02話 「アーティファクトを知らぬ少女」
それはあっという間に異常なほどの光を放ちはじめ、慌てた大吉はストップをかけた。
「ちょ……! 力が強すぎる! 抑えて‼︎」
このアーティファクトは、小さい出力なら温度を下げるだけに止まる。しかし、最大出力で使用したら確実に凍る。
「ぉお抑えてっていわれても――!
し、鎮まれ⁉︎」
少女がそう叫ぶと、たちまち強い光は収まり、淡い光を残して少女のコブを冷やし始めたようだ。
「ふぅ……びっくりした……。君と、このアーティファクトは相性がいいのかな。しばらくそうして冷やすといい」
そう言うと、大吉は自分の荷物からランプだけを持ってきて、少女にも座るよう促しながら、あぐらをかいて座った。
「ありがとう……」
少女が大吉の向かい側に座ろうと屈んだ時、耳からフック型のイヤリングが落ちてきた。
「あ……作ったばかりのイヤリング!」
自分の方に転がってきたそれを拾い手渡すと、少女は再び「ありがとう」と言って器用に片手で軽く埃を払うと、イヤリングを着けながら大吉をじっとを見つめてきた。
何かジーッと見られてるな、なんでだ? と思いながら大吉は口を開いた。
「聞きたいことがいくつかあるんだが……」
「あたしもよ。
でも……とりあえず、この冷たいののお礼にお先にどーぞ?」
人懐こそうな笑顔で少女が言った。
「じゃぁ……まず、どうやってあの扉を開いたのか聞いてもいいか?」
「どうやってと言われても……あたしは何か光ってる扉があったから気になって開けようとしたのよ……そしたら何か後ろの方から衝撃が……
あれは爆発だったのかしら……?」
「爆発……こんな不安定な地下空間で⁈」
「え⁈ 地下⁈
あたしは飛行機の搭乗ゲートに向かってる途中で……いたのは地上階…………」
少女はそう言って辺りを見回す。
「……そういえばここは窓もないし、なんだか暗くなってきてる…………?」
言われて、光っていた扉を見ると光が弱まりどんどん暗くなっていた。
「大丈夫だ。明かりはあるから真っ暗にはならない」
そう言って腰につけていたランタンのアーティファクトを外して二人の間に置き
「ライト、オン、マックス」
そう大吉が言うと、ランタンの中にある水晶の形をしたアーティファクトがこれまでよりも眩く眩く光りだした。
マジマジとその様子を見つめている少女。
この少女は……どうやら別の場所からこの地下空間にやってきたということらしい。
古の特殊アーティファクトの力なのか? そんなもの聞いたことがないぞ、と思いながら
「軽装備でどうやってこんなところに、と思ったが」
「軽装備って、これでも十分重装備な気はするけど……」
そう言って背負っていたリュックサックと、ショルダーバックを指して言う少女。
確かに大量の荷物ではあるが、見たところイヤリングは身を守るための装備ではなさそうだし、灯りのアーティファクトも持っていなさそうだ。
服に至っては強度も何もない半袖シャツにジーパン、腰につけている上着のみ。腰よりも長い髪を三つ編みで一つにまとめていて毛先の髪ゴムに付いているアーティファクトも気にはなるが、とても遺跡探索をする為の格好ではない。
「どうやら君は何らかのアーティファクトの力によって、あの扉をくぐってここじゃない場所から来たみたいだな……」
「扉をくぐって別の場所に……?」
何かを考えているのか、しばらく黙りこくっている少女。
「…………じゃぁ今度はあたしの番ね。
あなたはここを地下空間って言ったけれど、ココは“どこ”でなんなの?」
「ここは“ナゴヤ”からわりと近い上級者向けの地下遺跡の中だ」
それも三時間かけてもぐって来ている場所。
「名古屋……遺跡…………⁇」
また何かを考えているようで、目を瞑りながらぶつぶつと小声で何かを呟いていたが、すぐに目を開き次の質問をしてきた。
「コレは何?」
そう言って、大吉の貸した冷凍アーティファクトを指す。
「……冷凍用のアーティファクトだが……まさか知らないのか…………⁈」
「じゃぁコレもアーティファクト?」
そう言って今度はランプを
「そうだ……。持って見るか?」
電池式のアーティファクトは一度動かすと一定時間動き続ける。
「じゃぁコレはもう返しておくわ」
そう言って冷凍アーティファクトを返す少女。
まだ早いんじゃないかと大吉は思ったが、見ると少女の額は綺麗に治っていて、もうどこにコブがあったかもわからない。
冷凍アーティファクトのチャームを受け取りランプを手渡そうとすると、少女はランプではなく大吉の腕を掴んで、つけているブレスレットをマジマジと見つめた。
「そのブレスレット……‼︎」
大吉の手には、以前の探索で手に入れたアーティファクトのメガネ留めブレスレット。
“碧空”のガーネットブレスがつけてあった。
“碧空”の、というのは、ブレスレットの一部にその名が入ってるから。
同じ名の入った物がいくつも発見されているが、いずれも力の強いアーティファクトだ。
「これは……以前発掘で見つけた物だが?」
「ちょーっと見せてもらっても……?」
「あ、あぁかまわないが」
外してわたすと、まじまじとそれを眺め、また何やらぶつぶつと言っている。
「このメガネ留めのとめ具合、輪の作り方。でもってこの“碧空”の文字……そして発掘…………?
使われてる石はまだ使ったことのないA級のすごい良い石だわね…………」
「使ってない? A級?」
聞こえた言葉に大吉が反応を返すと、
「ああごめんごめん‼︎ ありがとう」
そう言って丁重に両手で差し出してくる。
「質問があります」
受け取り手に付け直していると、シュタッと手を上げてその少女は言った。