老婆の見下し
「へへ……。助かったんだぜ、霊夢……」
魔理沙は地面に押さえつけられて服に付いた泥を払いながら立ちあがる……。
「……急に、カッパの研究所から飛び出して行くんだから……」
「……お前が隠しごとをするからだぜ?」
「……って、ケンカしてる場合じゃないみたいね……。あいつらは何者なの?」
「さあな……。魔女らしいってことしかわからないぜ……。……後はあそこにいる金髪のおばさんが私の母さんに似ているってことくらいだ……」
「おばさんじゃないわ。おねえさんよ、マリサちゃん」
マリーは魔理沙のおばさん発言を否定する。霊夢はふうとため息をついて魔理沙に問いかける。
「……敵なの?」
「……おねえさんの方は多少味方っぽいが……、他の連中は敵だと思うぜ……」
「……違うな……」
霊夢と魔理沙は老婆のプレッシャーのこもった呟きに体を硬直させる。マリーも額から冷や汗を流している……。
「なにがどう違うってのよ!?」
霊夢は老婆に向かって叫ぶ。老婆はにやりと口元を歪める……。
「そこのマリサとかいう小娘……。貴様は殺さねばならなくなった……。貴様はわしの人生の汚点じゃからな……。……貴様らとワシらは敵同士じゃ……。このマリーも含めてな……!」
「お、お母様……。あの娘はリサと何の関係も……」
「だまれ! 勝手な行動を取りおって……! いくら、貴様がわしの最高傑作だとしても、それ以上戯言を抜かすなら容赦はせんぞ……!」
「も、申し訳ありません……。お母様……」
マリーは老婆の怒号を受け、顔が青ざめる。
「なんなの? 仲間割れかしら?」と霊夢は大幣で肩を叩きながら老婆に視線を送る……。
「……これは見苦しいところをさらけ出してしまったのう……。……マリー!」
「は、はい……」
「そこの小娘には……リサの残りかすには簡単に死んでもらうわけにはいかんのう……。屈辱を与えてから死んでもらわねばならん。貴様の口から教えてやると良い……。なぜ、そこの小娘が出来そこないなのか、その理由をな!」
「なっ!? お母様……、私にはそんなことできません……! この子は出来そこないなんかじゃない……!」
「まだ、逆らうか……。ククク……、人間どころか、その辺の草木にさえ劣るこの小娘が出来そこないでなければ、なんだというのだ……」
「お母様、それ以上は……」
「黙れ!」
老婆はマリーの足元に向かって電撃を放つ……。電撃は当たらなかったが……、マリーは顔を引きつらせる……。
「……まあいい……。貴様が言えぬならわしが言ってやるまでじゃ……」
「……仲間にそんな仕打ちをするなんて……。狂ってるわね、アンタたち……」
霊夢は頬を掻きながら苦笑いをする……。魔理沙は帽子のつばを持ちながら、老婆を睨みつけていた。
「小娘……。そんなにワシを睨みつけて……どうしたんじゃ?」
「……自分の母親に似ている人間を恫喝されて気分が良くなる奴はいないぜ……。それに……、ばあさん……あんたは私の母さんを馬鹿にしてるみたいだからな。ちょっと頭にきてるんだぜ!」
「ふむ……。残りかすには残りかすなりのプライドがあるということじゃな……。くだらんのう……」
「……さっきから魔理沙のことを出来そこないとか残りカスとかって言ってるけど……、さすがに失礼じゃない? 私が聞いても酷いと感じるわよ……」
「残りカスなのも出来そこないなのも事実じゃからのう……。仕方あるまい? それに黒髪のお穣ちゃん……お前もわかっているのじゃろう? なぜその小娘が出来そこないなのか、その理由を……」
「…………」
霊夢は老婆の言葉を聞き、無言で眉間にシワを寄せる……。魔理沙は霊夢が口を開かないことを不思議に思い、問いかける。
「おい、霊夢……。研究所の時といい、今といい、何を隠しているんだよ!」
「哀れじゃのう……。友人にまで気を遣われておるとは……。小娘……、貴様には『運』がないんじゃよ……。その辺の草木にも、小石にすら宿る『運』がな……」
魔理沙よりも背の低い老婆は魔理沙を見上げている……。しかし、その眼は魔理沙を見下していた……。




