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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第1章・新しい生活の始まり
7/63

結婚するなら?ゼ◯シィ!だよねっ。

リリィとの仲良し回でもあります。

「それで、結婚式、お披露目パーティで何かやりたい事は思いついたかい?」

帰りの馬車に乗り込むと、リオンが尋ねる。

相変わらず、私は膝の上に乗せられている。


甘いなぁ。リオンは足、痛くないのかな?


「結婚するなら、ゼ◯シィのイメージしかない。」

「リ◯ルートか。」

「そういう、話がわかる人がいて嬉しい。」


ちょっと、顔が緩んじゃう。


「私はあの雑誌を読んだ事は無いぞ。」

「そうなんです?」

「君は、婚約者は居なかったと言っていたが。そういう雑誌を読むような相手が?」

ちょっとムッとした表情。

「違うわ。職場の先輩が結婚される前に、一緒に見てたの。いいなぁって思って。」

「そうか。なら許そう。」

頰にキスをされる。

「ねぇ、リオン、チクチクするわ。」

「ああ、この時間だからな。ちょっと髭が伸びたか。痛かったか?」

「そこまでないわ。」

心配そうな顔をするので、思わず笑ってしまう。

頭いい人なのに、かわいい人。


「何をしたいかって言われても、結婚式は、ラトル教の様式だから、ドレスを用意するくらいだし、ドレスはもう頼んでるわ。屋敷で開く、お披露目のパーティは、好きにしていいのかしら?」

「構わないよ。」

「日本式の披露宴みたいなことしたいわ!」

「変わった趣向だと取られると思うが。良いのではないか?」

「君はそんなに宝石にも興味ないみたいで、あまりお金を使わないだろう。パーティは好きなようにやるといい。申し訳ないが、忙しくて君と一緒に詳細を詰める余裕が無い。5月になると余裕は出来ると思うが。どのようにするのか、計画を立てたら、用紙に書き起こして伝えてくれないか?」

「わかったわ。」

「ああ、それから、バイス公爵家のリリスティール嬢の見舞いに行くと約束したのだろう。パーティの後、寝込んだようだが、今は良くなっているらしい。クロードが学院専攻科にいるから、多分、日曜に魔力を抜いているのだろうな。月曜日が体調が良いだろうと推測するが。本当に行くのか?」

