カチコチ
「……試してやるんだぜ!」
魔理沙はサッカーボール大の星型の魔法をシェディムに向けて撃ち放った。しかし、デーモンとなったシェディムに攻撃を恐れる様子はない。シェディムが恐れぬ理由。それは魔理沙の眼前で明らかとなる。
「……私の攻撃が体をすり抜けた……? こりゃまたとんでもないビックリ妖怪の登場なんだぜ……」
「言っただろう? 私の体は真四元素でできている。この世界とは反対の世界を構成する物質だ。貴様らの物理法則は私に干渉しない!」
「……何だって? ……お前の言うことが本当だとして、だったらなんでお前の凍てつく炎は私に干渉することができるんだぜ? お前には攻撃が効かなくて、私には攻撃が効く……。理屈が合わないんだぜ」
「ククククク。それこそが私がお母様から与えられた能力……。私は真四元素をこの世界でも具現化することができるのだ……。このようになぁ!」
シェディムはブンと腕を振るった。鋭いその振りから生まれた風圧は魔理沙の体を強く引き寄せる。
「くっ!? なんだ!? 風が起こったはずなのに……、吸い込まれる!?」
見た目は魔理沙を吹き飛ばすような風が起こったが、その風は見た目とは正反対の性質を宿して、魔理沙の体をシェディムのいる方へと吸い込ませる。
「何度も言わせるな、小娘。私の攻撃はお前の知る法則の外にある!」
シェディムは鋭い爪が伴った手で握り拳を作ると、魔理沙に向かって叩きこむ。魔理沙は持っていた箒で咄嗟に身構えた。具現化されたシェディムの拳は箒ごと殴り飛ばされる。なんとか宙でバランスを立て直した魔理沙は不満を漏らした。
「こっちは攻撃できないのに、そっちは攻撃できるなんて不公平も甚だしいんだぜ……!」
「フン。お母様が受けた不公平はこの程度ではない。……私の拳を受けてもピンピンしているとはな。やはり、人を超えた人間になりつつあるようだな。……お母様が貴様を依り代に選ばぬ以上、不穏分子を生かしておくわけにはいかんな。すぐに楽にしてやる!」
シェディムは大きく翼を羽ばたかせると、高速で魔理沙へと近づく。
「喰らえ……。私の凍てつく炎の拳を!」
シェディムの拳が青色の炎を纏う。拳を中心に周囲の空気がキラキラと輝く。急激に冷凍された空気に含まれる水蒸気が氷となり、光っているのだろう。
そこまで拳が冷えたのなら、術者自身にもそれ相応のダメージがいきそうなものだが……、そんな理屈は通じないらしい。シェディムは涼しい顔で魔理沙に襲い掛かる……!
「くっ……!? なんて冷気だ。触れるだけで凍傷しちまうに違いないぜ。……さっきと同じだ。炎には炎なんだぜ!」
魔理沙も負けじとミニ八卦炉から炎の魔法を撃ち放った。魔理沙の炎とシェディムの炎拳が激突する。
「どうだ……!?」
魔理沙はシェディムの様子を窺う。
「ぬるいぬるい。残念だったな小娘。温すぎるぞぉおおおおお!!」
魔理沙の炎をかき分け、シェディムは魔理沙の腹部に拳を叩きこんだ。魔理沙はゴフッと息を吐き出しながら、地面に転がる。
「あっ……。かっ……!?」
魔理沙はお腹をさする。エプロンが酷く凍っていた。だが、まだ生身にそこまでのダメージは来てないらしい。魔理沙は魔法で熱を起こし、エプロンを解凍する。
「ふん。そこそこに色々魔法を使えるようだな。器用貧乏というやつか?」
「う、うるせえな。私は未来の大富豪だぜ」
「まだ強がる元気があるか。だが、力量の差は歴然だったな。真四元素を操る私にお前は敵わない。大人しく死んでいろ!」
今度は吸い込む風を作りだしたシェディムは、魔理沙の体を引き寄せると……。
「凍って粉々になって砕け散れ!」
クリーンヒットだった……。シェディムの凍てつく炎拳を喰らった魔理沙の体はカチコチに凍ってしまうのだった。