止められないレミリアの時
「うぅうううがああああああ!!」
正気を失ったままのレミリアは獣のような唸り声を上げながら猛スピードで咲夜に襲いかかった。爪を立てた手刀の切っ先が咲夜に迫る。しかし、手刀の先端が咲夜に届くことはなかった。
「がっ!?」
視点から一瞬で咲夜が消え去り、戸惑うレミリア。咲夜は時を止めてレミリアの攻撃を回避する。
「こんな短い間しか止められないなんて……。さすが、お穣様……」
レミリアの背後に回った咲夜は額から焦りの汗を流しながら呟く。咲夜の声に気付いたレミリアはゆっくりと振り返った。
「ふふ。時間を止めているのに、止められている間が短いなんておかしいけど……。間違いなく止められる時間が短い」
咲夜は通常時ならば無限とも思える間、時間を止めることができる。しかし、暴走するレミリアを前にした今、止められる時間は十数秒あるかどうかだ。
強大な力の時間を止めることは多大なエネルギーを必要とする。子供を折檻するのに必要な力と大男を折檻するのに必要な力の大きさが違うのと同じだ。
「傷つけずに止めようと思いましたが……、その余裕はなさそうです。お許し下さい、お穣様!」
三度、時を止めた咲夜はレミリアの胸部に向かってナイフを突きたてながら懐に入り込む。レミリアの活動を停止させるには心臓を一突きするのが得策だと判断したのだ。吸血鬼であるレミリアならば心臓を突き刺しても死ぬことはない。主人の心臓を貫くなど忠誠心の高い咲夜にとっては断腸の思いだが、これ以上レミリアの暴走が続けばその力はレミリア自身を崩壊させる。咲夜は当然のごとくレミリアを救う道を選んだ。
「なっ!?」
咲夜のナイフがレミリアの胸部を捉えんとしたが、違和感に気付いた咲夜は攻撃を寸前で止め、距離を取る。
「……これが、お穣様の『真の力』……! 相変わらず……!」
咲夜の視線の先には自身が手に持っていたナイフ。ナイフの先端が分解され、消し飛び、『破壊』されていた。咲夜の『時間を操る程度の能力』を持ってしても、レミリアの破壊の力は止めることができなかったのである。
咲夜が驚愕する中、タイムリミットが訪れた。再び時間が動き出す。レミリアは視野に入った咲夜を見つけるや、狂気の笑い声を上げながら距離を詰める。
「があああああああ!!」
レミリアの鋭い爪付きの手刀が咲夜を襲う。持ち前の戦闘センスで手刀本体をかわす咲夜だったが……副産物の風圧まではかわしきれなかった。
「ああああああああ!?」
風圧をモロに受けた咲夜は紅魔館の時計台に叩きつけられる。
「うっ、あっ……」
ダメージを負った咲夜は腹部を抑えて吐血する。
「風圧だけでこんな……。ふっ。うっふふ。10年前よりもより強くなっていらっしゃる。容姿にお変わりはないけど、やはり成長されているのね」
咲夜は口から血を流しながら、微笑む。レミリアの成長を心から喜んでいるような……そんな表情である。
「感慨に耽っている場合じゃないわね。次の策に移らねばならない……」
咲夜は次の攻撃方法を思案する。暴走するレミリアは自身の破壊の力を扱いきれていないと咲夜は判断した。もし、意識して使えるならば、手刀で咲夜を攻撃せずとも咲夜を粉々にして破壊すれば良いからである。
「できれば少し傷つけるだけで済ませたいと思ったのが失敗だったわね。次は距離を取り、確実に仕留めていく……!」
咲夜とて頭が回らないわけではない。近接攻撃の効果がない可能性は把握していた。しかし、不要にレミリアを傷つけることをよしとしない紅魔館の従者は最低限の攻撃だけでレミリアを止めようとしていたのである。結果としては胸部だけを狙う攻撃は失敗ではあったのだが。
「時よ止まれ!」
またしても時を止めた咲夜はレミリアの周囲360°を包囲するように大量のナイフを配置する。
「そして時は動きだす」
咲夜の合図とともに時間は本来の流れを取り戻す。そして同時にレミリアに向かって無数のナイフが襲いかかる。しかし……。
「があああああああああ!!」
「くっ!?」
レミリアの周囲を紅いオーラが包む。咲夜が放ったナイフからレミリアを保護するように張られたオーラは襲いかかるナイフを次々と粒子に変え、破壊するのだった




