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04話 「突然の帰還と大吉の事情」

「いったいどういう……⁈」


 握られていた手を離し、クゥの閉じた扉を自ら開く。するとそこには、自分にとって見慣れた雑踏があった。


 時刻は夕暮れ。店の入り口である、今大吉が開いたドアは、クローズ表記で閉めてあったので、付近にはそれぞれの目的地を目指す人々が行き交っている。


「あれ? 大吉っちゃん、戻って来てたんかい?」


 向かいの店のおじさんが大吉に気付いて話しかけてくる。


「ん、あぁ……たった今な……」

「嫁さんが修理依頼があるっていうてたでよ、明日にでも顔出してやってくれや~」

「お、おぉ…………」


 おじさんの後ろ姿を見送り、そっと店のドアを閉める大吉。


「……………………」


 クゥとの話から、そういうアーティファクトもあるかもしれないと、仮説は立てていたが……まだ半信半疑だった。

 しかし自ら経験したことで、そういうことがあるのだと知ってしまった。これまでの常識を覆すような事象があることを。


(いったいどういうことだ⁈ 例え遺跡に眠るアーティファクトの力だと言っても、こんな力の物の話は聞いたことがない‼︎ 自分の好きな場所へ一瞬でいけるような力のものは…………⁉︎)


 と、混乱の極みで脳内がぐるぐるしている所に、大吉の心境などお構いなしな声が聞こえてくる。


「お~コーヒーのいい香り♪」


 その明るいトーンに、事実が再認識させられた。


 おそらく何かのアーティファクトの力で、彼女が自分をここに連れて来たのだという事実を。


「クゥ…………さん…………?

 話、いっすか…………?」

「店員さん、コーヒー一杯お願いしまぁす!」

「あ、はい」


 いつのまにかカウンター席に陣取り、ちゃっかり荷物も下ろしてくつろいでいるクゥを見て、一旦自分の疑問は置いておくこととした。


 大吉はカウンターのキッチン側へと行き、カウンター部分だけ灯をつけて、慣れた手つきで用意を始める。


「アメリカンとエスプレッソどちらがお好みで?」

「今はアメリカン!」


 豆をき終わると、お湯が沸くまでの間、大吉は腕を組んで背後にある冷蔵庫にもたれた。そして改めて、店内を楽しそうに眺めているクゥの身につけているアクセサリーに注視した。


 耳には質の良さそうなアーティファクトのイヤリング。服に隠れてトップは見えないがおそらくロングネックレス。


 そして目を見張るのが手につけているバングルだ。


 星空を模したような雰囲気の、大きな楕円形のカボション。その中には月を模しているのか、金色の金属片と大きな恒星を思わせる虹色に輝くブリリアンカットの一粒、そして小さな歯車が3つバランスよく入っている。


 これまで見たこともないような逸品いっぴんで、自分にも未使用アーティファクトの光が見えてきそうだ、と目を見張った。


 優秀なマスターや訓練された者は、アーティファクトの持つ力が明るい日中にもその光から視えるというが、製作や修理を相方にを任せて遺跡探索ばかりしていた大吉には、暗闇でなら淡く見える程度。


 クゥと名乗る少女の付けている物がどれほどの力を持つのか、大吉には知るよしもなかったが、逸品なのだろうと目が離せなかった。


「素敵なお店ね。置いてある物も素敵…………」


 店のアーティファクトコーナーには、年代を感じさせるアーティファクトが並んでいる。アクセサリー、置物、それらの物品がうるさくない程度に並べられ、壁にもネックレスタイプのものがかかっている。


「ありがとう…………今ここにあるやつはな…………ほとんど相方が作ったり修復したりしたやつなんだ。

 発掘がうまく行ったら出せるってだけの、喫茶店のかたわらの事業なんだけどな…………」


「その相方さんは今はどこに?」


「…………半年くらい前に、流行病で死んだよ…………」


「それは…………立ち入ったことを聞いちゃってごめんなさい…………」


 申し訳ないような、悲しげな表情でそう言ったクゥに、


「いや、気にしないでくれ。

 生き死には人にどうにかできることじゃないし、運とか縁がある…………」


 大吉は相方の最後の言葉を思い出しながらゆっくり話した。


「俺が助かったのも運だ。

 俺はかかることなく超健康で……看病もしてたのにな……。

 あいつは……逝く直前にな…………ご縁だよって――――」


 大吉は自分は何故こんな話を初対面のこの人に話しているのか分からなかった。


 親しい友人にもあまり話さなかった相方の最後の言葉のことを。


「まぁ気にしないでくれ。

 もう大分割り切ってはいるから」


 そう言って、慣れた手つきで静かにコーヒーを淹れ、クゥの前に置く。


「そ…………か…………」



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