は無事領地に戻り、婚約者と婚姻を結んで式を挙げた後、王宮より発行された他国共通パスポート二人分を手に国を出たそうだ。

 お相手は平民ではあったが、新婚旅行の最中商売しながらの道のりであったそうで、帰ってきたときには伯爵家に並ぶほどの資産を携えていたそうな。

 彼らが王都を訪ねるとき、この物語はすでに国中に広まっていた。


最後までお付き合いくださりありがとうございます。

少しでも面白いと感じて下されば、評価コメントしていただけると嬉しいです。


ここからはちょっとした言い訳。

興味ない方は無視して結構です。


実は本当は違う話を思いついたのですが、実際書いてたら何故かこの展開になってしまいました。自分でもちょっと不思議。

いつか本命の方を書きたいのですが、これはこれでアリだなと思って別作品として公開します。

以上が言い訳でした。

後書きにこんなの書くってどうなのでしょう?


小ネタや裏話はツイッターで少し溢す予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王子のムーブが完全にストーカーのそれという そして絶対異国の特産品とか仕入れてきてるわこの子 そしてそれを婚約者と二人三脚で自国風にアレンジしてるんだ……
[一言] えーと、面白かったんですが王子は真面目に精神疾患が?
[良い点] 大笑いしました。確かに美味しいものに集中してる時に、横槍入れられたくはないですよね(笑)しかも、言ってる意味がわからないなら尚更。そこをあからさまに言ってしまう主人公(一応言質は取ってると…
感想一覧
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