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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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ミルキーウェイ

 半日後、すっかり元に戻った霧雨魔理沙は蓬莱山輝夜が永遠亭から出てくるのを中庭で待っていた。


「まったく、ひどい幻覚だったぜ。まだ、頭の中で『ぺったん、ぺったん。餅ぺったん!』って声がするんだぜ?」

「あら、まだ幻覚を見ているのかしら?」


 永遠亭から出てきた輝夜がわざとらしく心配の言葉をかける。


「もう見てないっての。おかげ様で少し後遺症が残ってるってだけだぜ」

「大丈夫そうね。なら修行の続きを始めましょうか」

「いよいよ最後の難題ってやつだぜ。一体どんなものを出してくるつもりだ?」

「最後はとっておきよ。だって、唯一『本物』ではないもの」

「本物じゃない?」

「ええ。本物を超える『本物の偽物』、『蓬莱の玉の枝』」


 輝夜の右手にきらきらと光る小枝のようなものが召喚される。


「なんだそれ?」と魔理沙は尋ねる。

「これは『蓬莱の玉の枝』、私と結婚したいなら、本物を持ってくるように車持皇子に吹っ掛けたもの。そして、彼がその際に作ってきたものよ」

「えらくキラキラしてるな」

「……この枝は茎が金、根が銀、そして実が真珠でできているから、そのせいね」

「お前、そんなもの貢がせたのかよ。とんでもない性悪女なんだぜ」

「そうかもね。でも結婚なんてしたくなかったもの。だから、私は絶対に車持皇子が手に入れることができない『蓬莱の玉の枝』を要求した。そしたら、こんなものを作って持ってきたのよ」

「そういや、『本物の偽物』って言ってたな。本物の蓬莱の玉の枝ってのはどんな物なんだぜ?」

「蓬莱の玉の枝の本物は……月に生えている優曇華という植物よ。その植物は地上の穢れを受けることで美しい七色の実を付けるの。もちろん、地上に生えていないから車持皇子が本物を手に入れることはできない」

「インチキなことしやがるお姫様なんだぜ。ちょいとばかし、車持皇子とやらに同情するんだぜ」

「でも、彼は本物を超える偽物を造ってきたのよ。この蓬莱の玉の枝はただ宝石で造られた宝物というわけではない。茎、根、実、全てが高性能な魔力増幅装置で構成されている。これを造ってきた車持皇子に私も一瞬惹かれてね。同衾して良いかもと思ったこともあったわ」

「同衾って……。そこまで惹かれたなら結婚してやっても良かったんじゃないのかよ?」

「ちょっと自慢話が過ぎたのよねぇ。それがなかったら、結婚してあげてたかも」

「わがままなお姫様なんだぜ。金持ちなだけじゃご満足しないってわけか?」

「一番大事なのが人間性だってだけよ」

「そいつはどうだか」

「……無駄話が過ぎたわね。五つの難題、五つ目『蓬莱の玉の枝』を始めましょうか」

「ビームに燃えない布に龍に幻覚……。お次は何を出すってんだぜ?」

「何も出さないわよ?」

「なんだって?」

「蓬莱の玉の枝は魔力増幅装置でしかない。その使用者は私。……私を倒してみなさい、霧雨魔理沙!」

「なるほど……。そいつはわかりやすいぜ。その難題、受けてたってやる!」


 霧雨魔理沙はミニ八卦炉を構えて戦闘に備える。


「まずは小手調べよ。……新難題『金閣寺の一枚天井』」


 輝夜は宙に舞うと巨大な一枚の光の板を生み出した。そして、それを魔理沙の頭上目掛けて重力のままに落とす。


「どこが小手調べなんだよ!?」

「さあ、どうする。霧雨魔理沙!」

「ぶっ飛ばしてやるだけだぜ!」


 魔理沙はミニ八卦炉を天井に向けて掲げた。そして、いつもの術名を叫ぶ。


「マスター・スパァアアアアアク!」


 魔理沙の巨大ビームは光の板に風穴を空け、崩壊させる。自身の術を破壊された輝夜は「ちっ」と軽く舌打ちをしながら、マスター・スパークから距離を取るのだった。


「やるわね。やはり、火力系魔法が得意なだけはある……」

「お褒め頂き光栄、なんだぜ? お姫様!」

「得意な笑みを浮かべ過ぎよ。お次は火力勝負と行きましょうか……! 新難題『月のイルナメイト』……!」


 輝夜が右掌を上にして鉱石を召喚させる。鉱石は輝夜の掌の上空10センチ程度の場所にふわふわと浮かんでいた。


「なんだその石?」と魔理沙は眉間に皺寄せ、質問する。

「この鉱物はイルナメイト。月に多く存在するチタン鉄鉱。月の民が地上から月へと移住した理由の一つ……」

「そんな石ころが欲しかったのか? 月の民の価値観は良くわからないんだぜ」

「あらあら。科学者の一種である魔法使いのくせに見た目で判断してはいけないわ。……このイルナメイトの本質はチタンや鉄を含んでいることにはない。強力な太陽風の微粒子を内部に貯めていることにある」

