第一話 ファンタジー
山脈が連なり、滝が崖から流れ落ち、草原が広がり、その間を川が流れ、村へ町へ王都へと続いていく。王都。その城下町の中央にある、東塔の汚いフクロウ小屋。
さて、ぼくは別に難しい話をしたいわけじゃない。
竜が火を吐くこととか、不死鳥が死んでもよみがえるように、思ったことが思った通りに起きることはきちんとあるわけで、ピアノの音階も数学が抽象的であることも自明の理だ。
さて、ここまできてぼくが何を言いたいのかと言うと、言いたいことはいたってシンプルだ。
「死後の世界ってあるのかな?」
誰もが一度は思う疑問。
王都の中にある城下町なんて見飽きてしまったぼくははお城の伝達フクロウ小屋で、山脈の峰々を眺め、あの向こう側には何があるのか、想像していた。
もちろん、地学で学んだことや、歴史学で学んだことなんて、本物じゃないから、面白くない。哲学なんて信用ならないし、「死んだ後にどこへ行くの?」と聞いて回ると、お父さまには怒鳴られ、お母さまには悲しまれる。
騎士見習いたちに聞いてみると、「死ぬのが恐いから、そんなこと聞くんだ」なんて言われる始末だ。
そういうんじゃないんだ!
ぼくは純粋に死んだら、どうなるのかを知りたい。死後の世界を感じたい。
試しに死んでみようか、と思ったことがある、戦争で、仲の良かった兵士が死んだときに、お母さまが「大丈夫、いつかきっと同じところに行けるわ」なんて言うからさ。
でも死後の世界(お母さまの言う同じところ)がなかった時に、ぼくはどうなっちゃうんだろうって、ずっとずうっと考えて出した結論は、死なないことだった。だって、どうなるかわからないから。
今のぼくにはには判断のできないことがいっぱいある、とお父さまは言う。国を治めている人が言うのだから、たぶん間違ってないと思う。国を治めるというのは大変なことなのだ、と教師をしてくれる学者たちが言う。
いつかぼくももお父さまのように国を治めるのだ、と言われる。でも、ぼくははそんなことはしないつもりでいる。まだ誰にも言っていない秘密だ。
ぼくは「みそぎ」を終えたら冒険に出たい。騎士見習いたちに戦い方を教わっているし、剣の先生だっている。だから、自分の身の安全は守れるようになれるはずだ。「みそぎ」で本当の名前を知って、魔法だって、ちょっとずつ使えるようになるはず。
冒険をして、いろんなことを知りたい。絵空事だって笑われてもいい。王子様であることの重荷から逃げたいわけじゃない。冒険がしたい。土のにおいを嗅ぎたい。街灯のない夜で満天の星空を見たい。草原を駆け回りたい。そして。
仲間を見つけたい。
「そうだ。ぼくはは仲間を見つけたいんだ。きっとあの山の向こうに、ぼくのの知らない世界が、人々が!」
フクロウ小屋でそんなことを妄想するのが、みそぎを控えたぼくのの日課になっていた。
これから始まるぼくの冒険は誰もが知る伝説の英雄譚として後世に語り継がれることになる。七人の導かれし仲間たちの一人として、ぼくは「死後の世界」と戦うことになる。
しかし、今はまだ、そのことについては触れないでおこう。
今は、まだ――。