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東方二次創作 普通の魔法使い  作者: 向風歩夢
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脈拍再開

「守矢神社の巫女だと……?」


 天魔は顔をこわばらせながら問いかけた。異様なプレッシャーを放つ目の前の少女がただの巫女だとは思えない。


「はい。私は諏訪子様と神奈子様にお仕えさせていただいています」


 東風谷早苗は眼を半開きにした形で神奈子に微笑む。相変わらず眼の奥は笑ってなどいない状態で、だ。


「諏訪子様と神奈子様はその台の上に横たわっておられるのですね? 拝見させてください」

「あ、ああ……」


 天魔は二柱を安置している台の前を早苗に譲る。変わり果てた二柱を目の当たりにた早苗はわなわなと震えていた。怒りの感情からさらに発するプレッシャーを強める早苗に射命丸は思わず体を硬直させる。


「……お二方をこのような目に合わせたのは貴方ですか?」と早苗は天魔に問いかける。

「ち、ちが……。わ、私では……」

「でしょうね。貴方程度にお二方を痛めつける力があるとは思えません」


 ……本来ならば、一介の巫女ごときが天魔に不敬な言葉を述べれば、天魔も射命丸も許しはしないだろう。だが、目の前の少女が放つ圧倒的なプレッシャーの前に言い返すことなどとてもできなかった。


「誰がお二方をこのような目に……? お教えいただいてもよろしいでしょうか?」


 天魔は射命丸に話した時と同じように早苗にも事の顛末を伝える。


「なるほど。海の向こうの神ですか。それならば、お二人がおいたわしい姿になってしまったことも納得できます。……ところで、なぜお二方をこんな場所に置いたままにしているのですか? 貴方たちはお二方をこの山の神と認めたのでしょう? 治療するのが筋だと思いますが……」

「な、なにを言っている!? 見ればわかるだろう! この二柱は既に手遅れだ……!」

「そんなはずがないでしょう。お二方は土着信仰の最高神と日本古来の軍神なのですよ? この程度のことでお亡くなりになるはずがない……!」

「気持ちはわかるが……、我ら天狗の誇るエリート軍医たちに何度も確認させたのだ。間違いなどあるわけが……」


 そこまで言って天魔は言葉を飲み込んだ。早苗の無表情な顔が『黙って治療しろ』と凄んでいるように感じられたからである。天魔は無駄だと思いつつも軍医たちを呼び出し、二柱の状態を再確認させることにした。


「そ、そんなバカな……!?」

「どうした?」


 驚愕する軍医に天魔が問いかける。軍医は驚愕した表情のまま、天魔に報告する。


「脈拍が再開しています……! 何度も複数人で確認して死亡を判断したはずなのに……!?」

「当たり前です」


 早苗がぴしゃりと言い放ち、場の空気を締める。


「お二方がお亡くなりになるはずがないのです。もう少しであなた方は取り返しのつかない誤診をするところでした。この罪は重いですよ? お二方に代わって神罰を下したいところですが、それはお二方の望むところではないでしょうからやめておいてあげましょう。それではお二方に手厚い治療をお願いしますよ、大天狗殿」


 早苗はそう言うと踵を返し、遺体安置所を後にしようとする。


「ま、待て! どこに行くつもりだ!? お前こそ、二柱を看護する必要があるんじゃないのか!?」


 呼び止める天魔の声に反応し、早苗は半身で振り返る。


「私にはやらなければならないことがありますから……」

「やらなければならないこと……だと?」

「ええ。罰を与える準備をしなくては……。お二方をこのような目に合わせたインドラと名乗る神にそれ相応の処罰を下さなければいけませんから……!」


 早苗のプレッシャーがさらに大きく増幅される。表情は笑っているが、そのオーラにはさらなる怒りが内包されていた。あまりのプレッシャーに射命丸とその場に居合わせた軍医たちは胃の内容物を戻しそうになり、必死に口を押さえる。天魔でさえ立っていることが精いっぱいだった。


「……お前は一体何者だ……!? ただの巫女とは思えん……! お前からはインドラと同程度の圧を感じるぞ……!」


 何とか口を動かした天魔が早苗に問いかける。


「ただの巫女ですよ。……外の世界では現人神だと、皮肉で言われたこともありましたが……。私自身は今も昔もただの巫女だと思っています」


 ハイライトの一切ない暗黒の眼玉で天魔を見つめながら言い残すと、早苗は今度こそ遺体安置所を去っていった。


「ただの巫女だと……? 冗談も大概にしろというものだ。……おい、本当に誤診なんてありえるのか?」


 天魔は軍医の一人に尋ねる。


「わ、我々はたしかに二柱の死亡を確認しました。今までこのような事例を聞いたこともありません。き、奇跡というほかないかと……」

「……奇跡を起こす程度の能力を持つ巫女……なのか? どいつもこいつも次から次へと妖怪の山に乗り込みおって。これから胃の痛い日々が続きそうだな……」


 天魔は冷や汗をかきながら、早苗の背中を見送るのだった。

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