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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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古明地こいし

………………

…………

……


「う、うぅううう……」


 核融合爆発後、爆風を受けた火焔猫燐はうめき声を上げていた。パルスィが結界を張っていたとはいえ、灼熱地獄跡の淵まで避難していた地底の妖怪たちも相応のダメージを受けている。皆、元々ダンタリオンとの戦いで手負いとなっていたせいか、意識を保っていたのは燐だけだった。


 燐は思うように動かない体をなんとか動かし、這いずるようにして灼熱地獄跡を覗き込む。


「お、お空……」


 呟く燐の視線の先にはマグマ溜まり。そこに一体の妖怪が浮かんでいる。……霊烏路空だった。体中に焦げた跡はあるが、巨大爆発を起こしたにもかかわらず、その身体は保持されていた。もっとも、生死の別は燐からは確認できないが……。


「お空、返事して……!」


 掠れるような声で空を呼ぶ燐だが、反応はない。


「……あれは……?」


 燐は灼熱地獄跡の内壁のあちこちに飛び散った銀色のゼリー状の物体を視界に入れる。それらはどれもピクピクと震えていた。……嫌な予感が燐の脳を包み込む。そして、その予感は的中することになるのだ。


「う、あ、うそ……」


 銀色のゼリー体は少しずつ動き出し、一か所に集結し始めた。だんだんと大きくなった銀色ゼリーは人型を(かたど)り、立ち上がる。

 ……黒い長髪に黒色のモーニング服、シルクハット。そして、片眼鏡を再生させたその悪魔は自分の体の無事を確かめるように、首の骨をコキコキっと動かしたり、拳を握ったり緩めたりしていた。


「んんんんんんんんんん!!!! まさか、生き残ることができるとはぁあああ!!!! ここまでバラバラにされたことはありませんでしたからねぇ。さすがに死ぬと思っていたのですが! さすがはお母様が造りし我が体! ここまでされても無事となると、もはや不死身と言っても過言ではないのかもしれませんんんんんんん!」

「そ……んな……。あ、悪魔め……」


 ダンタリオン復活を見届けた燐は呟き終わると、意識を失ってしまった。……灼熱地獄跡で唯一動ける身となったダンタリオンはふわりと上昇を開始する。淵までたどり着いたダンタリオンは、自身を追い込んだ妖怪たちが全て意識を失い戦闘不能になっていることを確認するとにやりと口を歪めた。


「んんんん!! 非常に素晴らしかったですよぉ? 死ぬかもしれないと思うところまで私を追い込んだ貴方がたは! さて、ようやく仕事を遂行できますねぇ」


 ダンタリオンはモーニング服から勾玉を取り出した。


「まったく、何回出し入れしたことか。やっと配置することができますよ」


 勾玉が灼熱地獄跡のマグマに投げ入れられる。勾玉が投入された途端、マグマの胎動が激しくなり、地響きが鳴り始めた。


「んん! 勾玉の配置に成功しました。これでこの運脈は運を最大限に放出することになる。火山活動も活性化することでしょう。じきに噴火するに違いない。それでは皆様さようなら」


 ダンタリオンは宙を飛び、はるか上方に位置する地霊殿へゆっくりと舞い戻る。

 地霊殿に帰る途中、はるか下方から爆発音が聞こえた。灼熱地獄跡が噴火を起こしたのだろう。赤い光がダンタリオンの眼に入る。


「んんんん! 思ったよりは小規模な爆発だったようですねぇ。地霊殿にまで達するようなものではないようです。と言っても、あのモンスター共にトドメを刺すくらいの威力があるのは間違いない。ご愁傷さまです」


 シルクハットに手を当て、にやりと笑ったダンタリオンは地霊殿の地下入り口から階段を昇り、入り口のある一階へと昇って行く。


「……そうでした。お母様への手土産がありませんでしたねぇ。あの神を宿した鴉は殺してしまいましたし……。どうしましょうか」


 呟きながら一階に到着したダンタリオンはふと思い出した。


「んん! 良い具合に実験動物になりそうなモンスターがここで気を失っていたではありませんか。あのピンクの覚妖怪……。あれを持って帰りましょう。まぁ心が壊れていそうですから、持って帰ったところで役に立つかは分かりませんが……、手ぶらよりはマシですしねぇ。ヤツが倒れているのはたしか……二階の居室だったはず……」


