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天使よ殺せ  作者: みかん
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第一話 「天使よ、俺を生かせ」

初投稿で緊張しています。暖かい目で見守っていただけると嬉しいです!

「いやだ..っ!死にたくない!!!」


四方八方を銃弾が飛び交う中、巨大な魔人達が周りの兵士を虫けらのように、殺戮していく。俺は、その中を当ても無しに走り続ける。弾が頬をかすめ、仲間の残響が耳元に触れる。


死にたくない死にたくない死にたくない......!


そう思えば思うほど、体は硬直し、誰かに足を掴まれたかの様に、一歩が途轍(とてつ)もなく重たくなる。


ああ、もう足を止めてしまおうか。

生きているから、死にたくないと思うのだ。死んでしまえば、死なんて怖くない。


そんな考えがふと頭をよぎる。だけど。


死にたくない!死んでたまるか!

俺は生きて、家に帰るんだ!母さんの作った暖かいご飯を食べて、父さんと狩りにでも出て、村の皆と一晩中笑いながら酒を飲んで、そして…幼馴染のエリカに、ちゃんと好きだって伝えるんだ!それまで、それまで死んでたまるか!


そう決意して、震える足で地面を蹴る。


「っグ!!」


隣を走っていた幼馴染のリョウが、味方からの銃弾を足に浴び、戦場で転んだ。


「リョウ!!」


戦場で立ち止まった幼馴染に待ち受ける運命は、残酷だ。倒れた幼馴染を助けようと手を伸ばすよりも早く―


―グチャリ。


鈍い音と共にどこからともなく現れた魔人が、リョウの頭部を踏みにじる。

あっけに取られる俺も、足裏にへばりつくリョウの頭部も気にすることなく、魔人は俺の方へと体を向ける。

その魔人と目が合った時やっと、リョウが殺されたんだと理解した。それと共に沸々と、禍々しい怒りが込み上げてる。


「っクソ…!がぁぁあああ!」

銃弾飛び交う戦場に咆哮を鳴らし、俺は地面を蹴り飛ばした。


魔人は恐ろしく強い。品種改良を重ねた今の人類が、束になっても倒せないほどに。

基本的に俺達兵士が戦場を駆ける理由は、魔人の陽動。兵士が戦場を駆け回る事で、魔人達もそれを追いかける。それにより戦場の場に魔人を留める事で、後方から銃火器で魔人を駆逐する。そうやって、個体数の少ない魔人達を徐々に減らしていくという作戦だ。


そう。俺達は捨て駒だ。上官も、隊長も、国民も、そして兵士である俺達すらも、魔人と戦って勝てるなんて思ってやしない。ただの餌だ。魔人から逃げ回る足の速い餌。生きて帰るなんて、運がある奴だけが成せること。


リョウには運がなかった。運がなかったから、戦場で命を落とした。仕方ない事だ。


仕方ない事だがー


俺は腰に携えた剣に手を置く。


そんな言葉で片づけられるほど、俺とリョウの友情は薄くない。


―待ってろリョウ。今お前の所に、こいつの首を送ってやる。


地面を滑るように体を加速させ、魔人の背後へと回り込む。刀を引き抜く。そのまま勢いよく地面を蹴り、空へ舞う。6メートル程飛んだ俺の体は、魔人の脳天を捉えた。


「リョウの仇だこの野郎!!!!」


手に持つ長刀を、魔人の頭に突き刺す—その刹那。


「ガッッ...!」


振り上げられた魔人の手の平が、宙に浮かんだ俺を叩き落とす。地面に叩きつけられてもその勢いは止まらず、近くにある朽ち果てた教会まで吹き飛ばされる。


ガッ...ゴッ...ドゴン!!!


壁を突き破った事で衝撃はかなり緩和されたが、全身の骨という骨が折れる音が脳内に響き、内臓や、肺、そして心臓までも深い損傷を受けている。俺の体は教会の中をゴロゴロと転がり回りながら、中央にポツンと置かれた天使像の下で止まった。

もう立ち上がる力などなく、ジワジワと近づいてくる死の足音を、黙って聞くことしか出来なかった。


分かり切っていた結果だった。逃げるべきだったんだ。魔人に立ち向かうなんて、愚か者だって犯さない。煮えたぎった激情を収める為とはいえ、代償に命を差し出すとは。バカすぎて笑いが込み上げてきそうだった。


魔人が、教会の入り口からこちらを覗き込んでいる。どうやら止めを刺しに来たようだ。


クソ、静かに死なせてもくれねえのか。


逃げたくても、体は動かない。壊れた教会では、誰も守ってくれない。神などいない。少なくとも俺達を守ってくれる神なんて。


半年前、突如大量の魔人が人間界に侵攻してきた。あっという間に三大帝国の1つであったアルゲシュタルトが滅ぼされ、魔人達に支配された。圧倒的な武力を持っていたアルゲシュタルトが、なす術もなく魔人に蹂躙された事は、人類にとって未曽有の危機以外の何物でもなかった。残った二つの帝国は近郊の小規模諸国とと共に叡智を詰め合わせ、『対魔人軍』を結成し、魔人達に奪われたアルゲシュタルトの領地奪還作戦へと乗り出した。


