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07話 「クゥの姿」

「え⁈ なにこれ⁈ 誰⁇」

「いや、だから君だよ君。

 タネも仕掛けもございませんこちら、アーティファクトでもございません。向かいの金物屋で購入しました普通~の盆でございます」


 自分はなんでこんな口調になってるんだろうと思いながら鏡代わりに見せている盆の説明をする。


「確かに若い頃の自分のようだけど…………そういえば大吉、身長は何センチなの?」

「百九十くらいだが?」

「まっすぐ立って!」


 クゥが突然カウンターのキッチン側にやってきて大吉の隣に立つと、その身長差からクゥの身長は百五十位だとわかる。


「あたしの身長が……低い…………」


 そう言ったっきり立ち尽くし、しばしの沈黙が流れる。

 大丈夫か? と心配して大吉が覗き込むと、クゥは目を輝かせて両手を拳にして震えていた。


「なにこれちょー面白い! アーティファクトってこんなこともできるのね⁉︎」


 クゥはカウンターの元の椅子へ飛ぶように戻ると、カバンから何やら手のひら大の薄い物体を出して大吉に見せてくる。


「見て。コレ」


 その板にはクゥとよく似た雰囲気の、クゥより大人っぽい女性が小さな子供二人と写っていた。


「この写真は、あたしと子供達。ちょっと昔のなんだけど、可愛いでしょ~!」


 子供は二人共ものすごい笑顔で“幸せそう”の一言に尽きる。


「……これが……本当の姿だと…………?」


 映像記録のアーティファクトとも違うそれに、興味津々だし手に取って舐め回すように見てみたかったが、大吉はその衝動を抑えてクゥが自分だと言ったその写真とやらをまじまじと確認した。


 確かに似ている。手につけている腕輪も同じだ。


「どういうアーティファクトが姿を変える力を持つのかしら! 色々確認しないと!」


 嬉々として言うクゥ。


「そんな話、聞いたことがないぞ…………姿を、年齢を変えるようなアーティファクトがあるだなんて…………」

「あ、自己紹介の途中だったわね! 生まれた年は一九八三年よ。あたしのところではこういう物を作る人のことを“ハンドメイダー”と称しているのだけど、おそらく──この世界の、過去からの旅人っていうことになるのかしら」


 思いもしなかった内容の嵐に大吉の思考は全く追いつかない。


「君のつけているブレスレットはおそらくわたしの作品で、証拠はコレ」


 人の言葉を無視してどんどん先を進める様は確かに三十五歳くらいのおばちゃんな感覚だ。

 大吉は諦めて、クゥが出そうとしている物を待つ。

 クゥは斜めがけにしていた方の鞄の中から小さな缶のケースを取り出して蓋を開け、それを大吉の前に置いた。


「ほらこれ見て」


 言われて中を確認すると、何やら小さなパーツが山のように入っている。


「…………⁉︎…………」


 見覚えのあるパーツに、大吉は目を見開いて驚いた。するとクゥは、缶を再び手に取りまだ半分くらい残っているコーヒーのカップをどけて横に置き、缶の中からパーツを一つ取り出して皿の上に置いて、大吉に差し出した。


「この碧空の文字、大吉のブレスレットのと見比べてみて? 同じでしょう?」


 見比べてみると確かに同じだった。

 クゥのテンポについていけていない大吉は、出された物を見て驚きつつも、さらっとものすごい内容の自己紹介を聞いた気がすることにようやく気付いた。


「一九八三年生まれ⁇」

「そう。あたしのもといた世界は二〇一七年。ちなみに今は何年?」

「二二〇八年と公では言われているが…………」

「一九〇年くらい先か…………大吉の歳は? 職業は?」

「俺は二十三歳だ…………職業は喫茶店オーナー兼、何でも屋みたいなこともしている。遺跡探索とかこなしながらアーティファクトを集めて、といった…………ちなみにアーティファクトの修復製作は修行中だ」


 流されるままに自分もざっくりとした自己紹介をする大吉。


「あたしの経歴等のことについて、信じるかどうかは大吉次第だけども。

 まぁこれも何かのご縁…………しばらくよろしくね!」


 そう言ってにっこり笑うクゥに、もう脳みそがそれ以上働くことを諦めていた大吉は「こちらこそ」とだけ返して終わった。


 まさか、この喫茶店の2階に再び自分以外の誰かが寝泊まりすることになるとは……。

 そのようなことになると想像していなかった大吉は、取り急ぎ生活スペース等の説明をした。そして、クゥがシャワーを浴びているうちに、物置部屋として使っていた亡き両親の部屋を軽く掃除してそこへクゥを通した。

 話の続きは明日の朝、ということにして。


 今日大吉は、遺跡の奥深くに潜り、落石で閉じ込められ、生死のかかった状態に陥った。そこからの突然の出来事に、身体も脳みそも休養を要していて、襲い来る眠気に勝てそうもない。

 だが汗まみれのまま寝た後の、翌朝の気持ち悪さが思い浮かんだ大吉は、根性でシャワーを軽く浴びた。そして着る物もろくに着ずにベッドに潜り込むと、すぐに深い眠りへと誘われることとなる。


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