 さらに階段を昇り、二階に到着したダンタリオンはさとりの居室のドアノブに手をかける。そして、彼女は驚愕の光景を目の当たりにした。


「んん? なにやら倒れているモンスターが複数いますねぇ。ここで私が相手にしたのはあの覚妖怪だけだったはず……。っ!? なにぃ!?」


 さとりの居室で介抱される様に寝かされていた妖怪たち。それは先ほどまでダンタリオンが戦闘していた地底の妖怪たちだった。ダンタリオンはあり得ない光景に思わず狼狽える。


「ば、バカな!? 鬼に蜘蛛に猫に鴉に嫉妬女に桶のモンスター!? こいつらはあの灼熱地獄の火口に間違いなく置き去りにしたはず!! なぜ、ここにいるぅううううう!?」


 ダンタリオンは扉を振り返る。灼熱地獄跡からこの部屋までは空間が広い場所こそあったものの、一本道しかなかった。空、燐、勇儀、パルスィ、ヤマメ、キスメを運ぶにはダンタリオンの視界に入らなければ不可能なはず。だが、その不可能が今目の前で現実として怒っていることにダンタリオンは混乱を隠せない。


「一体何が起こっているのです……!?」


 呆然と立ち尽くすダンタリオンの腹部に鈍い痛みが走る。眼に見えない何かがダンタリオンを押し飛ばしたのだ。突然の目に映らぬ攻撃を受けた悪魔貴族は居室の扉ごと踊場へと追い出される。


「くぅううううう!? 何が起きたというのです!? 見えない何かが私を攻撃している!? 今の感触は人型の何かに蹴られたような感触でした!! ……うぐ!? 背中と腹が熱い!?」


 ダンタリオンは自身の腹部を見やる。そこには鋭利な何かで突き刺されたような傷が出来ていた。そこから彼女の血液たる銀色の金属液体が洩れ出ている。鋭利な痛みに思わず顔が歪む。


「くっ!? これは俗にいう光学迷彩というやつですね!? 舐められたものです。人間ごときでも開発できる装置をこの私が看破できないとでも?」


 ダンタリオンは素早く何かに貫通された背部と腹部の傷を癒すと、右手に魔導書を召喚させ、何やら呪文を唱え始めた。


「我が魔術で不可視光線を含む全ての光をこの片眼鏡で受光できるように調整しましたよぉ? これで不審な光の動きを捉えることができるぅううううう! すぐに光学迷彩を見破ってあげましょ……うぅうううううがぁあああ!?」


 自信満々で見えない者を捉えられると言い放ったダンタリオンだったが、その脇腹にまたも鋭い痛みが襲う。ナイフのような何かで貫かれた痛みが……。


「うっくっぅうううううう!? ば、バカな!? 不審な光の動きはなかったはず……! なのに、なのになのにぃいいいいい!? 私は攻撃を受けているぅうううう!?」


 精神的なストレスからか不死身のはずのダンタリオンは、はぁはぁと息切れを起こし始めるが、冷静に状況分析を行う。


「光学迷彩などを使っているわけではない!? だが、私には見えない攻撃が繰り出されている。つまり、観測者である私が認識できない領域からの攻撃。まさか……、私と同じ領域に達した者の攻撃というわけですかぁああああああ!?」


 ダンタリオンは自分の胸に手を当て、魔力を込める。


「この敵は物理的に存在を隠しているのではない! ならば可能性はもう、一つしかないぃいい! 精神的迷彩でその身を隠しているに違いない! ならば、私の心の認識域を広げるまでのことぉおおお!」


 ダンタリオンは自身の『意識』の認識域を『無意識』にまで広げる。ようやく見えた。ダンタリオンを無意識の領域から攻撃していた者の姿が……。その少女は緑色の髪と眼を持ち、さとりと色違いの紫色コード付きサードアイを身に着ける。


「わーい。すごいね、お姉さん。見つかっちゃったー」


 無邪気な、だがどこか不気味な笑顔を見せるその少女の名は『古明地こいし』。地霊殿の主人古明地さとりと血を分けた実の妹。何かが異質な妖怪……。そんな彼女を視界に収めたダンタリオンは興奮のあまり叫んでいた。


「素晴らしいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」と。

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