スワンプマンの落雷
妖夢はプロメテウスの亡骸を確認する。自身の斬撃で完全にバラバラになっていた。あの異形の魂も消えている。
「どうやら、奴の不老不死は肉体に依存していたようですね。あの魂は成仏したみたいです。今頃地獄界の閻魔様のところにでもいっているのでしょう。どんな裁きを受けるのか……気になりませんか?」
半人妖夢は半霊妖夢に問いかける。しかし、返事はなかった。
「……あなたが眠っているなんて珍しいこともあるものです。それだけ、心身一体は我々に負担があるということですね。……私もボロボロですが、倒れるのは幽々子様をお助けしてからです……!」
妖夢がバラバラになったプロメテウスの胴部分の服の中をまさぐると……、幽々子が吸い込まれたフラスコを見つける。
「まったく、呆れた強度の瓶ですね。あれほど激しい戦いの最中も壊れずにいたわけですか。……さて、蓋を開ければ良いんですかね?」
妖夢が独り言を言いながら、フラスコの瓶に手をかけ開けようとしたその時だった。妖夢の背後、白玉楼の池に轟音とともに雷が落ちる。
激しい光と爆音に驚いた妖夢は身構えるように振り返った。
「……雨雲もないのに雷……!? ……不思議なこともあるものです。直撃しなくて良か……。……なに?」
雷が落ちた池から何かが出てくる。……泥だった。だが、ただの泥ではない。人をかたどった泥である。泥は少しずつ人体に近づいていく……。
「そ、そんなまさか……!?」
妖夢の驚嘆をよそに泥人形はどんどんと人に近づいていく。女の体だった。褐色銀髪の少女……、「プロメテウス」を泥人形は形成していった。
「くっ!? 何がどうなっているかわかりませんが……、とりあえず斬る! 斬ればわかる!」
妖夢は泥人形に斬りかかった。しかし、心身一体による疲労で動きの鈍くなった妖夢の腕を泥人形が掴み止める。
「斬ればわかる、ですって? 頭悪すぎ半分お化けちゃんにわかるはずがないんですけど?」
「お前!? いったいどうやって!?」
「どうでもいいじゃん、そんなこと。それよりもその手に持ってるフラスコ返してもらうわけ!」
プロメテウスは妖夢の脇腹を殴ると、力を緩めた妖夢の腕からフラスコを奪い返す。
「う、ぐ……。しまった……。……お、お前は蓬莱人と同じく、魂に依存した『不老不死』体だったんですね……。肉体ではなく、魂を強制的に成仏させるか、 消滅させるべきだった……!」
妖夢はよろめきながらも声を絞り出し、自分の分析をプロメテウスに投げかける。
「魂に依存……? ふっふふ……。あっははははは!」
「何がおかしいんです……!?」
「だって、見当違いも甚だしいんですけど! そんな思考回路じゃ、どのみち、アタシを倒すことはできなかったわけ!」
復活したプロメテウスは肩を震わせながら笑う。彼女の体はすでに泥人形から人間へと完全に変化していた。
「見当違い?」
「そうそう。にしても、アタシが霊体だけにさせられるなんてホントに久しぶりだったわけ! 思ったより半分お化けちゃんが強くてびっくりしちゃったんですけど。マジで逝っちゃう5秒前って感じ? あの世行き寸前だったわけ! ま、おかげで『わけ』ちゃんと合流できて、また一つになれたから結果オーライって感じ!」
「やはり、あなたは魂に存在を依存しているんじゃないですか……! 私のどこが見当違いだと言うんです……!?」
「まだ、わかんないわけ? 半分お化けちゃんはホントに頭わるすぎなんですけど! 仕方ないなぁ。半分お化けちゃんにもわかるように教えてあげる! アタシの不老不死は……魂に依存していると同時に肉体にも依存しているってわけ! これでご理解できるかしら?」
プロメテウスは銀髪をかき分けながら妖夢に流し目を送るのだった。




