カストラート対パチュリー
「く……!? カハッ!?」
地面に叩きつけられたパチュリーは咳き込みながら鮮血を吐きだす。しかし、血を吐いているのは叩きつけられたダメージが大きかったからではない。
「おやおや、吐血しているじゃあないですか。なるほど、その若さでそこまでの実力を得ているのは特別な代償を払っているから、ということですか。なぁに、安心してください。体がむしばまれているとしても、あなたへの評価は覆りませんよ。たかだか百歳程度でその実力を持っているのは素晴らしいことだ」
「お褒めに預かり光栄だわ」
パチュリーは血で濡れた口元をぬぐいながら、ふらふらと立ち上がる。その姿を見てカストラートはにやりと笑う。
「考え直してはどうです? 我々と仲間になるのを断ることを……。今ならまだ間に合いますよ?」
「しつこいやつね。私はあなたたちと組むつもりはないわ。友人をモルモットと呼ぶようなやつらとね!」
「やれやれ、強情ですね。良いでしょう。ならば痛めつけてやるまでのことです」
カストラートは杖に魔力を注ぎ、剣状の光を纏わせる。自身の部下を切り殺すのに使った魔法だ。
「パチェ! 私も闘うわ!」
レミリアが紅魔館のバルコニーから身を飛び出さんと手すりに手をかける。しかし、パチュリーはそんなレミリアの姿を見ると、掌をレミリアに向け制止させた。
「レミィ。手出しは無用よ。あなたはそこで見てなさい!」
「まだ、一人で闘うつもりなんですか? 愚かしいですね。……見ての通り、僕は近接戦闘の方もそれなりに得意なんですが……、あなたはどうですかね?」
カストラートはパチュリーとの間合いを一気に詰めると、光の剣をパチュリーの脇腹目掛けて斬りつける!
パチュリーは腕回りに魔法壁を顕現させ、ガードを試みるが……カストラートの攻撃は魔法壁を砕き、パチュリーの腕に届く。パチュリーは悲鳴を上げながら飛ばされる。
「あ……う……」
「左腕の骨が折れた様ですね。どうです? 降参しますか?」
「だ、だれが……」
パチュリーはうずくまりながらも反論する。
「まだ、反抗する元気があるのですか……。……うっとうしいですね!!」
カストラートはパチュリーの脇腹を蹴りあげる! ボキッという鈍い音がパチュリーの肋骨から放出される。パチュリーは痛みに顔をしかめるが、カストラートは攻撃をやめようとはしない。
「ほらほらほらほら!! 許しを乞うなら蹴るのをやめてあげますよぉ!?」
カストラートは執拗にうずくまるパチュリーを蹴り続ける。しかし、パチュリーが許しを乞うことなどない。面白くないカストラートは蹴りを強めようと少しだけ足の振り幅を大きくしようとする。その時だった。高速のレーザーがカストラートの頬を掠める。一瞬の隙を突き、パチュリーが魔法を放ったのだ。
「……い、いつまでも舐めた真似をするんじゃないわよ? 坊や!」
パチュリーは息を切らしながらもカストラートを睨みつける。
「まだ、そんなことをする体力が残ってたんですか……。よくも僕の顔に傷を付けてくれましたね? それに……、僕は坊やなんかじゃない……。女だと言ったでしょう? このクソガキがぁ!!」
カストラートはパチュリーを思い切り蹴飛ばすと、倒れたパチュリーに襲いかかり、光の剣を右肩に突き刺し貫通させる。
「アァアアアアアアアアアアア!?!?」
あまりの激痛にパチュリーは雄叫びのような悲鳴を上げる。
「トドメです。最後は胸に風穴を空けてあげますよぉ?」
カストラートは不気味な笑みを造ると、パチュリーを突き刺す体勢に入る。
「悪いわね、パチェ。約束は破らせてもらうわ!」
「ぐぅ!?」
カストラートを背後から攻撃する小さな影。紅魔館の主であり吸血鬼、レミリア・スカーレットである。
「選手交代よ。ここからは私がやらせてもらう! 覚悟は良いかしら、お客様?」
レミリアは怒りの感情を押し殺し、カストラートに不敵な笑みを送っていた。




