準備
不自然に歪曲した杖に炎を纏わせ剣のように変化させたフランは切っ先をルガトに向ける。
「た、高い魔力を感じる。そ、それ、かなりのレアアイテムだよね。お、お母様が持っていらっしゃる聖遺物と同じくらい魔力のプレッシャーを放っているもの……。き、きっとあなたの家に伝わる秘宝ね……?」
「そうよ。スカーレット家に代々伝わる杖『レーヴァティン』。お父様から頂いた大事なもの」
「ふ、ふふふふふふ」
「……なにがおかしいのよ?」
「だ、だってやっぱり『実験動物』は救われないんだなぁって」
「……どういうこと?」
「あ、あなたのお父様は当主となったあそこの実験動物にはその杖を渡さずに、あなたに与えたんでしょう?」
ルガトはうつ伏せに倒れたままのレミリアを指さして自信なさげな表情のまま、嘲笑する。
「つ、つまり、先に生まれた当主よりもあなたを認めていたってことでしょう? その聖遺物クラスの秘宝をあなたに与えたのがその証拠。あなたのお父様はあなたが天賦の才を持っていることを見抜いていた。そう、本物の吸血鬼というどんな生物よりも優れたあなたの才を」
「……そうかもね」
「ふ、ふふ。哀れな実験動物。妹よりも才能がないと父親から見抜かれて、一番大事なものをもらえていないんだもの」
「だまれ」
フランの静かな怒号がルガトを撃ち抜く。
「私のお父様は姉妹を区別するような方じゃない。お父様は私にお姉さまを……。……これ以上は部外者のアンタに言うことじゃない。……続きを始めましょう? あなたを地獄に送ってあげる」
「で、できないとおもうけど」
「抜かせ!」
フランは炎の剣と化したレーヴァティンを振りかざしルガトに迫る。
「す、すごいすごい。そのレアアイテム、あなたの潜在能力を高めているのね。わ、私の破壊の能力を打ち消すくらいあなたの力が上がっている……!」
ルガトはレーヴァティンからの攻撃から逃げるように宙を舞う。
「ちょこまかと逃げるな!」
「に、逃げてなんかいないよ? わ、わたしも準備をしているの」
「準備? 準備している間に殺してあげるわ!」
フランは逃げ回るルガトを追い駆ける。逃げ続けるルガトだが、その表情に焦りはない。それが余計にフランを苛立たせていた。
「もらったぁ!!」
一瞬動きを止めたルガトの首に向かってレーヴァティンを振るうが、その一振りがルガトに届くことはなく、代わりに鈍い衝撃音が響き渡った。
「く!? 何よそれは!?」
「い、いいでしょ? これを準備してたの。私も持ってるんだ。聖遺物クラスのレアアイテムを。お、お母様から頂いたのよ?」
ルガトの手には黒く巨大な広刃の剣が握られていた。
「モーンブレイド……。こ、これであなたを痛めつけさせてもらうね?」
ルガトは病んだ笑みを浮かべて、フランに宣言するのだった




