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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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思い込み

◆◇◆


「んんんん! なるほど! それが貴方のトラウマですか! 自分の不用意な行動で友人と両親を失い、愛する妹も豹変してしまった……。んん! 実にトラジディ!」

「ぐっ……! 勝手に私の心を読むな!」

「んんん! 散々人の心を読んでいるくせに、いざ自分が読まれると拒否反応を示す。本当にお姫様ですねぇ。反吐が出るぅうう!」


 ダンタリオンは胸倉を掴んで持ち上げていたさとりを地面に叩きつけるように放り投げた。さとりの体は地面に擦り付けられるように滑っていく。


「さて、せっかく遭遇した同タイプのモンスターでしたが……、期待外れもいいとこのスペックしか持っていませんでしたねぇ。もう貴方に教養を見いだせない。さっさと片付けますか」

「くっ……!? 勝手なことばかりペラペラと……」


 さとりは立ち上がりながらダンタリオンに言い返す。ダンタリオンは余裕の笑みを浮かべていた。


「あなたがやろうとしていたことをやり返してあげましょう! カモーン!」


 ダンタリオンが指を鳴らす。さとりの眼前に幻像が現れた。


「あ、あ……」


 さとりは上手く言葉が出せないでいた。その幻像の姿はさとりが死なせる原因を作ってしまった人間の「友達」。さとり自身、それがダンタリオンの作り出した幻像だと解っている。だが、さとりはダンタリオンの作る幻影、幻覚を振り払えないでいた。


「んんん! どうです? 私の最高出力の芸術幻術は!」


 ダンタリオンの作り出した少女の幻像はさとりに近づいてくる。さとりは咄嗟に目を瞑り、耳を手で押さえた。


「んん! 視覚と聴覚を遮断すれば、幻覚を防げるとお思いですか? 浅い! 実に浅い! その行為、スマートでないぃいいい!」


 ダンタリオンの幻覚はさとりの視覚と聴覚の遮断などお構いなしに、脳に直接干渉するものだった。瞼裏の暗闇に友達の姿が浮かび上がり、さとりに問いかける。


『さとりちゃん……。なんで、お父さんの言い付けを破って村に来てしまったの?』

「やめて! こんなの見せないで!」


 さとりは幻像の友達の言葉を無視して、幻覚を解くよう嘆願するがもちろんダンタリオンに聞き入れられるはずもない。


『聞こえないフリしないでよ、さとりちゃん。……どうして村に来てしまったの? あなたがお父さんの言い付けを守っていれば、私は死んだりしなかったのに』

「うう……。やめて、やめてよ。こんなの見せないで!」


 さとりはより一層瞼を強く閉じる。だが、無意味だった。


『自分が犯した罪から眼を逸らすの?』


 少女はさとりの肩を叩く。さとりの眼に映る友達の眼は冷え切っていた。かつて現実の少女が息絶える寸前にさとりが見た彼女の眼。それがさとりに突き刺さる。


「い、いや。いやぁああああああああああああああああああ!?」


 さとりは幻覚のプレッシャーに耐えきれずに走って逃げ出した。逃げ込んだ先は地霊殿の自室……。部屋に飛び込んださとりを見て、ダンタリオンはくつくつと喉を鳴らした。


「いやはや、これほど精神的な攻撃に弱いとは……。そして無駄ですよぉ? どこに逃げようと貴方は私の幻覚から逃れられないぃいいいいい!」


 自室に逃げ込んださとりはクローゼットの中に隠れるように閉じこもった。はぁはぁと怯えるように息を切らすさとり。そんなさとりの脳内に友達とは別の少女の声が聞こえてきた。


『もしもーし。もしもーし』


 さとりの聞き慣れた声。聞き間違うはずがない。さとりと血を分けた姉妹。唯一の血縁者の声だった。


「……こいし? こいし!?」とさとりが聞き返すと、声の主が反応する。

『お姉ちゃん。私ね、今お姉ちゃんの後ろにいるの』


 さとりは振り返る。そこにいたのは、桃色の眼と髪のままであるかつてのこいしだった。さとりは声の主が本物のこいしではなく、幻像のこいしであったことに絶望する。


『お姉ちゃん、なんでお父さんとお母さんの言うことを聞かなかったの? お姉ちゃんが村に行ったから、お母さんもお父さんも死んじゃったんだよ?』


 幻像のこいしが指をさす。さした先にある光景はさとりの父親と母親が村の男衆に槍で突き刺され絶命し、倒れている幻覚だった。


「うっ。うっ……。許して、許して……」

『許さないよ』

「うぅ……」

『お姉ちゃんがワガママしたから、お父さんとお母さんは殺されたんだ!』


 幻像のこいしはさとりを激しい口調で咎めながら髪を掴み、自身の怒りの表情をさとりの顔近くで見せつける。そして、幻像のこいしの髪と眼が桃から緑へと色付いていく。


『お姉ちゃんのせいだよ。お姉ちゃんのせいで私の心も壊れちゃったんだ!!』

「あ、あああ……。ごめんなさい、ごめんなさい。お父さん、お母さん……。……こいし……」


 心を壊されたさとりは膝から崩れ落ちてしまうのだった。


………………

…………

……


「ふうむ。そろそろ頃合いですかねぇ」


 ダンタリオンはゆっくりとした足取りでさとりの自室へと踏み入った。


「おやおや、これはこれは」


 ダンタリオンの視線の先にいたのは壁に体を預かるようにして座り込むさとりの姿。さとりは涙とよだれを垂れ流し、眼を見開いたまま気絶していた。


「んん! たしかに私は最高出力の幻術を見せつけましたが、これほど簡単に心を崩壊させてしまうとは! やはり貴方は脆弱すぎる精神しかお持ちでなかったようだ。うんうん。わかりますよ? 貴方がこの地底に隠れ住んでいたのは『知的生命体に嫌われるから』ですものねぇ? それは相手を思いやってのことではない。貴方自身が嫌われることに耐えられない弱い精神しか持っていないからですものねぇ? ……聞こえてませんね。ま、いいでしょう。あ、そうそう。私は貴方のことを『嘘つき』だと言いました。『知っていないから』こそ愛せるのですよ。貴方も妹さんの真意を知らないからこそ『愛せていた』のでしょう? 妹さんも貴方のことを愛しているはずだと思い込むことで貴方は心を保っていたのですから。私も同じです。お母様が愛してくれているはずだと思い込むことで心を保っているのですよ。……それでは」


 ダンタリオンは意識のないさとりに向かって自分語りをすると、さとりの自室を出て行った。


「さて、ではこの地霊殿の地下に向かいますか。そこにお母様の望む巨大な運脈が存在する」


 ダンタリオンは地霊殿の階段を下り、地下へと向かっていくのだった。

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