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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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六つ目の「五つの難題」

「ふふ、うふふふふ……」


 霧雨魔理沙により、激しく体を地面に叩きつけられた蓬莱山輝夜は口からよだれのように血を垂らしながら、仰向けで笑っていた。


「なるほど……。私を横たわらせるくらいには強い。『資格あり』ということね」

「何をぶつぶつと呟いてるんだぜ? お姫様。さて、これで五つの難題全部をクリアさせてもらったわけだぜ。全然強くなった感じはしないけどな!」


 勝利に気を良くしている魔理沙に輝夜は告げる。


「強くなってるわけないじゃない。本当の試練はここからなんだから」

「……なんだって?」

「これまでの五つの難題は貴方が最後の試練に挑める資格があるかどうかの試験でしかないもの」

「最後の試練……?」

「……最初に言ったはずよ。私の稽古は苦しいと……。死んでしまうかもしれない、と。もう一度聞いておくわ。あなたは私の稽古を受けるつもりはあるかしら?」

「ここまで来て、ノーを言うと思うのかよ?」

「そう……。じゃあ、あなたに最後の試練を与えましょう。この試練を超えられた人間は、過去に一人だけ。その少女は綺麗な黒髪が真っ白になって帰ってきた。だけど黒髪と引き換えに、帰ってきたときには不死の炎を手に入れていたわ。……果たして貴方は無事に帰って来られるかしら。そして、何の力を持って帰ってくるのでしょうね?」

「……もったいぶらないでさっさとその最後の試練ってやらを出してもらうんだぜ? 私はあの婆さんたちをさっさと超えなきゃならないんだ」

「せっかちねぇ。慌てなくとも大丈夫よ。……時間はたっぷりとある」


 輝夜は起き上がると、掌を魔理沙に向ける。


「……五つの難題、六つ目。『永遠の須臾』」

「永遠の須臾……? ……な、なんだ!? 急に足が動けなく……!?」 


 魔理沙は自由を奪われた自分の両足に目を向ける。……すでに魔理沙の両足はモノクロになってしまっていた。そして、モノクロはどんどんと魔理沙の体を侵食していく。既に胸の辺りまで魔理沙はモノクロに飲み込まれていた。


「く……!? なんなんだぜ、これ!?」

「……私の『永遠と須臾を操る程度の能力』を持って、貴方の体から時間を奪い、須臾の中に閉じ込める。出来上がるのは貴方自身の体で造られた魂の牢獄。貴方の魂は永遠の時間を貴方の体の中で過ごすことになるのよ」

「これが一体何になるって言うんだぜ!?」

「……人間は極限状態に追い込まれたとき、初めて限界を超えることができる。言ったでしょう? 白髪になって帰ってきた女は不死の炎を手に入れていたと。……もっとも、彼女以外に……藤原妹紅以外に帰ってきた人間はいないのだけど……。貴方は二人目になれるかしらね?」

「…………!」


 魔理沙は言葉を発することができないでいた。既にモノクロの浸食は魔理沙の口に達し、喋ることもできなくなっていたのである。


「心配することはないわ。貴方は須臾の牢獄に閉じ込められるだけ。須臾の牢獄での永遠はこの須臾の世界の中でさえ、一瞬にも満たない。つまり、現実世界では一瞬の一瞬にも満たない。生きて帰って来れれば、最終決戦には十分すぎるほどに間に合う。健闘を祈っているわ。貴方が生きていれば……魂が壊れていなかったら、また逢いましょう?」


 輝夜の言葉が終わると同時に魔理沙の金色の眼もモノクロに染まった。魔理沙は完全に須臾の世界に閉じ込められてしまったのである。


「……せっかくの逸材だったのに……。こんなことをして本当に良かったのかしら、因幡の素兎(しろうさぎ)さん? でも、もう遅いわね。十中八九、この霧雨魔理沙という人間は死ぬに違いない。……さて、私は休むことにするわ。別に良いわよね? この須臾の世界の中でどれだけ時間を使おうと、問題ないのだから」


