紫の目的
「……愚かなことをしたものじゃ。ここまで高度に混じり合っているのであれば、ヒトのままでいた方が勝機もあったじゃろうに……」
「……あいにくだけど、人間の寿命は私には短すぎるのよ」
「妖怪になったところで、貴様の目的が叶うことはないがのう……」
「あら? どうして私の目的をご存じなのかしら? 心でも読んだ?」
「心を読むまでもない。簡単な推測じゃ。そもそもワシには読心術の心得はないからのう。……アダム因子の肉体を持っていながら、さきの闘いではリリス因子の肉体消費を選択しなかった。つまり貴様の目的は、その身に宿るリリス因子の肉体を完全な状態にすることじゃろう?」
「……ああヤダヤダ。これだからお年寄りは相手にしたくないのよね。でも聞き捨てならないわね。なぜ私の目的が叶わないと断言できるのかしら……」
「それも簡単なことじゃ。ワシに出来ないことが貴様にできるはずがあるまい!」
リリスは怒鳴りながら、次元の刃を生成し、紫たちに向けて撃ち放った。迫る刃に向け、手を翳した紫が「はっ!」と気合いを入れると、たちまちに刃は消滅した。
「……オリジナルであるワシの術を消し去るほどとは……。八雲紫、貴様の持つリリス体はかなりの上玉のようじゃのう……」
「ええ、世界一だと思うわ」
「それはまた、かなり入れ込んでおるのう……」
対峙するリリスと紫。そして魔理沙はそんな二人を見ることしかできていなかった。会話内容は意味不明だし、二人の闘いに割って入れるとも思えない。魔理沙の境界を破る力は若返ったリリスには通用しそうになかった。
「貴様も大変じゃのう。おもりをしながら闘わねばならんのじゃから……」
魔理沙に視線を向けながら、リリスがクククと笑う。悔しいが、リリスの言葉は真実だ。魔理沙は紫に話しかける。
「おい、紫。どうやら私はここにいても邪魔にしかならないみたいなんだぜ」
スキマで逃がしてくれないか、と暗に尋ねてみる魔理沙。しかし、紫から帰ってきた答えは意外なものだった。
「邪魔なわけないでしょ」
「えっ……?」
「言ったでしょう? 貴方には幻想郷を守ってもらうわ。それとも貴方の幻想郷への想いはその程度なのかしら?」
「なっ!? 挑発してくれるんだぜ……」
「魔理沙……。アイツの言う通りよ。私の能力は私の持つ伊弉冉体の量に依存する。つまり制限時間があるということ。対してリリス……でいいのかしら? ヤツには時間制限がない。倒すには人手がいるわ。……魔理沙貴方、アイツに勝てる?」
魔理沙はスーッと深呼吸する。正直、自分に勝てる算段はない。だが、言う言葉は決まっている。
「当たり前だぜ」




