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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
192/214

下衆なイベント開催

「作戦……?」


 マリーは不安そうな表情でリサに聞き返した。


「ああ! ま、作戦っていっても大したことじゃあないんだぜ? どんなことをしてでも、私が残りかすの方にになってやるってわけだぜ」

「な、何言ってるの!? リサに辛い思いさせられるわけないじゃない……。私がお姉ちゃんなんだから!」

「……強がるなぁ姉さん。怯えて涙流してるってのに……」

「うっ…………」


 マリーはリサに指摘され、顔を赤らめると慌てて涙を拭う。


「残りカスなんて言い方、私はしたくないけど……選ばれないのは間違いなく私よ。誰に聞いたってそう答えるわ。だって、私とリサとじゃ魔法使いとしての力量の差が天と地ほどにもかけ離れているもの……。お母様は絶対に貴方を選ぶ。貴方に全ての力を集約するに決まってるじゃない……」


 マリーのルークスにおける常識的な回答にリサは悪戯な笑みを浮かべた。


「どうも、そうとは限らなそうなんだぜ?」

「…………?」


 マリーはキョトンとする。リサが何か確信を持って答えていたからだ。


「でも、姉さん。嬉しかったぜ? 私を守るためなら自分が選ばれなくても仕方ないって思ってくれてたんだよな? たとえ自分が死ぬことになったとしても……。そんな姉さんだから、私は信じて託せるんだ、任せられるんだ。私の全てを……」

「……リサ?」

「作戦はこうだ……。ただの力技のゴリ押しなんだけどさ……」

 ………………

…………

……


◇◆◇


「はいはいはーい! 今からイベント始めまーす! 参加したい奴らはどうぞこちらにー、なんですけど?」


 ルークスアジトの大食堂で掛け声を出している褐色銀髪の魔女がひとり。ルークス幹部階級『ドーター』の一人、プロメテウスである。

 彼女は昼食を終え、大食堂で情報交換をしている多数の魔女たちに聞こえるように提案し始めた。


「この薄暗いアジトだし、たまには面白いことやらないと本当に陰気になっちゃうじゃん? てことで、久しぶりに皆で賭けをしない? ってことなんですけど!」

「賭けねぇ。あまり上品なことじゃあないですわね。私はパスさせてもらいますわ」


 真っ先に声を出したのはドーター『山祇イワナガ』だったが、彼女はそう言い残して食堂を出ていった。


「開口一番ノリの悪いこと言って邪魔しないで欲しいんですけど!? ま、イワナガは放っておくことにするわけ!」

「んんんんんん! 賭け自体に参加するのはやぶさかではありませんが……、まずは賭けの内容をお教え頂けませんかねぇ?」


 モーニングを来た片眼鏡の魔女が質問した。自身を悪魔貴族と言って憚らないドーター『ダンタリオン』である。


「賭けの内容は簡単なんですけど? みんなも知ってるじゃん? 今度、マリー&リサの実験をお母様が実行される……。で、どっちが残りカスにされるか賭けようって話なわけ!」

「んんんんん! 中々に下衆な賭け内容ですねぇ……。しかし、悪魔貴族のわたしとしてはその悪魔らしい内容に惹き付けられました。その賭け、参加して差し上げましょう……!」

