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敵対勢力、登場ですか?

 あっという間に、王太子の成人披露の日が来た。アイリーシャは、両親に連れられて王宮へと到着した。

 広間は、多数の人達で埋め尽くされた。皆、盛装をまとい華やかな雰囲気だ。


「あの方が、アイリーシャ様?」

「ずいぶん地味……いや……控えめ……」

「存在感がない……と思う……」


 両親の背後にいるアイリーシャを見て、皆が首をかしげている。


(……大丈夫、うまくいってる)


 アイリーシャは、今、"隠密"スキルを軽く発動していた。

これは、アイリーシャの印象を薄くし、人目につきにくくするという効果がある。本気で発揮したら、両親の後ろには誰もいないと思わせることもできただろう。

今は、両親の後ろにアイリーシャがいるとすれ違う人が皆知っている。そこまで強くしていないから、"妙に陰の薄い人"として認識されている。

だが、これが両親と離れてアイリーシャ一人ならどうだろうか。遠慮なく存在感を薄くしていれば、アイリーシャの存在に気付く人は、ほんのわずか。

 これが、アイリーシャが"隠密"スキルを取得するにいたった理由であった。

 広間に入ったところで、いったん、両親とは別行動になる。両親は挨拶に回り、アイリーシャも友人達と旧交を温めるのだ。


(ダリアとミリアムも来ているはずなんだけど……)


 華やかに着飾っている人達を見回すけれど、親友達の姿は見当たらない。


「リーシャ、こっちよ!」


 目ざとくアイリーシャに気付いたダリアが手を大きく振る。その側には、ミリアムもいた。アイリーシャはそちらに向かって歩き始めた。


「素敵ね、そのドレス」

「お母様が張り切ってしまって大変だったの」


 ミリアムはドレスを誉めてくれたけれど、アイリーシャはぼやいた。

十年ぶりの王宮とあって、母の気合の入れ方は半端なかった。

 ミカルに同行してもらって都と領地を往復している父のお尻を叩いて、現在人気のデザイナーと仕立屋を押さえさせた。

 都に戻った次の日には、次から次へとデザイン画を見せられ、ドレスに使う布を見せられしたアイリーシャは、ぐったりしていた。

さらに二度の仮縫いを経て、ようやく一着目が仕立てあがったのが昨日のこと。

 これから招待される機会が増えるからと、一度に十着もオーダーしたものだから、あとの仮縫いが大変だ。

その過酷さを思うと、げんなりしてしまうというのが正直なところだ。


「これからあなたも大変ね。王立魔術研究所に入るって、聞いたけれど」

「ええ、最初は魔術研究所の資料室かな」

「私達は住み込みだから、これからは、王宮で会うこともあるかもね」


 ダリアとミリアムは、少し前から王妃付きの侍女として王宮に出仕しているそうだ。実家から通うアイリーシャと違い、王宮に住み込みになる。


「あら、アイリーシャ嬢。あなた、魔力を暴発させたことがあるのでしょう? 王宮に来て、問題ないの?」


 不意に話に割り込んできたのは、アイリーシャは見たことのない少女だった。アイリーシャと同じくらいの年齢だろう。

見事な金髪に青い色の瞳。薔薇色のドレスがよく似合っている。気の強そうなツリ目が、真正面からアイリーシャを見つめてきた。


「……問題ないわ。ミカル先生から、許可は頂いているもの」


 この少女は誰だろう。アイリーシャにいろいろ思うところがありそうである。


「あなたのような人が、この王宮にいるなんて信じられないわ」


 ふん、と鼻を鳴らされてもアイリーシャは動じなかった。こういう手合いには、前世で何度も出会っている。

田舎に引っ込んでぽやぽや暮らしていたのは否定しないけれど、一方的に言われたことを、はいそうですかと受け入れるほど甘い性格をしているわけでもない。

アイリーシャはすぅっと息を吸い込んだ。


「ええ……陛下からご招待いただきましたもの」


 口調は、あくまでも穏やかに、丁寧に。

 この場で目立ってもしかたないので、喧嘩腰にならないように気を配るのも忘れない。

 相手はぐっと黙り込んでしまった。

 アイリーシャがこの場に来るのは気に入らないだろうが、『陛下からの直々のご招待』である。

 もちろん、この場にいる者は全員正式な招待状を受け取っているわけだが、基本的には王の秘書官がしたためたものだ。

王直筆の招待状を受け取っているのは、王が特に招きたいと思った相手だけである。相手はそこまで考えていなかった様子で、じっとりとアイリーシャをにらみつけてきた。


(虎の威を借りる狐って、こういうことを言うのよねぇ……!)


我ながらげんなりしてしまったが、使えるものは使う。それが、こういった場での勝利に一番近いのだ。


「ふん、まあいいわ」


 相手も、この場で人目を集めてもいいことはないという点では同じだったようだ。

 アイリーシャが乗ってこないと見て取ると、踵を返して立ち去った。


「ねえ、今の誰?」

「フォンタナ公爵家のヴァレリア嬢よ」


 相手が名乗ろうとしなかったので、ひそひそとダリアがささやいてくれる。


(……なるほど。フォンタナ家ね)


アイリーシャに堂々と喧嘩を売ってくるあたり、高位貴族なのだろうとは思っていたが、フォンタナ家の娘ならば納得だ。

 アイリーシャの生家であるシュタッドミュラー家とは何かと対立する立場にある。

 十年前は領地にいたそうで、アイリーシャの誕生会には招かなかった。ヴァレリアとは、今日が初対面である。


「それにしても、あなた思っていたほど注目されないのね」


 周囲を見回したダリアが首をかしげる。

十年前、都を騒がせた爆発の関係者、その後十年、都を訪れなかったアイリーシャが、いきなり王宮の宴に参加した。

おまけに銀髪に紫の瞳という非常に珍しい組み合わせの美少女で、宮廷魔術師がお墨付きを与えた優秀な魔術師で、公爵家の令嬢。

 どれだけ属性を盛り込めば気がすむのかと、アイリーシャが自分で自分に突っ込みたくなるほどだ。

 そんなアイリーシャが、さほど注目されていないというのが、ダリアには不思議に思えたようだ。


「皆、気を使ってくれているのだと思うわ」


 アイリーシャはとぼけた。

 極限まで強力にスキルを発揮すれば、その場にいるのにいないものとして扱われる隠密スキルを最大限有効に活用している。

 実際、ヴァレリアもすぐ側に来るまで気づいていなかった。


「それにしても、楽しみ。あなたが帰ってきたから、楽しくなるわよね」

「仕事の帰りに待ち合わせて、お茶とか行ける?」

「早番の時なら、大丈夫だと思うわ」


 何はともあれ、これから楽しくなりそうだ。

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