真四元素の複合体
皮膚の色も肌色から赤みを帯びたような色に変色したシェディムは魔理沙に問いかける。
「小娘よ。この世界は何で出来ているか知っているか?」
「何だよ、クイズか? 原子や霊子、ダークマター……。挙げればキリがないんだぜ?」
「ククク。よく勉強しているじゃあないか。霊子を選択肢に入れる分、外の人間どもよりは深く、この世界の成り立ちを理解しているようだな。……そう、この世界は忌々しき闇の神が作り出した四元素の複合体だ」
「四元素? たしか、外の世界の西方で考えられていた物質の構成概念のひとつなんだぜ」
「ククク。『考えられていた』、か。やはり人間どもは愚かしい。神々から教わったことを自分たちの功績だと言って憚らないのだからな。厚顔無恥とはこのことよ……!」
「……で、なんでそんなクイズを出したんだぜ?」
「簡単なことよ。我の体は貴様のいう原子や霊子、ましてや四元素で構成されてなどいないという説明をしてやろうと思ってな」
「そりゃまた、変なことを言い出したんだぜ。じゃあ何で出来ているっていうんだぜ?」
「……かつて存在した人間の賢者どもは裏四元素と宣っていた。ふざけた話だ。『裏』などではない。私を構成している物質こそが『表』の四元素……。真四元素だというのに……」
「真四元素だぁ?」
「そうだ。私はその真四元素の内の二つ、火と空気で造られた。……喰らうが良い。真の炎を……!」
シェディムは悪魔の顔をさらに歪めた。翳した手から放たれた炎が魔理沙に向かってくる。
「な、なんだ、この炎……。何か違和感を覚えるんだぜ……!」
魔理沙は放たれた瞬間から、シェディムの繰り出した炎の異常さに気付く。炎が近づくにつれ、その異常さの正体が判明していった。
「こ、これは……寒い。冷たい!? 炎なのに、氷のように冷たいんだぜ……!?」
「当然だ。真四元素は四元素と対になっていたもの……。さぁ、小娘よ。我が炎で凍てつけ!」
シェディムの炎は周囲を凍らせながら、魔理沙の元へと襲い来る。
「……対って言ったか? なら、これをお見舞いしてやるんだぜ! 光魔法程得意じゃあないが、私の好きな魔法をな!」
魔理沙は八卦炉を構えると、炎の魔法を繰り出した。魔理沙の炎はシェディムの凍てつく炎と衝突する。すると、二つの炎はろうそくの炎が吹き消えるような穏やかさで互いを対消滅させていった。
「ほう。手加減していたとはいえ、私の炎と同程度の出力の炎を繰り出せるとは……。さすがはリサの娘か」
「予想は当たったみたいだぜ。お前の出す炎は反物質ならぬ、反炎ってわけだな。見た目は似ているが、性質は正反対……。面白いぜ」
「面白い、か。魔女らしい知的好奇心ある言葉だな」
「お前が良いやつだったら、お願いしてでも研究に付き合ってもらうところだろうが……、倒させてもらうぜ?」
魔理沙は、再びミニ八卦炉を構えると、術名を叫んだ。
「マスタースパーク!」
極太の虹色の光線がシェディムに向けて放たれた。輝夜との修行を終え、量、質ともに大きく向上したマスタースパークがシェディムを飲み込む。『勝負あった』と誰もが思うであろう攻撃。だが……。
「やっぱりそう簡単にはいかないか……」
魔理沙は冷や汗をかきながら呟いた。
「残念だったな、小娘」
シェディムは何事もなかったかのように、そこに居た。傷一つついていない姿で。
「……どういうことなんだぜ? 確かに当たったと思うんだがな……」
「言っただろう? 我が体を構成する物質は四元素ではない、と」
シェディムはにやりと口角を上げるのだった。