お母さんのミトン
童話というものを書くのは初めてで、右も左も分からない状態でした。まだまだ至らない点が多いですが、よろしくお願いいたします。
それは、冬の寒い日のお話。
お母さんと一緒に幼稚園から帰ってきたマナちゃん。いつもはにこにこ、明るい笑顔ですが、今日はなんだかご機嫌ななめ。幼稚園でお友達と遊んでいても、お母さんと手を繋いでいても、笑顔になることはありません。
お部屋で座っているマナちゃんに、お母さんが聞きます。
「ねえマナ。どうしてそんなにしょんぼりしているの?」
顔を上げたマナちゃんは、
「あのね、今日幼稚園でね、ココナちゃんがね、『昨日はパパの誕生日だったから、みんなでケーキ食べたんだよ!』って言ってたの」
と言いました。お母さんは何も言わずに、笑顔で頷いています。
「あとね、絵を描いたの。だけど、みんなから『へたくそだ!』って言われたの……」
「えー? それはみんなが悪いね。何を描いたの?」
「……お父さんとマナ」
マナちゃんはカバンから、今日描いた絵を出しました。お父さんに肩車されているマナちゃん。二人とも、にこにこしています。だけどマナちゃんは、泣いてしまいました。
「上手じゃん! そんなに泣くことないよ」
「でも、みんなへたくそだって……」
マナちゃんはお母さんのことも見ないで、泣いています。お母さんは困ってしまいました。なんとかマナちゃんを笑顔にしたいと思ったお母さん。
「頑張って描いたのに……」
「そうだよね。マナは頑張ったんだよね。お母さんは分かるよ」
お母さんはマナちゃんを抱きしめます。何とかしてマナちゃんを笑顔にしたいお母さん。すると、お母さんはあるものを思い出しました。
「あ! マナ、ちょっと待ってて! いいもの持ってくるから!」
「え……?」
お母さんは急いで押入れの中を探します。ここにあったはず。ごそごそと押入れを探すお母さんの背中を、マナちゃんはじっと見ています。
「あった!」
お母さんが戻ってきます。マナちゃんはお母さんが持ってきたものをじっと見ています。ピンク色の、手袋のようなもの。お母さんはこれをマナちゃんの両手に履かせます。マナちゃんには、ちょっと大きいようです。
「お母さん、これなに?」
「これはミトンって言って、熱いお鍋とかお皿を持つためのものなの」
「そうなんだ! でもなんかへんてこなかたち」
「そうだね。へんてこだね」
マナちゃんが笑いました。お母さんはホッとしました。そしてお母さんは、マナちゃんに一つクイズを出します。
「これ、お店に売ってないの。誰が作ったでしょうか?」
「えー? お母さん?」
「ブー!」
「じゃあ、おばあちゃん?」
「ブッブー!」
「えー? もう分かんないー!」
「そっか。じゃあ正解教えるね! 正解は……」
「正解は?」
「あとで教えまーす!」
「えー?」
マナちゃんは答えを教えてほしそうに、お母さんを見つめます。ミトンを見せながら、お母さんがゆっくりと話します。
「お母さんがまだ小学生だった時、お裁縫を勉強する時間があったの」
「お裁縫?」
「お洋服とか、手袋とか、色んなものを作ることよ」
「そうなんだ! 楽しそう!」
「うん、楽しいよ。お母さんはすぐに作れたんだけど、お母さんの隣の席にいた男の子はお裁縫が苦手だったの」
お母さんは小学校の時を思い出しています。お母さんの隣の席で、せっせせっせとミトンを作る男の子。でも、なかなかきれいにできません。
『変なかたちー!』
『へたくそー!』
『ピンクとかだっせー!』
お友達に馬鹿にされても、男の子はミトンを縫い続けました。お昼休みも、放課後も、そしておうちに持ち帰って、せっせせっせと縫い続けました。そんな男の子のことを、小学生だったお母さんはずっと見ていました。
「男の子は、お友達に馬鹿にされても、絶対に諦めなかった」
「泣かなかった?」
「もちろん! 泣かなかったし、一生懸命頑張っていたよ」
「すごーい!」
マナちゃんが目をまんまるにして驚きます。お母さんはミトンを両手に持って、また小学校の時の思い出を話しました。
「一生懸命頑張って、やっとミトンが完成したの。できたのはクラスの中で一番遅かった。形もへんてこだった。だけどお母さんは、みんなの作ったものの中で一番だと思った」
「そうだったんだ……」
「そしてね、男の子が言ったの。これをあげるって」
「え? どうして?」
「それは、マナがもう少し大人になったら分かることかな?」
お母さんが笑って、マナちゃんにミトンを渡します。
「これ、マナにあげる」
「え? いいの?」
「うん。お母さんは、このミトンを大切な人にあげようって、ずっと思っていたの。だから、大切にしてね」
「うん! 大切にする!」
「マナ。今日描いた絵、お父さんにあげようか。お母さんがマナを大切にしているみたいに、マナもお父さんを大切にするの」
「うん! お父さん、早く帰ってこないかなぁ」
マナちゃんはすっかり、笑顔になっていました。そして夕方、お父さんが帰ってきます。お父さんはお仕事でくたくたです。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
マナちゃんはお父さんのところへ走っていきます。お父さんはそんなマナちゃんを見ると、お仕事の疲れも吹き飛びます。
「マナ、幼稚園はどうだった?」
「あのね! これ描いたの! お父さんとマナ!」
「おお、上手だな! あとで見せてね!」
「あとね、お母さんからこれ貰った!」
マナちゃんはお父さんに、手にはめたミトンを見せました。お父さんはびっくりした顔でミトンを見ています。
「どうしたの?」
「これ、お父さんが作った……」
「え?」
「あら、おかえりなさい! ご飯できてるよ! みんなで食べましょう!」
お母さんが慌てて走ってきます。そして、マナちゃんとお父さんの手を引っ張ります。マナちゃんがミトンを作った人を知るのは、もう少し先のことになりそうです。
おわり