生き写し
カッパの研究所を出た魔理沙だが、日はまだ明るい……。
「……水晶を調べる手間が省けたからなぁ。時間が余っちまったぜ……」
『……親父さん、君が帰って来ないことを心配していた。たまには顔を出してあげたらどうだい?』
魔理沙の脳裏に霖之助の言葉が思い起こされる……。
「……しょうがない……。たまには顔を出すか……」
魔理沙は一年ぶりに実家に戻ることにした。父親に会いたくはなかったが……、霖之助の言い分を聞き、父親に顔を見せることが霖之助への謝罪になると思ったのだ……。魔理沙は箒に跨り、空を駆ける……。魔理沙にすれば、気が進まない帰省であるはずなのに、一旦飛び出すと、スピードが無意識にどんどん上がっていった……。魔理沙の性分がせっかちだからなのか……、それとも、魔理沙も心の奥底では父親に会いたいと思っていたのか……、飛ばしている理由は魔理沙にもわからない。魔理沙を乗せた箒はあっという間に人里に辿り着く……。
「思ったより、早く着いちまったぜ……」
魔理沙は実家の『霧雨道具店』の店先でポツリと呟く……。実家の入り口前まで帰ってきてみたものの……、いざ、入ろうとなると、どうも足が重たくなる……。魔理沙が入口前で右往左往していると、霧雨道具店の入り口が開く。中から長髪の女性が『お邪魔しました……。……くれぐれも先ほどの件、真剣にお考えください……』とお辞儀をしながら、店を出て行こうとする。挨拶の相手を確認することは出来ないが……、おそらく親父だろう、と魔理沙は推測する。後ろ姿しか見えないが、女性は透き通るような金色の髪をしていた……。
「母さんみたいだ……」
魔理沙はため息をこぼす……。魔理沙の母親も女性と同じく、色素の薄い透き通るような金髪だった。魔理沙は生前、母親に『自分も母さんのような綺麗な金髪だったら良かったのに』と、愚痴をこぼしていた。魔理沙も金髪だが、父親の髪が黒いせいか、母親よりも濃い色だ。決して、魔理沙の金髪も汚いわけではない。むしろ、黒髪が多い人里にあって、魔理沙の生来からの金髪は思わず目を引かれるくらいには綺麗だ。しかし……、それでも、魔理沙は母親の透き通る金髪に憧れていた……。
「……母さん、私に『あなたの髪も綺麗よ』と言ってくれたっけ……」
魔理沙が頬をかきながら母親との思い出を想起していると、挨拶が終わったのだろう……女性が入口を閉め、踵を返す。魔理沙の母親と同じくらいに綺麗な金色の長髪をたなびかせながら……。……女性と魔理沙の目が合う……。
「え……?」
魔理沙は思わず目を見開く……。金髪の女性の顔は魔理沙がよく知る人物に余りに似ていた……。まさに生き写しであった……。
「か、母さん……!?」
魔理沙は女性に声をかけずにはいられなかった……。