神の末裔
「帝釈天=インドラ……? たしか……、仏教やインドの宗教にそんな名前の神がいたな……」
「そうそう、それそれ。って言っても、その神様は私のひいひいひいひいばあちゃんとかその辺りがモデルなんですけどねー」
「神の末裔か……。そんなやつがなぜこの妖怪の山を欲するんだ?」と天魔がインドラに問う。
「さぁ?」
「『さぁ?』だと? ふざけるな!」
「だって仕方ないでしょー。私はひぃひぃひぃ婆ちゃんのお友達のテネブリスさんに頼まれてやってるんだからー。テネブリスさんが何をやりたがってるかなんて聞いてないしー」
「テネブリス……。それが貴様ら侵入者の親玉の名か」
「あっ。言っちゃまずかったかなー? ま、いいや。多分名前くらい知られても問題ないだろうしー」
「小娘、なにが目的だとしても関係ない。この山は我らのものだ。お前にやるつもりはないよ」
神奈子が不敵な笑みを浮かべて山の所有者が自分たちであることを告げる。その様子を見た天魔は『こいつも大概に面の皮が厚いな』と呆れる。
「別にくれないならそれでもいいよー。奪うだけですからー」
軽い口調で穏やかでない言葉を紡ぐインドラは、さらにこう続ける。
「ねぇ、おばさんたちさー。私の『ヴァーハナ』がどこに行ったか知らないですかー?」
「おばさんってのは私のことも言ってるのかい?」
諏訪子がインドラに不服そうに尋ねる。
「もちろん。だってあなたこの中じゃ一番おばさんでしょー? 姿かたちは若作りできてもオーラは誤魔化せないよねー」
「……私の中身を見抜けるのかい? なるほど、神様を名乗るだけのことはあるってことだね」
「そんなことより、質問に答えてよねー。私の『ヴァーハナ』知らないー?」
「そのヴァーハナってのはなんだい?」
「私のような神の乗り物になる動物のことだよー。この国の人間とかだって馬を乗りものにしてるでしょー?」
「悪いが、乗り物になりそうな動物なんて見ちゃいないよ。どんな動物なんだい?」
「おっきな蛇女『ナーガ・ラージャ』のナーギニーちゃんと赤い鷲女『ガルーダ』のラクタちゃんだよー。この山を征服するようにお願いしてたんだー」
インドラの言葉に諏訪子と神奈子はピクリと眉を動かす。両者とも心当たりがあるからだ。
「あー! その反応絶対知ってるでしょー? どこにいるのー。私のナーギニーちゃんとラクタちゃんはー」
「もういないよ。お嬢ちゃんのいう蛇女は私が退治したからね」
「はぁ!?」
「ガルーダだか、ラクタだかいう鷲の妖怪も私が始末したよ。この山にちょっかいをかけていたからねぇ。なるほど、あの鷲頭が言っていた主とやらが小娘、お前なわけか」
「……そうかー。道理で帰りが遅いわけだねー。おばさんたちが殺してくれちゃったんだー。私の大事なヴァーハナを……。それもお気に入りの2匹ともー」
インドラの口調が徐々に怒りに満ちていく。
「ナーギニーちゃんはもうすぐ竜になれそうだったから楽しみにしてたのにー。ラクタちゃんは私の乗り物の中で最速だったから重宝してたのにー。絶対許さないんだからー。…………覚悟してよねぇ! クソババア共ぉ!」
インドラは体内に押し殺していた神のオーラを放出する。その圧倒的なプレッシャーの前に神奈子たち三人は苦笑いを浮かべるのだった。