闇の神の天使
「……崇高なるお母様。その悲願のため、お前には死んでもらうぞ、リサの娘」とシェディムは語る。
「やなこった。……あの婆さんの目的ってのはな何なんだぜ? 母さんを苦しめ、霊夢を痛めつけて……、自分の仲間に命を懸けさせてまで達成しようとしているその悲願ってのの正体は一体何なんだよ?」
「……そうだな。『神の子』の復活……。それがお母様の悲願……」
「……『神の子』? そりゃまた、えらく大層なことを言い出したな。だが、どこの神様の子どもを復活させようってんだぜ? 世界には神様なんて、それこそ八百万にいるだろ?」
「くっくくく……。ははははは!」とシェディムは高笑いする。
「何が可笑しいんだぜ?」
「お前たちの言う神とやらは全て紛い物に過ぎん。お母様の望む神の子は、この世界の創造時から存在した真の神、そのご子息のことなのだからな」
「創造時の神……、だって?」
「そうだ。そして、私はその神の子の依り代として、お母様の魂を分け与えられた最初の『ドーター』」
「『ドーター』ね。そういや、百十七号とかいう人形も自分のことをドーターだと名乗っていたんだぜ……。ドーターってのは何なんだぜ?」
魔理沙は魔女集団の幹部レベルの魔法使いのことを『ドーター』と呼ぶことをまだ知らなかった。故に首を傾げる。
「くくくく。我らルークスの実力者を『ドーター』と呼んでいる……が。それはドーターの役割の一部でしかない。ドーターの真の役割は……依り代になること。もっとも、ドーターがその役割を果たす時には貴様は死んでいるだろう。今から私が殺すのだからな!」
シェディムは三天使に命ずる。
「三天使ども! お母様に仇なす、この人間を始末せよ! お母様に『ヒト』を殺されるにはいかんだろう?」
「……悪趣味な脅しをしてそうなんだぜ……。おい、天使(お前)たち。すぐに解放してやるんだぜ」
「ふ……。お母様がお掛けになった呪いが解けると思うか?」
「あの婆さんが掛けた魔法なんて、あっさり解いてやるさ」
「大きく出たな、人間! 天使たち、お母様に逆らう愚かな小娘に神の光を味合わせよ!」
三人の天使たちの目が一斉に光り出す。光は怪光線となって、魔理沙に襲いかかった。
「くっ!?」と息を吐きながらほうきに跨ると、魔理沙は次々と放たれる高速の怪光線を避けていく。
「ほう。中々すばしっこい動きをするではないか」
「私はパワーも自慢だが、スピードもそこそこに自慢なんだぜ?」
「ねずみらしい得意技だな」
「口の悪いやつなんだぜ」
「……天使ども、そろそろこの蠅を撃ち落とせ……! それとも、お前たちを生み出した『闇の神』の力はその程度と言う訳か?」
『キィイイイイイイイイイ』という生物離れした金属音のような声で天使たちは怒りをの感情を表現していた。怪光線の速度がまた一段と加速する。
「くっ!? まだ早くなるのかよ!? こいつらにとって『闇の神』とやらはそんなに大事な存在なのか!? うわっ!?」
光線が魔理沙のほうきに接触する。コントロールを失った魔理沙は地面に墜落する。
「よくやった、天使ども。あの速度で堕ちたならば、ただでは済むまい……」
油断するシェディム。だが、その隙を金髪の魔法使いは見逃さない。
「スターダスト・レヴァリエ!」
星型の魔法がシェディムに襲いかかった。すんでのところで星に気付いたシェディムは咄嗟に身構え、防御することで大ダメージを負うことの回避に成功する。
「あの勢いで堕ちて、無事でいるだと……!?」
シェディムは眼を見開き、地上でミニ八卦炉を構えて得意げに笑う魔理沙を、驚きの感情を伴った表情で見つめていた。
「明らかに人間の強度を超えている……? ……そうか。お前もお母様と同じステージに上がろうとしているわけか。……お前にも依り代としての資格があるというわけか……? ……お母様!」
シェディムがテネブリスに報告する。テネブリスは魔法陣の中心に陣取ったまま、シェディムの声に耳を傾ける。
「……この娘、気に食いはしませんが、少なくとも私よりも依り代に相応しいかと存じますが……。いかがしましょう」
「……始末して構わん。誰を依り代にするかはもう決めているからのう」
「……承知いたしました」
シェディムは魔理沙の方に向き直る。
「残念だったな小娘。貴様は依り代としても生きることが許されんそうだ」
「私が生きるのにお前らの許可をもらう必要なんてないんだぜ? 何様のつもりなんだぜ?」
「減らず口を……。今すぐ黙らせてやる……! ……天使ども、『裁きの天秤』を……!」
シェディムの命とともに、天使たちが大理石のように固まっていたはずの白い翼を柔らかく羽ばたかせ、魔理沙の頭上を覆うように羽を舞い散らせた。
「……なんだ? これは……?」
「……この聖(邪悪)なる羽は、お母様さえも苦しめた毒の羽。この羽は特定の『人間因子』に反応し、その因子を持つ者に破滅をもたらす……!」
「な、に……? かはっ……!?」
羽に触れた魔理沙は途端に吐血する。激しい吐き気とめまいが魔理沙を襲う。
「残念だったな小娘。特異な因子を持って生まれたのが不幸だったな。そのまま、苦しんで死ねぃ!」
魔理沙は喉を抑え、苦悶の表情でその場にうずくまるのだった。




