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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
122/214

上書き

「……なんですか、その眼は?」


 早苗はインドラの第三の眼を凝視する。


「……可愛くなくなるからー、この眼は見せたくなかったんですけどー、仕方ないですよねー。あなたも『こちら側』の住人なんですから。ちょっとだけ本気を見せてやろー!」

「実力を隠すのが好きな人ですね。出し惜しみして負けるほど無様なものはないのでは?」

「大丈夫だよー。もー私が遅れを取ることはー……ない!」


 インドラはヴァジュラを帯電させると、棒術の達人のようにくるくると回して構えをとった。そして、掌を上向きにして、『かかってこい』というジェスチャーを早苗に送る。


「目が一つ増えたくらいで、随分と自信を取り戻しているじゃないですか。良いでしょう。教えてあげます。神奈子様と諏訪子様の庇護のすばらしさを。あなたは私に攻撃を加えることなどできない」

「もう無理ですよー。あなたの、マジックの種は解りましたからー」

「……『乾神招来 突』!」


 早苗は大幣に霊力を込め、硬度を高めるとインドラ目掛けて突き刺すように突進する。インドラは3つの眼で動きを見極め回避すると、勢い余って通り過ぎた早苗の方に振り返りざまに雷を帯びたヴァジュラで足首を斬りつける。


 痛みに顔を歪めた早苗だったが悲鳴を上げることなく、片足だけで体勢を立て直しインドラに正対する。


「残ねーん。その足ちょん切ってあげるつもりだったんですけどねー。でもこれでわかったでしょー? あなたの力はもう発動しない。……正確には私が上書きしちゃうからだけどねー」

「…………」


 早苗は無言でインドラに視線を向ける。相も変わらずハイライトのない真っ暗な瞳で……。


「やっぱり気にくわないよねー。あなたのその眼。生気が感じられなーい。自分が死んでも良いって思ってそー」

「……そんなことはありませんよ。私には諏訪子様と神奈子様にお仕えするという使命があるのですから」

「ふーん。ま、いいやー。ここであなたは死にますからねー」


 インドラはヴァジュラに雷を充電する。


「もう、避けられないですよー、お姉さーん」


 インドラは早苗に向けて雷を放出した。雷は早苗に直撃する……。


「がっ……!?」


 早苗は雷を受けた衝撃で思わず息を吐き出す。


「あっははー。当たった、当たったー! ま、当たり前ですよねー。あなたの能力を看過した上での攻撃なんですからー。でもー、さすがにタフですねー。お姉さんの敬愛する神様を黒焦げにしたとき以上の出力を与えたはずなのにー、大してダメージを受けてないじゃないですかー。さすがは私と同じ『こちら側』の住人なだけはある。それにしてもまだ、悲鳴を上げてくれないんですねー。ちょっとイラっと来ますよー」

「……調子に乗らないでください。お二方の受けた屈辱を神罰としてあなたに下すまで私が屈することはありません……! 『乾神招来 風』!」


 早苗は大幣を大きく振り、強風を巻き起こす。風は渦を巻き、インドラ目掛けて直進していく。


「もう無理だよー? 開眼した私にお姉さんの攻撃は通じない」

「そ、そんな……!? 風が曲がって……!?」


 早苗の放った風はインドラに向かって直進していたはずだった。しかし、風は物理法則を無視するかのようにインドラを避けてあらぬ方向へと飛び去って行く。


「なに驚いてるんですかー? お姉さんだって同じようなことをしてたじゃないですかー」

「あなたも神奈子様と諏訪子様のご加護と同じ力を……!?」

「だからー、それは加護なんかじゃありませんよー。お姉さん自身の力ですー。……お前、本当に自分の力だという認識がないのか? ……そんな風には見えませんがー。あと、お姉さんの能力と同じと思われては不愉快ですねー。どうやらお姉さんは意識的にこの力をコントロールできてないんでしょー? コントロールできる私と同じ扱いをされては困りますねー」


 インドラは再び、紫電をヴァジュラに帯びさせると、早苗向かって放電する。


「あ、がっ……!?」と息を吐き出す早苗。

「まだ、悲鳴を上げませんかー。眼も気にくわないままですねー。ま、いいですよー。悲鳴を上げるまで、眼つきを変えるまで、電撃を加えてあげすよー。あっははー!」


 インドラは口角を邪悪に歪めると、早苗に何度も何度も電撃を浴びせる。


「それそれそれそれー! 悲鳴を上げてくださいよー! 悲鳴を上げるまで止めてあげませんよー!?」


 インドラは何十発、何百発もの電撃を浴びせる。時には足首に、時には肩口に、時には脳天に……雷を落とす。しかし、早苗が悲鳴を上げることはなかった。早苗はインドラの電撃を耐え続ける。