「ノリいいじゃん、ダンタリオン! さてさて、もっと参加者がいないと賭けにならないわけ! ドーターじゃなくても、平の魔女でも参加大歓迎なんですけど!」


 プロメテウスが賭けに参加するよう喚く。

 その様子を窺っていた一対の魔女ペア。背の低い少年のような姿をした魔女が外套を被った女性としては長身の部類に入る魔女に話しかける。


「おやおや。プロメテウスのヤツが面白そうなことをやっていますね。ドーターでなくとも参加できるそうですよ? ルガト、あなた参加してはどうです?」

「わ、わたしは……や、やめておこうかな……。こ、こういうのお母様、き、きらってそうだもん……。カ、カストラートさんもやめておいた方が、()、良いよ?」


 黄色の美しい長髪と背中にはえる蝙蝠のような翼を外套で隠す長身魔女……、もとい吸血鬼『ルガト』はおどおどとした様子で答える。

 見慣れたルガトのおどおど姿に少年風の魔女『カストラート』はため息を漏らす。


「いつまでもお母様の顔色を窺っているだけでは、『ドーター』になることはできませんよ? ま、吸血鬼(実験動物)を憎んでいる僕としてはお母様に特別扱いされている貴方がドーターになれなくても何の問題もありませんがね。……僕は参加することにしましょう。退屈なルークス(クソ組織)の日常にはたまのスパイスが必要ですからね。……プロメテウス! 僕も参加してあげますよ?」


 カストラートの呼びかけにプロメテウスは不機嫌そうに振り向く。


「あーん? カストラートなんですけど! ……相変わらずの上から目線口調、ムカつくけど今回は眼を瞑っておいてやるわけ!」

「偉そうなのはあなたの方でしょ?」

「ホントにムカつくんですけど! 私の方がドーターとしても魔女としても先輩なわけ!」

「おや? お母様は魔女の序列は実力で決まるとおっしゃっていたはずですが?」

「減らず口なわけ! 実力でも私の方が上なんですけど!?」


 二人の口論がヒートアップする中、一人の魔女……いや、神の声が食堂に響いた。


「はいはーい。そこまでにしてくださーい。まだ騒ぐというのならー、ヴァジュラの(いかづち)で二人とも真っ黒こげにしちゃいますよー?」


 間延びしたギャル風の口調でその神はカストラートとプロメテウスに圧をかけていた。柔らかそうなその口調と反比例したプレッシャーに二人は思わず体を震わせる。


「……くっ……!? インドラ…………さん……」

「さんを付けるのが遅かったのは見逃してあげますよー? カストラート……!」


 ルークスの幹部階級『ドーター』において唯一『シスター』を名乗ることを許された神クラスの魔女『インドラ』は今風のギャルが着るような服に魔改造した袈裟を身に付け、微笑みをカストラートに向けている。

 だが、眼の奥は笑っていないことは明らかだった。


「プロメテウスちゃーん? 駄目じゃない、喧嘩なんかしたらー? それは予定にないでしょー?」

「す、すいません。インドラ様……」

「えー? そんな、『様』なんてやめてよー。私たちはお友達なんだからー。『インドラちゃん』って呼んでくれなきゃー。あと、タメでいいよーっていつも言ってるでしょー?」

「あ、あはは……。ご、ごめんね。インドラちゃん……なわけ……」


 プロメテウスは声を震わせながら、インドラにタメ語を使う。


「そーそー。それでいいのよー。プロメテウスちゃん! さ、胴元の役割を続けてちょうだーい?」


 インドラはプロメテウスに賭けを続けるように促した。それを見ていた他の魔女たちは察する。

 プロメテウスはインドラの意志のもとに賭けを提案したのだろう、と。

プロメテウスも決して性格の良い魔女ではない。死体や魂をモノのように扱う女だからだ。この下衆な賭けイベント自体はプロメテウスが考え付いたのだろう。

 しかし、その実行にゴーサインを出したのはインドラに違いない。

 このルークスにおいて実質ナンバー2の座につくインドラ。そんな彼女が裏側から開催するイベントだと知った以上、有象無象の下級魔女たちはプロメテウスの促すままに賭け事へと参加するほかなかった。……参加しなければ、インドラからどんな仕打ちを受けるか分からないからである。


「うんうん。それでいいのよー。あなたたちー」


 インドラは満足したような表情で微笑む。彼女にとって賭けやイベントの内容などどうでもいいのだ。自分の存在が弱者たちの心と動きを支配していることを確認できればそれでよかったのである。

