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隠密スキルを鍛えましょう、限界まで

 誕生日からひと月が過ぎた。

最初のうちは、前世の記憶で若干混乱したりしたものの、思っていた以上に早くこの世界に順応することができた。

 ダリアとミリアムの二人とは、あれから三回顔を合わせた。同年代の友人のおかげで、年齢相応のふるまいもだいぶできるようになってきたと思う。

そして、今。アイリーシャは庭で、神様と一緒に"隠密"スキルの特訓に励んでいた。

 自分の存在感が希薄になっているのを感じる。庭師がすぐ側を通っていったけれど、アイリーシャがいるのに気付かなくて、ぶつかりそうになった。


(……よし、できた)


「そうそう、いい感じ。君、隠密スキルも才能あったんだねぇ」

「神様のおかげよねー。あと、最近、火魔術も使えるようになったわよ」


 属性魔術は、属性がないと使えないのだそうだ。これもまた、教会でどの魔術に属性があるのかを判断してもらうのが基本だ。

 ごくごくまれに才能だけで目覚めさせるケースもあるけれど、それはレアケース中のレアケース。アイリーシャの場合、神様が手を貸してくれているので例外だ。


「やるねぇ。才能なかったら、そもそも取得できないんだけどさ」


 そうだった。

庭の目立たないところにいるアイリーシャの側にいるのは、神様だ。

 名前をつけようかと言ったら、人間のくせに図々しいと言われたので、ただ神様と呼んでいる。


「じゃあ、お勉強しようか……スキルの成り立ちってどうなってるんだっけ?」

「えっと、自然発生で身につく場合と、教会で寄付金納めて、スキルを宿してもらうパターンがあるのよね?」

「そうそう」


 たとえば料理だったり、裁縫が上手だったりという日常生活の中でのスキルについては、自然発生で目覚めることが多い。

幼い頃から母親の料理を手伝っていた少年が、大人になった時には料理人になった。

 自分や家族の服をしばしば繕っていた少女は、大人になったら仕立屋で働くようになったなどというのがこのパターンだ。

 また、学者や商人が、持っていることが多い"鑑定"などは、教会で寄付金をおさめると、スキルを身に宿してもらえる。兵士になった者が支給された武器に合わせて、"剣術"、"斧術"などを身に着ける場合もそうだ。

二番目のパターンも、自然発生することがないとは言わないけれど、日常生活の中で必要なスキルと比較すると、自然に目覚める可能性は低いらしい。

 たぶんこれは、使用頻度の違いからくるのだろうと言われている。頑張ってもスキルを身につけられない者は、下手の横好きというわけだ。

さらにもうひとつ。魔術がある。

 これは、大まかに言って、火、土、水、風の四大属性魔術と神聖魔術――アイリーシャが聖女として使うのはここに属する――と、魔神が使う暗黒魔術の六種類に分類することができる。

魔術となると、自然発生するケースはごくごくまれであり、英雄だの聖女だのと呼ばれる存在となることが多い。

 そんなわけでアイリーシャは、絶賛"隠密"スキルの特訓中であった。ちょっぴり神様が手伝ってくれたので、最初の段階に到達するのは早かった。


「お嬢様、どこにいるんですか?」

「ばあやの目から隠れられたのなら完璧ね」

「まあ、相手がばあやだからな」


 隠密スキルを発動し、乳母の後方に移動する。途中でメイドとすれ違ったけれど、彼女もアイリーシャの存在には気づいていないようだった。


「ばあや、ここ!」


 驚かさないよう、少し距離をあけたところで、スキルを解除する。振り向いた乳母は、胸に手を当てた。


「あらまあ、こんなところにいらしたのですか。驚いてしまいましたよ」

「探した?」

「探しましたとも!」


 よし、と乳母の真前で拳を握りしめる。探したというのなら大成功。にやりとしているのを気づかれないように隠す。


「じゃあね、ばあや。あっちで遊んでくる!」


 乳母はこの屋敷ではけっこうな権力の持ち主だ。なにしろ、乳母になる前は、母が嫁いできた時に生家からつけられた侍女だった。

 だが、アイリーシャにはかなわない。バイバイ、と言われて、ひらひらと手を振り返してくれる。


「兄様! かくれんぼしましょ!」


 歩いて行った先に、三兄のヴィクトルがいるのに気づいて、声をかけた。


「かくれんぼ? リーシャが隠れるんだろ?」

「そうよ!」


 アイリーシャは胸を張った。隠密スキルの練習なのだから、アイリーシャが隠れなくてどうする。


「やだよ、リーシャを探すだけじゃつまらない」

「じゃあ、兄様が先に隠れていい。私、絶対に見つけるから」


 アイリーシャは、ヴィクトルを押しやった。

 三人の兄は皆アイリーシャを可愛がってくれるのだが、ヴィクトルは一番年が近いせいか、アイリーシャの頼みを聞いてくれないことも多い。


(ここは、私が大人になって譲らないとね!)


 内心で胸を張っているが、これでも十八である。


「そのかわり、兄様を見つけたら、ちゃんと交代してよね?」

「わかった、わかった。どうせ、リーシャには見つけることができないだろうけどな!」


 えへんと胸を張り、ばたばたとヴィクトルは走り去っていく。にんまりとして、アイリーシャはこっそりついてきている神の方を振り返った。


「神様、兄様を探して?」

「は? 我に、かくれんぼの八百長させちゃうの?」

「いいじゃない、そのくらい。どうせ、五歳児には探すの大変なところに隠れてるのよ。このくらい八百長にはならないわ!」


 一応、精神年齢は十八のはずなのだが、身体は五歳である。台に乗らなければ見つからないところを探すのは大変だ。


「しかたないなぁ……」


 猫神は、ぴょんとアイリーシャの肩から飛び降りた。


「こっちについてくるがよい」

「わぁい、神様大好き! 今日のおやつは、分けてあげるね!」

「ふん、我はおやつなぞにはつられないのだがな!」


 そうは言ったけれど、神様の尾がご機嫌に左右に揺れているのをアイリーシャは、見た。一本の木を見つけると、トトトッと神様は幹に爪を立てて登っていく。

その先、枝に隠れるようにしてヴィクトルがいた。


「兄様見つけた!」

「なんで、見つかるんだろうな」

「私が、兄様のこと大好きだからよ!」


 そう言うと、兄はご機嫌になった。


「じゃあ、次はリーシャの番だぞ」

「うん!」


 アイリーシャは、隠れるふりをしてヴィクトルの後ろにつく。さて、兄はアイリーシャが後ろについているのにいつ気づくだろう。

こうして遊んでいる中で、日々スキルを鍛えていくのである。あとで、長兄にも頼むことにしよう。

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