 蓬莱山輝夜はモノクロになって止まってしまった魔理沙から視線を切り、永遠亭へと歩みを進めるのだった。



◇◆◇



「……ここは、どこだよ? ……真っ暗なんだぜ」


 須臾の牢獄に閉じ込められた霧雨魔理沙はぽつりと呟いた。見渡す限り光一つない暗闇。平衡感覚を失ってしまいそうになる。


「くっそ! あのお姫様、こんなとこに閉じ込めやがって……! 今に見てろよ。こんなとこすぐ出てやるんだぜ……! どんな結界か知らないが、私のマスタースパークでぶっ飛ばしてやる!」


 魔理沙はポケットに手を突っ込み、ミニ八卦炉を取り出そうとまさぐる。しかし、ポケットの中にあるはずのミニ八卦炉がない。


「な、なんで……!? ミニ八卦炉がない!? ……ミニ八卦炉だけじゃない。私が持ってたマジックアイテムもマジックアイテムじゃないアイテムも何もかもなくなってる!?」


 霧雨魔理沙は思い出す。蓬莱山輝夜が『魂を閉じ込める』と言っていたことを。


「……そうか、今の私は魂だけ……。それ以外はなくなっちまったのか。……だとすれば、服だけ来てるのは謎だが……。って服なんてどうでもいい。早くこっから出ないと!」


 魔理沙は暗闇の中を当てもなく手探りで動き始めた。最初は恐る恐るゆっくりと動いていた魔理沙だが、あまりに手応えがないので走ることにした。何かにぶつかったり、躓いたりするかもはしれなかったが、そのリスクよりもじれったさが勝ったのである。魔理沙は走り続けた。不思議なことにどれだけ走っても疲れることもなければ喉が渇くこともなく、ついでに加えればお腹が減ることもない。永遠に走り続けられるんじゃないかと思う魔理沙だが、走れども走れども出口はどこにも見つからなかった。


「くそっ! バカみたいに広い空間なんだぜ!? ……そうだ。横がダメなら上下なんだぜ。空は飛べないみたいだから上は無理だが、下なら穴が掘れるはずだ」


 魔理沙は真っ暗闇の地面を手に取る。触れた瞬間、コンクリートのように硬かった闇色の地面が柔らかな砂に変化する。スコップなど使わずともどこまでも掘れそうなくらいに柔らかく、滑らかだった。魔理沙は掘り続けた。しかし掘れども掘れども底には行きあたらない。いつまでも掘り続けられそうだった。あまりに底の見えない穴掘りに思わず魔理沙は恐怖を覚える。この世界には果ても底もないのではないか、と。


 魔理沙は無闇に動いて脱出することを諦めた。この世界はそんな方法では脱出できないと悟ったのである。しかし、考えても考えても良い脱出方法は思い浮かばなかった。魔理沙はふと思う。自分がこの暗闇に来てから一体どれだけ時間が経っているのか、と。もう何日も動き回ったような気もするが、まだ一時間も経ってないような気もした。時間を測る術すらない真っ暗な世界を前に、魔理沙は少しずつ気分が悪くなる。


「……まずいんだぜ。こんなところに長いこといたら、気がおかしくなっちまう……! 考えろ、考えろ霧雨魔理沙。どうすればこの暗闇から抜け出せる?」


 魔理沙は膝を抱え込んでうずくまる。その表情には微かな絶望が浮かび始めていた。


『お? もうグロッキーか、なんだぜ?』


 幻聴だと思った。どれくらいの時間をこの暗闇で過ごしたかわからない魔理沙だったが、少なくともこの世界には自分しかいないと確信していたからである。魔理沙は声の聞こえる方に首を回した。そこにはいるはずのない他人の影。幻覚だと思った。


『よう。ご機嫌いかがかな、なんだぜ? 霧雨魔理沙』

「お、お前は……私?」


 霧雨魔理沙の目の前に現れたのは不敵な笑みを浮かべる霧雨魔理沙だった。

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