対戦再び
――ここは人里。といってもテネブリスの爆炎によって更地と化した今、その名残は全くなかった。
「……では始めるかのう……。積年の恨みを解き放ち、願いを成就するときがきたのじゃ!」
荒野の中、テネブリスは独り言を大きく叫んだ。
「……あの爆炎から生きて帰るとはのう。まだ邪魔をするか……マリー」
テネブリスはキッと魔法の森の方向を睨みつけた。彼方から超スピードで飛んできたのは……霧雨魔理沙だった。
「戻って来てやったぜ! 老魔女さんよぉ!」
「……マリーではないじゃと? なぜ運を持たぬお前が魔法を使い、空を飛んでいる?」
「……受け継いだんだぜ。母さんとおばさんからな!」
「なるほど……。マリーは自分の命と引き換えに、貴様に運を渡したということか……。無駄なことをしたものじゃ」
「無駄なんかじゃないぜ。今からお前をブッ倒せるんだからな!」
「クク……。できるはずがなかろう。逃げておけば良かったものを……。せっかく生き延びた命を無駄にするとはのう」
「幻想郷を放って逃げられるわけないんだぜ」
「ふん。そこまでこの地を愛しておるか。ならばこの幻想郷諸共貴様を屠ってくれよう……!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
テネブリスは『境界を操る程度の能力』を応用し、空間を切断する。次元を切り裂く刃が魔理沙へと迫るが、魔力を込めた箒で受け止めた次の瞬間、次元刀はパリンと音を立てて粉々に砕け散った。
「やはり境界の力に目覚めておるか。破壊限定とはいえマリーを上回る力……。小癪な娘じゃのう」
「……『人間因子』を持つ者が使える力だみたいなことを言ってたな。人間因子ってのはなんだ? 今度こそ答えてもらうんだぜ」
「何度も言わせるでない。貴様に説明する必要はない!」
テネブリスは杖を魔理沙に向け、水魔法を放射した。高圧の水魔法が魔理沙に襲いかかるが……。
「……コントロールしてやる!」
魔理沙は水に向かって魔力を放出した。魔理沙の魔力を受けた水魔法は勢いを失い、球状になる。
「四大元素のひとつ、水をその支配下に置いたか……。ならばこれならどうじゃあ!」
今度はかまいたちのごとき強風が魔理沙に襲いかかった。風圧に耐えられなかった魔理沙は上空へと吹き飛ばされる。
「クッソ! なんて風吹かせやがる!?」
箒を握り締め、空中で体勢の確保を試みる魔理沙。だが、目の前に『スキマ』が現れる。「死ね! 小娘!」
突如としてスキマから出てきたテネブリスはバランスの戻らない魔理沙に次元の刃を首元に向かって射出する。
「うわっ!?」
なんとか体をのけ反らせて避けた魔理沙だったが、次元刀の先端が顔を掠める。慌ててテネブリスに正対するが、わずかに切れた右頬から血が垂れる。
《やはりな。霧雨魔理沙の境界を破る力は常時発動しているわけではないようじゃのう。防御のために魔力を盾にした時にだけ発動する……。コントロールできているわけでもない。一種の生存本能のようなものじゃ。魔力を込める隙を与えなければ、ワシの境界を操る程度の能力に干渉することはできん》と、テネブリスは魔理沙の能力を分析する。
「くっ!? 私の力は完全にあの婆さんの能力を封じるものじゃないのか!?」
「どうやら、ワシの攻撃をこれまで防げていたのは偶然だったようじゃのう!」
テネブリスは魔理沙の動揺を誘おうとする。魔理沙が防御ではなく、逃げに入れば次元の刃で屠れると考えたからだ。しかし、魔理沙は逃げない。
「防げないなら、やられる前にやるだけだ!」
ミニ八卦炉をポケットから取り出し、発射体勢を構えた魔理沙は大声で術の名を叫ぶ。
「マスタースパァアアアアアク!!」
「高密度の巨大エネルギー光線か!」
テネブリスは自身の周囲に球状のバリアを張った。飲み込まれるテネブリス。一時の間の後、マスタースパークが通り過ぎ、ひびの入ったバリアに覆われたテネブリスが姿を現す。
「……効かないか……」
「ワシの防護魔法に傷をつけるとはのう……」
想定を超えた相手の力量。魔理沙は苦笑いを、テネブリスは余裕のある笑みを、それぞれ浮かべるのだった。




