キメラ体
「……イザナミ因子じゃと……? モンスターよ、そう言ったか?」
「ええ言ったわよ。それとも若返ったのに耳はまだ遠いままなのかしら?」
リリスの問いに紫が嫌味で応える。
「減らず口を叩く女じゃな。……なるほど、おかしいとは思っていた。ワシしか持たぬはずのリリス因子……。数十億年の間、因子を持った人間が生まれたことなどなかった。……ワシ以外のリリス因子、その気配を感じたのはわずか千年ほど前。しかも文明が築かれたばかりの原始惑星に突然現れた。……八雲紫と言ったか? 貴様、並行世界から来た存在じゃな?」
「どうかしら?」
「とぼけたところで何になる? まあ良い。貴様の持つ伊弉冉因子とやらは、並行世界におけるリリス因子というわけじゃな? ……どれだけ似ていたとしても構成が同じだったとしても所詮は紛い物。あと少しでそんな粗悪品を『依代』にするところじゃった。マリーやリサを候補から外した判断はやはり正しかったのう……」
「依代……貴方、伊弉冉因子を持つ人間をどうするつもりだったの?」
「どうするつもりもない。今となってはの」
「おい、さっきからお前ら何を話してるんだぜ?」
リリスと紫の会話に割り込む魔理沙。リリスは不敵に笑う。
「貴様らを生かす意味はもうないということじゃ!」
リリスは次元の刃を横一線に放つ。紫、魔理沙をまとめて始末する算段の攻撃である。
「効かないわ」
紫は次元の刃に再び手を翳す。すると、刃は最初から存在しなかったかのように消え去った。
「やはり、ワシの力に対抗できるか? つい先ほどの戦闘では年老いたワシにすら劣っていたというのに……。……分かっているぞ八雲紫。貴様はリリス因子の魂(人間)ではない。アダム因子の魂がリリス因子の肉体に入っている歪なモンスター。それが貴様の正体じゃ。境界の力を本来通りに発動するには肉体を消費しなければならない。そうじゃろう?」
「そちらこそべらべらとよく喋るわね? 若返って気分も高揚しているのかしら? お婆さん!」
「よく言うわ。貴様も十分年老いているじゃろうに!」
リリスがスキマを開き、入り込む。紫は咄嗟に魔理沙を蹴り飛ばす。
「いった!? 何するんだゆか……!?」
魔理沙の鼻先をリリスの魔法で造られた光の剣がかすめる。紫が蹴り飛ばしていなければ、魔理沙の体は真っ二つだっただろう。
「読みが良いのう! じゃが、近づけたぞ! 魂と身体の因子が異なるのならば、境界を分けるのは容易いぞ? 貴様の魂、体から引き剥がしてくれる!」
リリスは紫の体に触れ、境界の力を発動する。
「…………っ!? なにっ!?」
バチっという音と共に、リリスの手が紫の体から弾かれた。
「くっ!? えげつないことしようとするわね……」
愚痴りながら紫が冷や汗を流す。
「なるほど……。単にリリスの肉体を持っているわけではないといことか。……高度にアダムの肉体とリリスの肉体が混じっている……。キメラ体と言う訳か……」
リリスは面倒だ、とでも言いたげな表情で分析するのだった。




