08話 「あ、ごっめーん!」
起こされなければ昼までは寝ていただろう大吉は、これまでに聞いたこともない大きな音で目を覚ました。
どごぉおおおおん‼︎
「なんだ⁈ 地震か⁈」
パンツ一丁でベッドから飛び起き、自室の真ん中で感覚を研ぎ澄ます。
軽く振動もあったため、地震かと思ったが、どうやら様子が違う。
建物が揺れていないことに気づいた大吉は昨晩のことを思い出し、クゥのいる部屋のドアを開けた。
「大丈夫か⁈」
「あ、ごっめーん!色々実験してたら床に穴空いちゃった!」
テヘッと可愛らしく言って見せる黒髪の少女。三つ編みなのは昨日と同じだが、桜の飾りがついたピンで、前髪を止めていた。
桜のピンも気になったが、それよりも大吉の目を奪ったモノがあった。
それは昨晩荷物を退けて広げたばかりの机横の床――。そこには拳がすっぽり通るくらいの穴が空いていた。プスプスと焦げた臭いと共に少量の煙をあげて……。
「……床が……」
大吉が悲痛な顔をしてのぞき込むと、下の階の店舗部分が見える。
穴は客席のテーブルの真上で、アーティファクトの展示部分が無事そうなのが救いか……と項垂れる。
「色々実験してたら面白くなって止まらなくなっちゃって──……。
なんとか直してみるからさー、ちょっと待って?」
謝罪こそあったものの、あまりの軽いノリに大吉は、涙目になりながら叫んだ。
「あんた……中身本当に三十五歳なのか⁉︎ これがいい歳こいた大人のすることか――⁈」
修復にかかる費用と時間を想像するだけで目眩がする。これからのことを考えねばと、右手を腰に、左手で顔を覆った時、室内の変化に気がついた。
「な…⁈ なんで部屋がカントリーちっくな草色の壁に……⁉︎ 模様まで入って……」
「えー昨日、帰れるまでこの部屋好きにつかって良いって言ってたじゃない? なんなら模様替えもしていいって」
(模様替えの模様は壁の模様のことじゃないだろう……!)
その、あまりのすれ違いっぷりに脱力して言う大吉。
「言ったけどな……」
何をいっても無駄そうだ――ということもあるけれど、部屋全体を見回してみて、まぁこれも悪くない。そう思って大吉は妥協することにした。
「部屋の模様のことは良い。
ただこの穴はなんとかしないと……店が開けねぇ…………。
発掘で大した成果もなく帰ってきてるから、店は開かないと今月厳しいんだよ……」
がっくりと項垂れてる大吉を見て、少々申し訳なさそうにクゥは言った。
「三十分くれたら多分なんとかできると思うんだけど……」
「……どうやって?」
と問う大吉。
「そりゃーもちろんアーティファクトで穴を修復」
キッパリと言い放つクゥだが、大吉はそんなアーティファクトを、見たことも聞いたこともなかった。
「それより、早く服着たら……? いやまぁ、あたしは別に構わないんだけど」
クゥの視線に、自分がパンツ一丁だったことに気づいた大吉は。急ぎ部屋から出てドアを閉めつつ、顔だけ出して言った。
「…………じゃぁとりあえずやってみてくれ…………俺は下に店を開ける用意しに行ってくるから…………」
そう言ってパタン、と扉を閉めた。