「まだ耐えますかー。さすがは私と同じくこちら側……法則ルールの上に位置する者。神の中の神になりうる資格を持つ者、というわけですかー。でもさすがにもう飽きましたねー。雷はもう終わりですー。お姉さんの能力の上を行く私の能力でお姉さんにとどめを刺してあげまーす!」

「はっ……。はぁ……。はっ……」


 インドラがとどめを刺す宣言をする中、満身創痍の早苗がゆっくりと立ち上がる。


「はっ……。はっ……。はっ……」と息切れをし続ける早苗の表情を見たインドラは嫌悪感を募らせた。早苗が引き攣った笑顔を見せていたからである。


「うわっ。何ですかその表情はー? 恐怖で頭がおかしくなっちゃった感じですかー? それとももしかしてお姉さんドMだったりするんですかー? いずれにしてもきもーい。さっさと終わらせちゃいまーす!」


 インドラは天に手をかざす。


「出でよ。我が最高の乗物ヴァーハナ白象アイラーヴァタ


 空に裂け目が作られ、そこから巨大な白い象が現れる。その背丈は妖怪の山の頂上よりも高い。信じられないことにその白象はその辺の小さな山ならば余裕をもって越えるほどの巨体だったのである。常人が見れば、それが象であることに気付くのに時間がかかるほどのスケールの大きさだ。


「あっははー! どう? 私のアイラーヴァタはー? あなたの大好きな白蛇の神様を踏みつぶしたのがこの子なんだよー。もっともー、その時は前足しか顕現させなかったんだけどねー」


 ……本来、これほどの巨体を持つ生物が地上にいれば自身の重量に耐えられず立ち上がることはおろか、生きることすらできないはず。しかし、インドラの持つ能力がそれを可能にしていた。インドラはゆっくりと口を開ける。


「お姉さんはー、あなたと私が持っているすごーい能力を自覚できてないそうだからー、冥土の土産に説明してあげるねー」


 そう言うと、インドラはヴァジュラから雷を早苗に向かって放出する。しかし、今度の電撃が早苗に当たることはなかった。電撃は早苗を避けるように曲がり空中へと消え去っていった。


「なんで今私の攻撃がお姉さんに当たらなかったかわかるー?」


 インドラが問いかけるが早苗は答えない。早苗は「はっ、はっ、はっ」と相変わらず短く息を切り、真っ暗な瞳を伴う引き攣った笑顔を作りだしたままだ。


「応答するなりなんなり、少しは反応が欲しいところだよねー。てか、いつまでその顔してんのー? 今更恐怖を感じてるのー? それとも興奮してるー? ま、いいやー。今、私の雷がお姉さんに当たらなかったのはねー。お姉さんが物理法則を書き換えているからだよー」


 インドラはにやりと笑みを浮かべて説明を続ける。


「意識的か無意識的か知らないけどー、お姉さんはこの世の理を書き換える能力を持っているんだよー。だから、私の雷や槍が当たらなかったんだー。でも、今はもう無理ー。なぜならー、私がさらに強力な力でお姉さんが書き換えた物理法則を上書きしてるからねー。本当ならアイラーヴァタちゃんも通常の物理法則に支配された世界ならおっきすぎて死んじゃうんだけどー。私の能力で生きていられるってわけー。お分かりー?」


 インドラが説明を終えるが、早苗は何の反応も示さない。表情も息切れもそのままだ。


「……説明しがいのないやつー。……殺してやれ、アイラーヴァタ。全体重を乗せた真のプレスを。白蛇を潰してやったときとは格の違う物理法則を超えた神の圧を。多少この山が崩れても構わん……!」


 インドラの指示を受け、アイラーヴァタは全ての体重を右前脚に集約して早苗に向かって振り下ろした。早苗は笑いを浮かべたまま、アイラーヴァタの攻撃を受け入れる。避ける様子もなく、ただ突っ立っているだけの状態のまま、早苗は巨大な足に踏みつぶされた。その衝撃は地震となって、妖怪の山はもちろん周辺の土地もグラグラと揺らしていく。


「……最後まで気にくわない顔と眼をした巫女さんだったなー。ま、いいよー。危険な力を持つやつは私以外いらないからねー。真の神は一人でいいものー」


 早苗を踏みつぶさせたインドラは、多少の不満を吐露するのだった。

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