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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
209/218

障碍

――魔法の森――

 二人の金髪女性が森の中で倒れていた。

 魔理沙の伯母マリーと幻想郷の賢者八雲紫である。マリーは既にこと切れており、八雲紫もまた、両足切断の重傷を負っていた。

「まだ起きないのか。幻想郷の賢者失格だな」

 顎に手を当て、ニヤリと笑う女が一人。彼女もまた金髪であった。名は摩多羅隠岐奈。八雲紫と同じく幻想郷誕生に携わった『賢者』である。

「うぐ……」と紫がうめき声を上げる。意識を取り戻そうと眉間に皺が寄っていた。

「おはよう、八雲紫。よく眠れたか?」

「う……? この声は……、摩多羅隠岐奈ね……。っ痛!?」

 両足に激痛が走る紫。下半身に視線を向けると、ふうと溜息を吐いた。

「そうだったわね。あの老婆にやられたんだった……。回復には時間がかかりそうね……」

「手ひどくやられたようだな?」

 にやけた表情で横たわったままの紫を見下ろす隠岐奈。緊張感のない表情に紫は苛立ちを隠せない。

「お陰様でね。どこかのだれかさんがなんにも手伝ってくれないからこの様よ!」

「私に文句を言うならお門違いだ。あの老魔女は特殊だ。私ではあれには勝てん。挑むのはお前たちの役目だ」

「お気楽決めてるんじゃないわよ」

「好きで決めてるわけじゃない。アレがスキマの力を使えることくらいは私にも分かる。スキマに対抗できる力はスキマだけ……。そうだろう?」

「よく言うわね」

 紫と隠岐奈が会話していると、太陽が欠け始めた。テネブリスが若返るために皆既日食を起こしたのである。

「日蝕……!? そんなはずはないわ。まだ日蝕までは日にちがあったはず……!?」

「あの老婆、なかなか派手なことをするじゃないか。だが一体何が目的だ?」

 太陽が完全に月に食われたと同時に、激しい光が人里で放たれた。紫と隠岐奈はあまりにも強い光に目が眩む。

「何をしたの!?」

「いい事ではなさそうだな」

 紫の驚嘆する声に、隠岐奈の冷静な言葉。やがて光は収まり、光の代わりに届いたのは圧倒的な気配であった。

「こ、これは……とんでもない化物が現れたようだな……。……あの老婆、若返ったか……」

「……これが神の子……、人間因子の真の力なのね……」

「紫、怖気づいているのか?」

「正直ね」

「それは困るな。お前には今から体を張ってもらわねばならんというのに」

「自分は手を出すつもりはないくせに……」

「ではやらないのか? 霧雨魔理沙を見殺しにするか?」

「……戦おうにもこの足じゃあね」

 紫は上半身を起こして足を見つめる。良く見れば足には、境界を操ったことによる回復痕があった。魔理沙や隠岐奈にはできない芸当。マリーが治療を施してくれたのだろう。

「足が欲しいか?」

 問いかける隠岐奈に紫は怪訝な表情を浮かべた。

「何言ってるのよ?」

「忘れたか? 私が障碍を操る神だということを。……私の生命力を分けてやる」

 隠岐奈が両手を大きく広げる。同時に隠岐奈と紫の背中に扉が現れて開いた。隠岐奈の足から発生した光の粒子が隠岐奈の扉に吸い込まれる。同時に紫の扉から光の粒子が足に降り注がれると、失われた足が再生されていった。

「おっと、足に力が入らない。……二童子!」

 隠岐奈の呼びかけとともに、どこからともなく丁礼田舞と爾子田里乃が駆け付け、豪華な車いすを用意し、隠岐奈を座らせる。

「お前の障碍を私が引き受けてやった。この貸しは高く付くぞ?」

「勝手にやっておいて何が貸しよ。押し売りじゃない」と強がる紫。

「では返してもらおうか?」

「絶対嫌ね。……代金はおいくらかしら?」

「体半分……かな?」

「……無茶を言ってくれるわね。高過ぎない?」

「それくらい代償を払ってくれないと、ヤツには勝てんだろう?」

「……そうね。仕方ない。払いましょう。これだけ集めるのに苦労したのだけれど……」

 紫は言いながらスキマを展開する。

「……隠岐奈。戦闘が始まれば、私は結界に注意を払えないわ。頼んだわよ」

「承知した」

 紫は自身の身体をスキマに放り投げ、消えていった。

「幻想郷の未来、お前たち『人間』に託したぞ?」

 隠岐奈は力の入らない足をさすりながら、人里に視線を向けるのだった。

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