14話 「ヤジを一蹴」
「え…………?」
ようやく出てきた声が、大吉からのまだわかっていなさそうなその一文字。
真生はと言うと……頬を少し赤く染めた状態で顔を大吉とは逆方向に向け、目線を何もないカウンターの木目に落としている。
大吉は真生とクゥを交互に見やり、
「す……すまん…………何が何だかわからなぃんだが…………」
困惑した雰囲気でそう言った。
「あ~もぅ……大吉は黙ってて!
真生さん、好きなんでしょう? 大吉のことが。乙女の嫉妬みたいな敵意がチクチクきたもの!」
真生の顔の赤みが頂点に達した。
「……す……好きってまではいかないわ! こんなデリカシーのない男! ちょっと気になるってだけよ!」
そう言い切って、勢いよく店から飛び出していく真生。大吉のコーヒーを淹れる手はカップの半分の所で止まり、ポットを持ったまま立ち尽くす。
「……………………え……………………」
勢いよく開け閉めされたドアのベルが鳴っている中、呆然とする大吉に、真生を追っかけて入ってきた女性陣が声をかけてくる。
「大吉さん、あれはないわ~」
「そうよそうよ」
「せめて『すまないな、俺はまだあいつのことが……!』とか言って収めてくれないとー」
口々に出てくるそのセリフは、彼女たちの願望か。
「あなたたちも! 野次馬はすっこんでなさい!
大人しく注文したコーヒー飲んで、支払いして帰りなさい!」
ヤジを一蹴するその貫禄は。確かに十五歳ではない。
クゥに一蹴された女性陣は、スゴスゴと大吉の出したコーヒーを飲みはじめる。
プリプリと怒っているクゥは、何かに気づいて手を洗ってお冷を用意して持っていく。
「おじさま方、騒がしくしちゃってゴメンナサイね~! 食後のコーヒーはいかが?」
「あ、あぁお願いするよ」
「俺も……」
気まずそうな雰囲気になってしまった店内に。そう、いたんです二人のおじさん。
「大吉ー! コーヒ二つ!」
「……………あ、あぁ…………」
未だ呆けていた大吉はクゥの声にようやく動き出す。
それからクゥは、上階と店を行ったり来たりしながらモリモリといろんなアーティファクトの修復をしていった。
そして店は、まぁ順調に客を捌き、閉店の時間となった。
「気づかなくてあそこまで言わせちまった俺も……まぁ……あれなんだが……………
だけどな…………他の客がいるところであれはよくなかったな…………」
店の看板をクローズ表記にし、施錠をした大吉は、食器類を洗いながらポツリときりだした。
何のことを言っているのか分かっていたクゥは、テーブルの拭き掃除をしながら珍しく殊勝な声で応えた。
「…………反省してるわ…………大人気なかったって…………」
その姿で大人げないと言われてもな、と苦笑しながら大吉は言った。
「大丈夫だよ、クゥさんは。そこで止まっちまうような性格してないだろ?」
クゥの作ったアーティファクトや、部屋をみたからわかる。失敗しても諦めないで次へ、次へと、もっと良い物を、と追い続けていることが。
開けてしまった穴を塞ぐのにクゥが作ったアーティファクト。それが出来上がるまでにどれだけの苦労があったのか。
大吉が仕込みしている約三十分間に、一体どれだけの数作ったのか。いくつあるかわからないほどの似たような作品が、机の上のみならず床にまで転がっていた。
そして彼女は、間違いなく目的の物を作り上げている。
そんな人だから、途中で何かを諦める人ではないと、大吉は思っていた。
「案外いい友達になるんじゃないかと思ってるし」
「えぇ~」
とても嫌そうな顔はしているが、雰囲気はそうでもなく。
「まぁまた来るだろうから、その時ゆっくり話そうな」
来てくれるだろうか、と内心不安はあるものの、期待を込めてそう言っておいた。
二人は店の掃除を終えると、軽く夕食を取りながらこれからの予定を決めはじめた。
本日の売り上げで多少資金ができたため、明日は必要物資の買い出しと、少し観光をすることに決めて。食事をとりながら、軽くアーティファクト講座を開催し始めた。
「ほんっとに何にも知らないんだな?」
「そりゃーこの世界の人間じゃないもの」
「世界? 時代じゃなくて?」
「ちょうど流行ってたのよ。異世界転生とか、異世界転移モノの小説とか。
名前とか色々似たところはあるけど、違うところも多いから、もう異世界って思うことにした!」
そう言って残り物で作った野菜とウィンナーの炒め物の続きを頬張る。
「なんだかテキトーな決め方だな。まぁここの事を知らないって言う点ではどっちも似たようなもんなのか…………?」
「なによりも、あたしが楽しければ良いのよ!」
そう言って搾りたてのレモネードに口をつける。
「で、どこまで話したっけ?」
「アーティファクトの常識。誰でも使えるけど、相性はある。同時使用は厳禁で、使用しすぎで昏睡するので要注意」
「そうだった。それらの理由とかは教本に載ってるから読んどいてくれ。」
「はーい」
「どの素材がどういう効果を及ぼすのか、も。まぁ書いてあるから参考に…………」
「そこは。試験のためだけに覚えとくわ」
苦笑しながら大吉もレモネードを飲んだ。
「決められた型にハマるのは好きじゃないのよ。赤いモノが熱系の力を持つ、とか。まぁわかるわよ~? わかるけど、納得いかないのよねー。なんていうかこぅ…………自由に想像して創造したいじゃない…………!」
「自分で創造したい……か……俺は考えたこともないが…………。クゥさんならできそうな気はするよ」
ニッコリと良い笑顔を向けられて、何故だか照れるが釘を刺すことも忘れない。
「ただし、実験は俺と一緒に。な」
ぶーぶー文句を垂れてはいたが、了承し、とりあえず早朝人気のないところで実験をする約束を取り付けられた大吉であった。




