闇の神、光の神
――百数十億年前のむかし、二柱の絶対神によってこの宇宙は誕生した。……いや、その表現は語弊があるかもしれない。なぜなら宇宙は絶対神であり、絶対神こそが宇宙であるからだ。宇宙があるから神がいるのか、神がいるから宇宙があるのか……、それは絶対神である二柱にも分からなかった。
絶対神が二柱いるという矛盾。故に二柱の神は殺し合いを始めた。この宇宙の主を決めるために……。
形無き全知全能である二柱、『闇の神』と『光の神』は互いに譲ることなく、存在をかけて争い続けた。二柱の能力は全くの互角。神たちは自分が世界を陣取ろうとそれぞれが『物質』を産み出した。
二柱の産み出す物質は互いを打ち消し合う力を有していた。闇の神が創り出す物質と光の神が創り出す物質は互いが接触すると対消滅を起こす。後の世に人間が『物質』と『反物質』と分けて呼ぶようになる二柱が創り出すそれぞれの物質。二柱は互いの能力をぶつけ合い、生成と消滅を繰り返した。
長期間に渡った神同士の戦争。しかし、じわじわと、だが確実に、雌雄が決しようとしていた。闇の神が生み出す物質の量が光の神が生み出す物質の量をわずかに上回り始めたのだ。これもまた後世、人間たちにより『対称性のゆらぎ』と強引に理屈付けられる光の神の敗北だった。
……存在をかけた激しい闘争。その末に勝利の美酒を手にした『闇の神』。
無限にも感じる長い『対消滅戦争』だったが、後世の人間たちの観測では1秒にも満たないというのだから驚きである。
闇の神が宇宙の主神となったことで、宇宙は闇の神の『物理法則』に支配され、暗闇に包まれた。
闇の神は創れる限りの物質を産み出した。最初はただの粒子に過ぎなかった物質たちは互いに引き合い、原子となり、分子となり、だんだんと巨大な塊となる。
無数に生まれた巨大な塊。その中でも一際大きな塊に闇の神は自身の『光を操る程度の能力』を分け与え、恒星として生まれ変わらせた。
恒星が生まれ、恒星になれなかった塊が惑星となり、宇宙が現在の形に近づいた頃、闇の神は『答え』を探し求めていた。それは全知全能の神を持ってしても解き明かせない自身の存在理由。闇の神はその答えを知るため、生命体を産み出した。いくつもの生命体を産み出す中である時、知性に優れた一つの生命因子を闇の神は創り出す。
一対の番として生まれたそれを、愛と憎悪を併せ持つ哀れで愛しいこの生命因子を、闇の神は『人間』と名付けた。
男の人間には『アダム』という名を、そして女の人間には……『リリス』という名を与えた。初めて自身と対話することができる生命を産み出した闇の神は、二人のことを溺愛し、リリスには闇を表す『テネブリス』の姓を与えた。
ここに最初の人間であり、最初の魔女となるリリス・テネブリスが誕生したのだった。




