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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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結界の境界

――1時間ほど経過しただろうか。座敷で寝ていた魔理沙は誰かに起こされる。


「んあ? なんなんだぜ? 朝か?」

「寝ぼけるんじゃないわよ、霧雨魔理沙」

「お前は……。鈴仙何とかインばなな……だっけ?」

「アンタ、私の名前馬鹿にしてるわね。しばくわよ?」

「冗談、冗談。だが、そんなわかりにくい名前してるお前も悪いんだぜ? ……お前、何か耳の形ちょっと変わってないか?」

「……義耳をあの襲来したお姫様に壊されたからね。これはスペア」

「その耳、つけ耳だったのか……」

「この耳、本来の耳より性能が悪くて聞こえが良くないの。ノイズが多くてイライラしてるから、ご協力いただけると嬉しいんだけど?」

「露骨に不機嫌なんだぜ。……協力って何させるつもりなんだよ?」

「……中庭に来てちょうだい。そこでお師匠様たちが待ってるから」


 鈴仙は用件を伝え終わると、奥座敷を出て行った。


「一体何だってんだぜ?」


 魔理沙も立ち上がり、鈴仙の後を追って中庭へと向かう。そこには鈴仙の言った通り、八意永琳、因幡てゐ、蓬莱山輝夜が集まっていた。鈴仙は永琳に報告する。


「お師匠様、連れて来ました」

「待ってたわよ、魔理沙」と微笑む永琳。

「……もう兎たちの治療は終わったのか?」

「ええ」

「……それで、私に何を協力させるつもりなんだぜ?」

「これだよ、これ」


 因幡てゐが指さす先にあったのは、虹色に輝く一つの勾玉……。それを見て魔理沙は思い出す。


「これは……、イワナガ姫とかいうヤツが幻想郷の運を奪おうとして使ってたアイテムだよな? すっかり忘れてたぜ。名前はたしか……」

伊弉諾物質(イザナギオブジェクト)と私たちが呼ぶ物質で造られているわ」


 今度は蓬莱山輝夜が口を開く。


「そうそう、それなんだぜ。って、おい。いつまでこんなもん置きっぱなしにしとくんだよ? これが幻想郷の運を奪ってんだろ。早く壊しちまおうぜ!」

「それができないから、アンタを呼んだんだよ。霧雨魔理沙」

 因幡はふっとため息を吐きつつ、

「こいつには強力な結界が張られていてね。……おそらく、お母様とか呼ばれるヤツが張っている結界だ。触ろうしたら体が強い魔術で弾かれる。おかげで排除できないってわけだよ。……そこで、アンタの出番ってわけだ」

「私の出番? おいおい、私は火力系魔法美少女なんだぜ? 結界の専門家はもっと適任がいるだろ?」

「……その専門家たちが軒並みやられちゃってるから、こんな事態になってるのさ。博麗霊夢はいまだに意識不明。八雲紫も存在に気づいちゃいるだろうが手を出せないから、こんな状況に陥っているんだろうさ。……だから、アンタに目覚めてもらうしかなかった。やってくれ、魔理沙」

「とんだ無茶ぶりなんだぜ。イワナガ姫がこの伊弉諾物質とやらを中庭に設置しようとしたときに、私も防ごうとしたが無理だったんだぜ? そりゃ、私ももっと成長すりゃあこんな結界くらいぶち破ってやりたいが……」

「できる」


 魔理沙は因幡てゐが鋭い目つきで自身を見つめていることに気付き、思わずぶるっと体を震わせる。


「お前さんらしくないね、霧雨魔理沙。やる前から無理何ていうなよ。幻想郷最年長の私が言ってるんだ。お前さんにはできるよ。アンタの中に流れている血が、この幻想郷を救うんだ。黙ってやりな」


 魔理沙は因幡てゐの口調が普段の幼女風のものから、長老のような重い『それ』に変わっていることに戸惑いつつも、指示に従うことにした。霧雨は恐る恐る勾玉型の伊弉諾物質に手を伸ばす。


 ……結界の境界。それが魔理沙には見えた気がした。強力な結界の『弱所』。魔理沙は無意識にそこに魔力を流し込む。魔力を流し込まれた伊弉諾物質の結界は、結び目の解かれた縄のように呆気なく分解されていった。激しい光を伴いながら……。



「ほらみろ。できたじゃないか」


 因幡てゐは得意気な表情で、結界から解放されて剥き出しになった伊弉諾物質に視線を送るのだった。




――魔法の森の奥、魔女集団『ルークス』のアジトにて――



「……そろそろか……。……マリー、ドーターたちの進行状況はどうじゃ?」


 ルークスのボス『テネブリス』が、魔理沙の伯母でありルークスの幹部階級『ドーター』のトップでもある『マリー』に尋ねる。


「……はっ。……ドーターたちの大半を失いはしましたが……、間もなく伊弉諾物質の配置が完了します」

「……聖遺物の一つであるあの物質を、『伊弉諾物質』などという呼び方をするのは気に食わんが……仕方あるまい。本来の名は貴様らには発音することすらできないからのう……。……何……!?」


 腰の曲がった老婆テネブリスは違和感を覚え、声を発した。その視線は老婆とは思えぬほど、鋭く光っている。テネブリスは違和感の正体を探る。


「……ワシが件の勾玉にかけていた結界が破られたじゃと……!?」

「お、お母様の結界が破られた……? そんなまさか……」

「この感覚は……リサか……」


 マリーはテネブリスが憤怒の表情で歯ぎしりする姿を見て、恐怖を募らせる。テネブリスはリサと口にした。マリーは嫌な予感を隠せない。


「結界を解いたのはリサの娘か……! やはり、リサの後片付けをきっちりとすべきじゃった……! 運のない小娘がここまで急速な成長を果たすとはのう……」


 マリーの嫌な予感は当たってしまう。テネブリスの結界を解いたのは魔理沙だったのだ。


「……配置した伊弉諾物質を破壊されるわけいにはいかん。……早急に始末しなくてはならなくなったのう……」


 テネブリスはしわくちゃの口元をぐにゃりと歪めるのだった。

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