出来そこない
「へへへ……。えらく強力な魔法を使ってくれるんだぜ……。殺す気か?」
魔理沙は額に冷や汗をかきながら立ちあがり、苦笑いを浮かべる……。対して老婆は冷静な様子で淡々と答えた。
「今の攻撃は最初から外すつもりじゃったが……、仮に当たってしまって、おぬしが死んだとしても特に問題はなかったのぉ……」
魔理沙は表情を見て、老婆が言っていることが冗談でもなんでもないことを悟る。老婆は魔理沙を殺すことに躊躇などないらしい……。魔理沙は両手を軽く上げ、老婆たちに対する敵意がないことを表す。
「……ばあさん、あんた、私のことを出来そこないと言ってくれたな。人里で会ったときと評価が変わり過ぎてるんじゃないか? あの時、私が魔法を見せた時、『洗練された良い魔力』だと言ってたじゃないか……」
「フフ……。そうじゃったな。だが、同時にこうも言ったはずじゃ……。『惜しい人材』だともな。まさか、客に出来そこないと言う訳にもいかんじゃろう?」
「……アンタが売っていた水晶だが……、誰でも魔法が使えるだけじゃないんだろ? ろくでもない機能を隠しているみたいだな。調べは付いてるんだぜ?」
「ほう……。気付いていたか……。じゃが……、隠している機能の正体まではわかっておらぬのだろう? でなければ、隠している機能などという言い方はせんじゃろうからな」
「まあな……」
魔理沙は老婆と取り巻きの魔女たちの注意を会話に向けさせながら、彼女らの位置を確認する。隙を見て魔法を撃ちこむためだ……。倒すつもりはない。逃げられれば良い、と魔理沙は考える。魔理沙はエプロンのポケットに入れているミニ八卦炉の位置を触覚で確認し、攻撃に備えた……。しかし、それを見越したかのように老婆が口を開く……。
「無駄じゃよ」
魔理沙は老婆の言葉に反応し、眉をぴくっと動かし、眉間にシワを寄せる……。
「無駄……? なんのことなんだぜ?」
「わしらに魔法を撃ちこもうとしているんじゃろう? それが無駄だと言っておるんじゃ……」
「……ちょっと、私を舐め過ぎだと思うんだぜ。アンタ達がどれだけ力のある魔女なのかは知らないが、魔法のパワーだけならベテラン魔女にだって私は負けるつもりはないんだぜ?」
「そうじゃろうな。おぬしの魔力は洗練されておるからのう。魔法を発動すれば強い威力が出るじゃろう……」
「褒めてくれてありがとう、なんだぜ。だが、そこまでわかってるなら、何を考えて無駄なんて言うんだ?」
「……わしらを攻撃してみたらわかるぞ? ほれ、邪魔はせんから魔法を撃ってみるといい……」
「馬鹿にしやがって……。後で後悔しても知らないぜ!」
魔理沙はエプロンのポケットからミニ八卦炉を取り出し、老婆たちに向ける……。
「スターダストレヴァリエ!」
魔理沙は魔法名を叫ぶ。『スターダストレヴァリエ』は、魔力を星型のエネルギーに変えて大量に放出する魔法だ。しかし、星が出ることはなかった。魔理沙の魔法は発動しなかったのである……。
「な、なんで……」
魔理沙が愕然としていると、二人の魔女が魔理沙に襲いかかり、地面にうつ伏せにする形で拘束する。
「だから、無駄じゃと言ったじゃろう? 出来そこないの魔法使いよ……」
老婆は魔理沙を見下し、顔を悪意に満ちた表情で歪めるのであった。