「太陽風の微粒子?」

「そうよ。微粒子の名はヘリウム3……と言えばもう分かるかしら?」

「ヘリウム3!?」

「知っているようね! そう、核融合反応を起こす物質のことよ。喰らいなさい、核の力を……!」


 輝夜のイルナメイトが紅く輝き、小規模な太陽を創り出した。それは八咫烏の力を与えられた地獄の鴉『霊烏路空』の力を思わせる。


「何て熱量の火球だ!? まさか、それを!?」

「投げつけてあげる」


 輝夜は小太陽を魔理沙に放った。近づいてくる熱エネルギーに対して魔理沙はマスタースパークを撃ち放った。ビームと小太陽が衝突し、撃ち合いとなる。


「核融合エネルギーに対抗できている……!? ふふ。まさか、そこまでとはね」

「ぐぎぎぎぎぎぎぎ……! うらぁああああああああああ!!」


 魔理沙はさらに気合を入れてマスタースパークを撃ち続けた。魔理沙の渾身のマスタースパークはついに小太陽とエネルギーを食い合い、爆発を起こしながら相殺したのである。


「……イルナメイトの核融合反応と同等にまで術の力を上げられるなんてね」

「あ、危なかったぜ……」

「では、これならどうかしら!」


 輝夜は右掌と左掌を上向きにする。そして、ごくごく微小な粒子を一つずつ掌の上に浮かばせる。右手の粒子は激しく光輝き、左手の粒子はベンたブラックのように真っ黒だ。


「何なんだぜ。その二つのちっこい物質は?」

「『光のミステリウム』と『闇のミステリウム』よ」

「ミステリウム……?」

「この宇宙を形作った最初で最小の物質。素粒子とダークマターのアトムよ。光のミステリウムが素粒子のアトム。闇のミステリウムがダークマターのアトム……。月の民の科学力を持ってしても、一度にほんのわずかしか生成できない幻の物質」

「そんな貴重なもん使って何やろうってんだぜ?」

「もちろん攻撃に使うのよ。……霧雨魔理沙、光と闇のミステリウムを引き合わせると何が起こるか知っているかしら?」

「知るわけないだろ。ミステリウムなんて物質聞いたのも初めてなんだぜ?」

「じゃ、良い勉強になるわよ。ミステリウムの融合は宇宙で最初の現象を引き起こす。……ビッグバンをね……!」

「何だって!?」


 輝夜は右手と左手を合わせ、ミステリウムを融合させる。輝夜の手に魔法とも異なる強大な力が溜まっていることを魔理沙も感じ取った。


「喰らいなさい。ビッグバンのエネルギーを用いた光線を……!」


 輝夜の手から光と闇が螺旋で絡み合っているような光線が放たれた。もちろん、ビッグバンと言っても宇宙が始まった時のような巨大な爆発ではなく小規模なものだ。しかし、小規模とはいっても、そのエネルギーは強大。魔理沙にとってピンチであることに変わりはなかった。高温高密度の光と闇のコントラストを保ったビームが魔理沙に襲い掛かる。


「くっ!? マスタースパーク!」


 魔理沙は苦し紛れに相殺を試みようとマスタースパークを撃ち放った。しかし……。


「う……!? 無理だ。抑えきれない!?」

「ミステリウムの力を侮らないで欲しいわね」

「……へん。抑えられないなら、抑えられないで手はあるんだぜ! ……『ミルキーウェイ』!」


 魔理沙は星型の魔法を大量に撃ち放った。ただ闇雲に撃ち放っているわけではない。秩序だって放たれた星たちは連結し、滑り台のように滑らかな曲線を創り出す。そして輝夜が放った光線を星で創った滑り台で方向変換させ、上空へと誘導させたのだ。


「そんなバカな。ミステリウムの光線を受け流した……!?」

「驚いている暇はないんじゃないのか、お姫様!」


 魔理沙は箒に乗ると、高速で輝夜に詰め寄り、蹴りかかる。輝夜は体をのけ反り、何とか距離を取って蹴りを避けた。


「くっ!? 『蓬莱の玉の枝』!」


 輝夜はその手に蓬莱の玉の枝を召喚し、その魔力増幅機能をもって七色の珠を大量に放出し弾幕を張った。七色の珠たちは魔理沙の行く手を阻むように、三百六十度完全に包囲する。


「……弾幕ごっこみたいじゃないか。だが、逃げ場のない弾幕はルール違反だぜ!」

「弾幕ごっこ……? 何よそれ?」

「博麗霊夢と八雲紫が制定しようとしている弾幕の美しさを競う真剣勝負の遊びさ! ……スターダストレヴァリエ!」


 魔理沙は輝夜に負けじと大量の星型弾を撃ち放った。星は七色の珠とぶつかり合って消滅し合う。弾幕が薄くなり、魔理沙と輝夜の間に何の障害物もなくなった。魔理沙は一直線に輝夜の懐に潜り込む……!


「私の勝ちだぜ、お姫様!」


 魔理沙は思い切り箒を振り回し、輝夜に打撃を叩きこんだ。攻撃を受けた輝夜は中庭の枯山水に墜落する。


「かはっ……!?」


 仰向けに叩きつけられた輝夜はうめき声を上げる。勝利を確信した魔理沙は帽子を目深にかぶり直した。


「どんなもんだ!」


 魔理沙はにっこりと口角を上げるのだった。

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