 弱者に畏怖の念を抱かせる。それは神であるインドラにとって本能のようなものであった。その目的が達成された以上、もはや賭け自体に興味はない。見届けるだけ。それでインドラの欲求は満たされる……はずだった。


「ちょっと、みんなして『マリーが残りカス』になるに賭けたんじゃ賭けにならないじゃん! 誰か、『リサが残りカス』になる方に賭けないと面白くないんですけど!? …………あと、数が足りないんですけど? 今この食堂内には私とインドラちゃんを除いた31の魂がいるはず。ネクロマンサーである私が言うんだから間違いないわけ。それなのに、29人しか賭けてないんですけど!?」


 プロメテウスの発言にインドラはピクリと眉を吊り上げた。怒りのままに第3の眼を開眼しそうになるところだったが、グッとこらえる。

 インドラが開催した賭けに参加しない人間が二人もいる。一人はインドラも心当たりがあった。お母様テネブリスのお気に入りの吸血鬼、ルガトである。

 おどおどしている様子を見せるくせに、テネブリスに気に入られていることを自覚しているのか、時折り舐めた態度を取ることはインドラも把握していた。これで舐めた真似をされたのは何度目だろうか。今すぐにでも殺してやりたいくらいだが、ルガト(ヤツ)はお母様のお気に入り。殺すわけにはいかなかった。癪だが、ルガトに関しては仕方ない。問題はインドラに逆らう者が『もう一人いる』ということだ。


「……百十七号、お前じゃん? ルガトを除けばお前だけがこの賭けに参加してないわけ! どういうつもり!? なんですけど!!」

「だ、だってきっとお母様(グランマ)はこんなことしたらお怒りになるもの……!」


 百十七号と呼ばれた少女は幼さの残る高い声で反論していた。

 インドラはにやりと笑う。逆らっている者がだれかと思えば、過剰にテネブリスに忠誠を誓うただの人形だったからだ。そう、この百十七号はテネブリスが『依代(よりしろ)』にしようとして作った人形たちの最新作で最終作。テネブリスは人形では依代にはなれないと判断し、百十七号以降『完全自動人形(パーフェクトオートマタ)』を作ることはなくなったのである。

 テネブリスはもうこの百十七号に魔力を与えることをやめている。興味を失ったからだ。

今は奇特な『人間』がテネブリスに代わって魔力を百十七号に与え、命を繋いであげているのだ。そのことをインドラは知っていた。

 インドラは思う。《こいつを殺してもテネブリスは何も反応を示すことはない。良い機会だ。こいつをいとも簡単に消滅させる私の姿を他の魔女に見せつけ、神の怒りを買うとどのような目に遭うのか知らしてめてやろう!》と。


「下級魔女の分際で私に盾突くなんてー。頭の悪いお人形さんですねー。……我自ら殺してくれるぞ? お前が服の下に隠し、お姉ちゃん(シスターズ)と呼んでいる旧式の自動人形諸共のう……」


 口調をギャル風から神風に変えたインドラはその手にもつ金剛杵『ヴァジュラ』を槍のように変形させると、切っ先を百十七号に向ける。

 そして、切っ先から神雷が放たれる。超高速のまばゆい光。だれもが、百十七号の完全停止を確信したその時だった。

 一人の『人間』が百十七号の前に飛び出し、境界を展開する。開いた境界は闇色のスキマとなり、そこに飛び込んだインドラの雷は別の空間へと消えていってしまった……。

 スキマを展開した人間の魔女は涼しい笑みを浮かべていた。


「おいおい。たまにはここの食堂使ってやろうと思って来てみたら、気分の悪い賭けをしてくれてたんだぜ。おまけに物騒にも殺しまでしそうになってるし……。どういうつもりなんだぜ、インドラさんよ?」

「……リサぁ……!!」


 インドラは派手に登場し、自身の雷を無効化した人間の魔法使いに睨みを利かせる。

 そう、後の霧雨魔理沙の母である『リサ』に……

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