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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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今生の願い

申し訳ありません。投稿ミスをしておりました。『準備』の回を抜いて投稿しておりました。

よろしければ、「準備」の回から読みなおししていただければと思います。

◇◆◇


 ――およそ百年前、この世界のどこか――


「お父様、どうされたの? 突然、お部屋にきなさいって……。フ、フランなんにも悪いことしてないよ! お姉さまのプリンを勝手に食べたのは、お姉さまが先に私のケーキを勝手に食べたからで……」

「安心しなさい。お前を怒るために呼んだのではないよ、フラン」


 フランの父親はフランを安心させるように微笑む。幼いフランは父親が怒っていないことがわかるとホッと胸を撫で下ろした。


「じゃあ、なんでお父様は私をお呼びになったの?」

「……今からとっても大事な話をする。よく聞いて覚えておきなさい」


 父親は柔和な表情を引き締め、真剣な瞳でフランを見つめる。


「フラン、お前にはこのスカーレット家に代々伝わる秘宝『レーヴァティン』を授ける」


 父親はフランに奇妙な形をした杖を手渡した。


「この杖は我々吸血鬼の力を高める特殊なアイテム。これをお前に任せる」

「レーヴァティン……。凄い。ただ持ってるだけで力が強くなってるような……。今なら誰が相手でもやっつけちゃえる気がする……」

「この杖は強力だ。それ故乱用することは許されない。約束できるね?」

「はい、お父様。もちろんです。あ、あの、お父様?」

「どうした?」

「な、なんで私にこんなすごいものを? 次の当主はお姉さまなのに……」


 父親は眉間にシワを寄せ、真剣だった表情をさらに険しくさせる。


「ここからが本題なのだよ、フラン……。よく聞きなさい。レーヴァティンを授けたのはお前にレミリアを守ってもらうためだ」

「お姉さまを守る?」

「そうだ。フラン、お前がレミリアを守ってやるのだ」

「お姉さまは私よりも頭もいいし、力も強いし……。私が守らなくたって……」

「良いかね、フラン」


 父親はフランの双肩を掴み腰を落とすと視線の高さをフランに合わせる。


「確かにレミリアは頭が良い。力も強い。神に愛されたといっても良い。だが……」

「だが?」

「だが、レミリアの心はそんな天賦の才に勝てる程強くない。あの子は当主として心も強くあらねばと自分の弱い心を隠しているのだから。……いや、語弊があるな。レミリアの持つ天賦の才に耐えうる精神などこの世界に存在しない。だから、レミリアの才がレミリア自身を喰らいつくそうとする前に、お前がレミリアを守ってやって欲しい……」


 父親がまるで今生の願いを伝えるように話しかけていることにフランは違和感を覚える。


「な、なんでお父様は私にそんなことを……? お父様がお姉さまを守ってあげたらいいじゃない!?」

「フラン、お前に寂しい思いをさせるのはこの父もしたくはない。だが、もう私には時間がないのだ。だからこうしてお前にレーヴァティンを託し、レミリアと仲良く暮らしていくようにお願いしているのだ……」

「お、お父様……死んじゃうの……?」

「……死は全ての生命に訪れるのだ。哀しいことではない……」

「や、やだやだ! お母様も死んじゃったのに……。お、お父様まで死んじゃうなんてイヤ!」


 フランは幼い少女らしく駄々をこねながら、父親にしがみ付く。父親もフランを優しく抱きしめる。


「お前とレミリアには辛い思いをさせるな……。父を許してくれ。お前たちをこの世に産まれ落としたのは私たち夫婦の身勝手だったかもしれない。だが、私たちの思いをお前たちには継いで欲しいのだ。不当に迫害を受ける私たち吸血鬼の未来をお前たち姉妹の手で切り開いて欲しいのだ」


 父親は涙を流しているフランの目じりを指で拭い微笑みかける。


「フラン……。レミリアと仲良く生きてレミリアを助けると約束して欲しい……」

「うん。まもる……! フラン、お姉さまを守るって約束する……!」


 フランは自分の裾で涙を拭いながら父親と約束するのだった。



◇◆◇


「もう、叫ぶこともできないの? これじゃあ、玩具にもならないわね。あら、あなた泣いてるの? その涙の意味は何かしら? 悔しさ? 恐怖? 怒り? 何にせよ最強の吸血鬼に涙は似合わない。やっぱりあなたはその不完全な翼と同じく不完全な吸血鬼だったのね。もう声が出ないなら、その頭を残しても意味はないわね。さようなら」

「…………」


 フランはルガトの問いに答えず、無言を貫く。フランの涙の意味……。それは後悔だった。父親との約束を守れず、レミリアを助けることができなかったことに対する後悔。


(ごめんなさい。お父様……。私、またお姉さまを守れなかった……)


 涙を流し続けるフランにルガトの放つ無慈悲な破壊の力が襲いかかった。頭部は破壊され、手足のもがれた胴体だけが尊厳なく地面に残される。フランの変わり果てた姿をルガトは満足そうに病んだ笑みを浮かべながら眺めるのだった。

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