だが、どうやらその作戦は失敗に終わりそうだ。


近づく魔人を見ながら、俺はそう思う。対魔人軍はアルゲシュタルトの領地を奪還しようと、今日の早朝に打って出た。そして昼下がり。後方に配置された俺達第186部隊までもが、死地である前線に出向き、そしてあっけなく命を散らす。


魔人はゆっくり近づいてくる。すでに虫の息である俺を面白がっているかのように、顔は醜く歪み、口から垂れ流される異臭が、部屋の隅々まで充満する。


体の熱が冷めていく。生きたいという渇望も、村へのノスタルジーも、伝えていない想いも、少しずつ冷めていく。もはや痛みは感じていない。

フワフワと何処かに浮かぶように、もうこの世に自分を縛り付ける、熱も希望も哀愁も、淡い恋心でさえも無くなって、痛みと恐怖から逃げるために死への扉へと手を伸ばす。


ははっ...こんなの死ぬしかねえじゃん。誰も生き残れねえ。父さんも、母さんも、村の皆も、エレナも。死ぬしかない。みんなこいつらに殺される。



魔人はとうとう倒れ込む俺の真上まで来て、立ち止まった。頭上で気色の悪い笑みを浮かべる魔人。こいつに、父さんも、母さんも、友達も、エレナも。みんなみんな殺されちまう。


パラパラ


頭上の天使像の顔から、まるで涙の様に、石の破片が降ってくる。


クソ…泣いてる暇があるなら助けろよ。

このどうしようもねえ奴らを、全員ぶち殺してくれよ。なあ、天使!

俺たち人間を生かしてくれよ!



昔、両親に教えられた。

天使は実在すると。

母さんが、俺を腹に宿していた頃、家に大勢の盗賊が襲い掛かってきた事があるらしい。父さんも村の人も、何故か一人として傍におらず、重たいお腹を抱えた母さんが、一人で盗賊に立ち向かう事となった。

もちろん、身籠った女性が武器を持つ巨漢な男達に勝てるはずもなく、その命を奪われるかと思った時だった。母さんの頭目掛けて、斧を振り下ろした盗賊の長の首を、音もなく何かが貫いた。一瞬の出来事に戸惑う盗賊たちを尻目に、その何かはビュンと空気を切り裂きながら、そこにいる盗賊全ての首を貫いたそうだ。


あっけに取られていた母さんの周りには首を貫かれた盗賊達が倒れ込み、そしてその盗賊達を見降ろす得体の知らない男の両肩には、キラリと輝く銀色の翼が生えていたという。

男は何も言わず、その銀色の翼を羽ばたかせ、巻き起こした風に母さんが、一つした瞬きから目を開けると、そこには何もいなかったという。翼の生えた男も、首を貫かれた盗賊達も。


だが、かすかに残った血の跡と、一枚だけ残っていた男の翼から、母さんはそれを天使が助けに来てくれたと信じて疑わず、俺の名前も、大天使の一人である「Michael」を文字って「Maichel」と名付けられたそうだ。


なあ、どこかで見てるんじゃないのかよ。

母さんを助けた天使。盗賊を瞬殺するほどん力を持つ天使。確かにいるのなら、この恐ろしい魔人達を倒してくれよ。どうか俺や俺の大切な人を守ってくれよ。


だが、壊れた教会の古びた天使像にそんな力があるはずもなく、ただ静寂と異臭だけが教会に漂っていた。


そして、心の叫びを嘲笑うように、魔人が俺の体を持ち上げる。眼前に魔人の醜い顔が現れる。

その顔に付いた、汚らしい口が開かれ、俺の体は抗う事なく口の中に飲み込まれ、べとべとの粘液が体にまとわりつく。口は閉ざされ、俺は魔人の体内へと飲み込まれる。


ぬるぬると体内をすり落ちていき、胃袋のような所へと、俺の体は運ばれた。じわじわと、酸のようなものが体に纏わりつき、服を溶かし、皮膚までも溶かそうとする。


本当に最悪の死に方だな…

溶かされていく自分の体を見ていると、涙が込み上げてきた。


ああ、最後にもっかい母さんの飯食いたかったな。父さんと狩りも行きたかったし、村の皆とも、もっと熱い話で盛り上がりたかったな。エレナに思い伝えられずに死ぬなんてな。もっと大事に生きたかったな。嫌だな。死にたくないな。


生きていたいな。



「じゃあ、私があなたを生かしてあげる。」


頭に鮮明に響く女の声。


バシュッという音と共に、魔人の腹が切り裂かれ、ボロボロの俺を光が照らした。その光の先に、誰かいる。誰かが俺に手を伸ばしている。俺は、訳も分からずその手を掴んだ。


その刹那ー


腹を切り裂かれた魔人が、仰向けに倒れこむ。と共に、胃袋の中にいた俺を、繋いだ手が救い上げる。


ドシン!

魔人が吹き上げた砂埃で周囲は何も見えなくなった。だけど眼前の、俺を救い上げてくれた者の容姿だけは、ハッキリと見ることが出来た。


透き通った肌。端正な顔立ち。温もり溢れる眼。絢爛豪華な装飾を纏った身体。

そして、銀色の翼。


天使だ。


「こんにちは、ミカエル。私があなたを生かしてあげる。」


こうして、俺の命は前線の寂れた教会で、天使によって助けられることとなる。


だが。先に言っておこう。この先に待ち受けるものは、喜劇なんてものでは無かった。

この天使との出会いは、俺にとって悲劇の幕開けだったんだ。

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