チャンバラごっこの叩き合い
「さて、どうする霧雨魔理沙? ワシの方が実力ははるかに上じゃろう? それはお前も解っておるはず」
「月並みな回答で悪いが、どれだけ実力差があったとしても、闘わなきゃいけないときがあるんだぜ?」
「確かにそうかもしれんのう」
言い終わるや否やテネブリスは次元刀を振り、魔理沙もろとも空間を切断しようとした。だが、魔理沙も魔力を込めた箒で受け止める。次元刀は高温の破壊音と共にガラスのように砕け散った。
「フン。この程度の密度では貴様には効かんというわけか。ならば……」
テネブリスが杖に、より一層強い魔力を込め始めた。
「何をするつもりなんだぜ?」
杖の先端に透明の刃が出現する。辛うじて揺れる大気によって視認が可能な程度の透明さだ。
「広範囲の刃でダメならば、高密度の刃と言う訳じゃ……。きえぃ!」
テネブリスは老婆と思えぬ高速移動で魔理沙との間合いを詰める。
「うおっ!? は、迅い!?」
魔理沙は咄嗟に箒で刃を受け止める。
《くっ!? わ、割れない? さっきまでの空間斬りとは全然違うんだぜ!》と魔理沙は心の中で叫ぶ。
「この密度ならば、貴様の境界破りも発動せんようじゃのう!」
「くっそ! 婆さんのくせにゴキブリみたいな素早さなんだな!?」
「害虫扱い程度で挑発に乗るワシではないぞ?」
「よく言うぜ。十分短気にしか見えねえよ!」
魔理沙とテネブリスは箒と杖を鍔迫り合いのように押し合う。
「うぉおおおおおおおおお!」
魔理沙が気合を入れ、箒に魔力を込める。より激しく光る箒は境界破りの能力を高め、テネブリスの刃に亀裂を入れた。
「ぬうううううう!?」
箒を振りほどくように杖を振るったテネブリスは兎のように飛び退いた。
「まだワシの境界の力を凌ぐか霧雨魔理沙!」
《どうする!? 私の術はアイツに効かない! 今のところヤツにも決定打はなさそうだが、このままじゃジリ貧なんだぜ……》
「攻撃して来んのか? ならばワシからいかせてもらうぞ!」
テネブリスは刃を再生させると、魔理沙に斬りかかった。幾度となく斬りかかってくる刃を魔理沙は受け止め続ける。魔法使い同士の闘いとは思えない傍から見ればチャンバラごっこのような杖と箒の叩き合い。しかし、魔理沙にしてみれば一瞬たりとも気の抜けないぶつけ合いだ。
刃を退け続ける魔理沙だが、テネブリスの猛攻に体勢を崩し、わずかによろけてしまった。
「きええええええええええ!」
テネブリスは魔理沙の隙を見逃さなかった。甲高い声と共に老魔女は魔理沙目掛けてフェンシングのように突きで攻撃する。
「しまっ……!」
失策の言葉を言い終わらぬ魔理沙に、箒の防御をすり抜け刃が襲う。……気付いた時にはもう刃は魔理沙の右肩に到達するのだった。




