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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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強さの目的

◆◇◆


――永遠亭――


 霧雨魔理沙は敷地内で魔法の特訓をしていた。龍穴と龍脈の流れを読み、それらから洩れ出る『運』を使って魔法を発動させる訓練である。


 その身に運を宿さない魔理沙は、今まで幻想郷に溢れていた運を『無意識』で使用し魔法を発動させていた。しかし、魔女集団ルークスが起こした異変で幻想郷が運を奪われ、魔理沙は魔法を使えなくなってしまったのである。


 しかし、まだ幻想郷に運は残っていた。それこそが龍穴と龍脈。幻想郷を幻想郷たらしめるものだ。幻想郷に張り巡らされた龍脈は運を奪われた幻想郷に辛うじてわずかな運を放出する。魔理沙も永遠亭の兎妖怪『因幡てゐ』に教えられるまでその存在を知らなかった。


 ……魔理沙は魔女集団とそのボスであるテネブリスに対抗するため、龍穴と龍脈を使いこなそうと懸命に足掻いていた。


 魔理沙にとって、龍穴と龍脈から溢れ出る運は『じゃじゃ馬』そのものだった。

 異変前の幻想郷に溢れていた運はその密度、供給量が安定していた。故に運のない魔理沙でも安定して魔法を発動することができていた。しかし、龍脈の運は全く安定していない。かつての幻想郷の運と比較するまでもなく不安定で波があったのである。


「……まるで生きているみたいだな……」


 魔理沙は不安定で波のある龍脈から流れ出る運をそう形容した。

 最初はじゃじゃ馬な運で安定した魔法を発動することに苦労していた魔理沙だったが、徐々に龍脈の運の『癖』を掴み、もう異変前と遜色ないくらいに魔法発動と威力が安定するようになってきている。


 ……霊夢にこそ敵わないが、この金髪少女もまた特別な存在だったのだ。もっとも魔理沙自身にその自覚はないのであろうが。


「ふーん。中々いい感じになってきているじゃないか」


 傍から魔理沙の訓練を見取っていた因幡てゐが感心するように口を開く。


「……まぁな。……霊夢の様子はどうなんだぜ?」


 魔理沙はてゐに問いかける。霊夢が負傷してから既に丸一日が経過しようとしていた。魔理沙は鈴仙・優曇華院・イナバなる兎妖怪に負傷からの24時間が霊夢のヤマだと聞いていた。


「……心配することはない。容態は安定しているよ」

「命の危機は脱したってことでいいのか?」

「……そういうことだね。もっとも、もうお師匠様から聞いているだろう? 目覚めるかどうかは本人の気力次第だ」

「…………」


 魔理沙は眉間に皺を寄せ、深刻そうな表情を浮かべる。


「……今、言った通り心配することはない。アンタのやることは変わらない。博麗の巫女が目覚めたときにびっくりするくらい魔法の腕を上げておくんだ。いや、びっくりして目を覚ますくらいに腕を上げたらいい。……さて、修行相手の同意を取ってきた。大変だったんだよ? 腰の重いこの人をその気にさせるのはさ」

「……誰なんだぜ? その修行相手ってのは……」

「月のお姫様さ……!」

「……お姫様?」

「ついてきな、霧雨魔理沙。姫様のところに案内しよう」


 魔理沙はてゐに促されるままに永遠亭の奥深くへと入り込んでいく。


 一際広い座敷にその姫は佇んでいた。


「……こいつがお姫様か?」

「ちょっと! こいつだなんて失礼な言葉遣いをするんじゃないよ!」

「構わないわ、てゐ。……初めまして地上の魔法使いさん。私は蓬莱山輝夜。この永遠亭の主人よ、一応ね」


 座している輝夜の長い黒髪は座敷の畳に達していた。立ち上がっても腰くらいまではあるだろう長さだ。動きにくそうな髪だなと魔理沙は思う。


「てゐに聞いたぜ? なんでもアンタが私に修行を付けてくれるんだって?」

「そうね。つけると言えば、そうなるのかしら?」

「はっきりしない物言いなんだぜ。……なんか和風のよくわからんドレスを着ているし、お前本当に修行を付けることができるくらいに強いのか?」

「おい、魔理沙。本当にいい加減にしなよ。せっかく修行してくれる気になった姫様が気分を損ねたらどうするんだ!?」とてゐが再度魔理沙を叱りつける。

「構わないわよ、てゐ。たしかにあなたの言う通り、私は戦闘が苦手よ。でもね……」


 瞬間、魔理沙の視界から輝夜の姿が消える。


「あなたが敵わないくらいの力は持っているのよ?」


 魔理沙の背中がぞわりと凍る。先ほどまで魔理沙の前で畳に座していた輝夜は一瞬で魔理沙の背後に回り込み、魔理沙の耳元で囁いていたのだ。


「い、いつの間に私の後ろに動いたんだぜ……!?」

「これで少しは私のことを信用してくれたかしら?」


 冷や汗を流し驚愕の表情を隠せない魔理沙に対し、蓬莱山輝夜は笑みを浮かべる。


「……私のお稽古は苦しいわよ? 死んでしまうかもしれない。その覚悟はあるかしら?」


 美しい微笑から放たれたのは、厳しい言葉だった。


「どうやら、まだ年端もゆかぬ娘のようだし、あなたが死んでしまったら親御さんが悲しむでしょう。今ならまだ間に合うわ。稽古をやめてもいいのよ?」

「誰がやめるか……! 私はアイツらに勝たなきゃいけないんだ……!」

「……あいつらっていうのは誰のことかしら?」

「アンタだって知ってるだろ!? 幻想郷の運を奪った奴らだ。霊夢も……博麗の巫女も殺されかけし、妖怪の山に住んでる神様たちもそいつらにこっぴどくやられたんだ……! きっと幻想郷もひどい目に遭わされるぜ……!」

「……それで?」

「そ、それでだって……!?」

「ええ。貴方は敵討ちをしたいから強くなりたい。幻想郷を守りたいから強くなりたい。そういうことなの?」

「そ、そりゃ、そうだろ。奴らが……あの魔女集団がどんな目的を持ってるのか知らないが、あいつらをやっつけなきゃ幻想郷は平和にならないんだぜ!?」

「じゃあ、その魔女集団を倒した後、得た強さで貴方は何をするのかしら?」

「ひ、姫様……!? 今はそんな問答をやっている場合じゃないよ!?」


 輝夜が魔理沙を質問攻めにする様子を見たてゐが思わず口を挟む。


「てゐ。私は私の劣化複製物を作るつもりはないの。というより、劣化複製物が私を突破ことはできないもの。……魔法使いのお嬢ちゃん、なんで貴方が強くなりたいのか、もう一度考えて出直してきなさい。それからお稽古をつけてあげるかどうか決めてあげるわ。相手を倒したいなんて邪な心では私くらいにしかなれないわよ?」


 そう言うと、輝夜は座敷のさらに奥の部屋へと消えていったのだった。

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