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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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凶暴化の終わり。そして、紅魔館再建の始まり

「そんな……。私のナイフが一つも届かないなんて……」

「うがああああああ!!」


 戦慄する咲夜をあざ笑うかのようにオーラを放出するレミリア。衝撃波は嵐となり、咲夜に襲いかかる。砂塵から眼を守るように腕を交差させる咲夜の隙を突き、レミリアは殴りかかった。


「きゃあああああ!?」


 再び時計台に叩きつけられる咲夜。しかし、レミリアの攻撃は止まらない。素早く咲夜の元に移動したレミリアは咲夜の首を掴むと、地表に向かって放り投げる……!


「ぐ……はっ……!?」


 叩きつけられた咲夜は掠れた息を吐きだした。だが、レミリアは手を緩めない。咲夜の髪を掴んで持ち上げ、宙に浮かせるとみぞおちに拳を衝突させる。ダメージを受け、吐血する咲夜。その姿を見て暴走したレミリアは愉悦に浸る。力の差を見せつけるようにレミリアは何度も殴打し続けた。レミリアは死なせない様に慎重に、しかし確実にダメージが加わるように咲夜を殴り続ける。残酷非道な吸血鬼の本能がレミリアを凶行に走らせた。


 何度、鮮血を吐きだしただろうか。ふと、笑い声が聞こえて来る。暴行するレミリアではない。殴られていた咲夜が突然笑い出したのだ。痛めつけているのに笑いだす咲夜に苛立ちを感じたレミリアは彼女を投げ飛ばす。


 フフフと笑い、口に付着した血を袖で拭きながら咲夜は立ち上がる。


「本当にお強い。このままじゃ殺されちゃうわ」


 咲夜は一旦時を止め、レミリアから距離を取る。再び時間が流れ始めた時、彼女の体の傷が癒えていた。自身の時間を早め、傷を完治させたのだ。


 一瞬で咲夜のダメージがなくなったことに気付いたレミリアは、せっかく敵に与えていた自身の攻撃が無意味になったことに激怒する。


「もう一度、行きます」


 咲夜は再びレミリアに360度包囲したナイフ攻撃を試みるが……、結果は一緒だ。放ったナイフは一本たりともレミリアに届かない。


「やはり効かない、か。……お嬢様、私の命はお嬢様のもの。ですが、勝手ながらこの命、少し使わせていただきます……!」


 咲夜はそう宣言すると、自身の時間を早める。……ただ早めるだけではない。咲夜は自身に魔力を貯め続ける。


 あまりに異常な光景だった。咲夜の魔力が増幅し続けるのである。永遠に増幅することが終わらないのではないか、と思えてしまうくらいに貯まり続ける魔力。異常な光景に恐怖を覚えたレミリアは咲夜の魔力を止めようと襲いかかった。


「もう遅いですわ、お嬢様」


 咲夜が放つ一本のナイフ。そのナイフはレミリアの破壊のオーラを持ってしても消しきれずにレミリアに到達する。


「があ!?」とダメージを受けたレミリアは唸り声を出す。

「一年分程、魔力を貯めています。勝手ながらこの咲夜の命、使わせていただきました。こうでもしないと、お嬢様を止めることは出来なさそうでしたから……」


 もちろん、凶暴化しているレミリアにその言葉の意味は伝わらない。

 十六夜咲夜は自身の時間を早め、一年間魔力をその身に貯め続けたのである。本来ならば一年間魔力だけを貯め続けるなど、普通の人間には精神的にも体力的にも到底できることではない。しかし、十六夜咲夜はそういう意味ではもう普通の人間ではなかった。彼女は貯めた魔力を身体強化することに使用する。


 咲夜はナイフを連続射出する。その全てがレミリアの破壊のオーラで消滅する暇もない超スピードだった。攻撃を受けるレミリアは少しずつだが、確実に弱っていく。


「が……、が……。……ぐ……。…………ちゃん……」

「……お嬢様……!?」


 暴走しながらも何かを呟いたレミリア。その呟きを咲夜は聞き逃さなかった。


「……ちゃん。……××ちゃん……」


 明らかにだれかの名前を発音するレミリア。その眼からは涙が流れていた。もう少し、後少しでレミリアは暴走から解放される。咲夜はそう確信した。彼女は何者かの名前を呟き続けるレミリアにもう力は必要ないと判断し、レミリアに近づく。もう破壊のオーラはなくなり、レミリアは大人しくなりかけていた。


「……お嬢様。今だけ……。今だけ従者としてわきまえぬ私をお許しください」


 そう言うと、咲夜はレミリアを強く抱きしめた。その瞬間、レミリアの眼が狂気から解き放たれる。


「大丈夫だよ、レミリアちゃん……。もう、大丈夫……」と咲夜は優しく微笑みながら囁いた。

「ごめんね……。ごめんね……××ちゃん……」


 そう言い残してレミリアは深い眠りに落ちていく……。黄色に変色していた髪も元のあじさいのような水色に戻って行く。咲夜はホッとため息をつくと、眠ったレミリアを抱えて紅魔館のメンバーが集まる草原に飛んで帰った。




「手間をかけさせたわね、咲夜……」


 パチュリーが咲夜をねぎらう。


「パチュリー様もお体は大丈夫ですか?」

「ええ。……まったく、とんでもない目にあったわね。……従者の小悪魔たちを何人も失ってしまった……」


 パチュリーは顔を曇らせる。


「でも、お嬢様と妹様が生きておられます。お二方さえ無事ならば……紅魔館は復活できます」


 咲夜は草原に寝かされているフランと自分が抱きかかえるレミリアに視線を送りながら前を向いた。パチュリーも『そうね』と頷く。


「さあ、紅魔館を再建させないといけませんね、夜が明ける前に。お嬢様たちを日光に当たらせるわけにはいかないですもの」

「無茶をしたらいけないわよ、咲夜」

「大丈夫です、と言いたいですが……さすがに私も疲れてます。手伝っていただけると助かります。……ところで美鈴は?」

「そこで寝てるわよ?」とパチュリーが指さす先にはよだれを流しながら寝る美鈴の姿があった。美鈴が無事なことにため息をつく咲夜。美鈴に大きな怪我がないことを確認して咲夜は口を開く。

「……そこの小悪魔、起こしてちょうだい。役目を果たせなかった門番に休む暇なんて与えないんだから!」といたずらに咲夜は微笑んだ。

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