「ええ、行くわ。」

「私は付いて行けないが。」

「過保護ね、リオン。大丈夫よ。ちょっと話しに行くだけだわ。」

「わかった、次の月曜、朝から公爵家へ伺いの連絡をしよう。リリスティール嬢の体調が良ければ、会いに行くといい。手土産などは考えているか?」

「公爵家でしょう?何をお持ちすればいいのかわからないわ。リリスティール様の好みも知らないし。」

「では、王都で最近、話題になっている菓子店の菓子を取り寄せるよう、手配しておこう。」

「ありがとう。リオン、そんな事も詳しいのね。美味しいお店なの?」

「さあ。私は食べた事は無いな。ローズの分も頼んでおくよ。」

「本当?嬉しい!」

美味しいものは、幸せになれていいよね。





週明け、月曜日、私はリリスティール様に会いにバイス公爵家を訪れた。


リオンが、流行りのお店のお菓子と、茶葉を手土産に用意してくれた。


リリスティール様。


悪役令嬢とはかけ離れた、折れそうな程に華奢な身体に、漆黒の髪が輝いていた。母親譲りの壮絶なまでの美貌が、見るもの全てを惹きつける。

あの短時間のパーティーで、彼女に見惚れる者がどれほどいたのか。

彼女を周囲の視線から守るように立っていたクロード。2人が余りにも似合い過ぎて、殆どの者が遠巻きに見るだけで、声すらかけられない状態だった。


死亡フラグは折られた。

私は、アイリーン様に約束してしまっている。リリスティール様が治癒した折には、必ず行くと。


普通の女性のようだった。日本からの転生者。彼女は、どんな人なんだろう。


そんな、とりとめのない事を考えていると、メイドに案内され、リリスティールの部屋に通される。


ソファに座るリリスティール様に、まずは挨拶する。

「レイローズ・グラートでございます。この度は、ご面会のお許しを頂き、ありがとうございました。」

「リリスティールです。そんなに畏まらないで。」

リリスティール様が、ふわりと笑う。頰に薄っすら血色があり、体調がいいのだなとわかる。


「マール、お茶の用意をしたら、席を外してちょうだい。2人でゆっくり話がしたいの。」

「お嬢様?」

メイドが、心配そうにリリスティールを見る。

「大丈夫よ。レイローズさんとは、この間のパーティーでもお会いしてるの。クロードの同級生なのよ。私が知らないクロードの話を沢山聞かなきゃ。」

そう言って、ふふっと、無邪気に笑う。

マール、と呼ばれたメイドは、テキパキとお茶を淹れると、退出して行った。


その様子を何となく2人とも無言で眺めていた事に気がつく。



「千葉って、本当?行ったことないのだけど。」

リリスティールが急に話を振る。

「ええ。あの遊園地がある近くです。」

「ねぇ、お願い。2人でいる時はタメ口で良くない?」

クスクスと、リリスティールが笑う。

「本当に?」


「もちろん。うふふ。嬉しくって。私は阿蘇なの。とても、のどかな所。」

「火山がある所よね。写真でしか見た事無いわ。」

「そうよねえ。千葉からは遠いもの。機会が無ければ、国内でも行ったことがない所は沢山あるよね。私なんて、今の国はこの間、初めて学院に外出したくらい。屋敷に引きこもりで、裏の丘しか行ったことないの。ねえ、ずっと聞きたかったの。はなもりって、なあに?」

「乙女ゲームよ。」

想像以上に、リリスティールがフレンドリーで、ホッとする。タメ口、難しいなぁ。ここ18年は、令嬢言葉で過ごして来た。


「ゲーム!懐かしい。乙女ゲームはした事無いかな。友達にしてる子はいたけど。イケメンとの親愛度上げて攻略するのはわかってるけど。」

「夢の花は森の乙女に、って言うゲームで。この世界、そのゲームの設定と一緒なの。ゲームの中では、貴女はヒロインを虐める悪役令嬢、私はその取り巻き。」


「えええっ。その手の小説なら読んでたけど。それって処刑とか、修道院送りとかが、デフォじゃない?」

「そうなの。ストーリーも、その通りで。」

「嘘でしょ?私が悪役令嬢?じゃあ、殺されるの?」

サアッと、リリスティールの顔色が悪くなる。

えっ?待って。ショックで倒れたりしたら困るっ!!


「ちょっ!リリスティール様っ?もう、イベント全部終わってるから、死亡フラグ折れてるから。大丈夫よっ!」

慌てて、フォローするが、

「そう…?大丈夫、だから。ちょっと待って」

と、黙り込んで5分ぐらい顔色が悪くて、心配した。

5分無言って、間が辛いわ。


「もう、大丈夫。驚き過ぎて、意識飛びそうだった。感情の起伏に、魔力の抑えが効かないの。」

ゆっくり話すリリスティール。

「ショックを与えてごめんなさい。本当に大丈夫?見てるこっちが心臓に悪いわ。魔王に殺されそう。」

「魔王?」

「そう、魔王クロード。」

「何それ、ウケる。」

「いやいや、令嬢の言葉使いじゃないリリスティール様の方がウケる。」

「マジか。」


クスクスクス。


「令嬢の話し方じゃないよね。」

そう、リリスティールが言う。

「しばらくこんな話し方してないから、令嬢言葉と混じるわ。ねぇ、リリスティール様って、前世いくつ?」

「ん?20よ。」

「私、23。」

「お姉ちゃんだ。」

「お姉ちゃんか。」

「うん。」


また、2人で顔を見合わせてふふふと笑う。


ふと、リリスティールが黙る。

「どうしたの?」

「私ね、5歳ぐらいに前の事を思い出したんだけど、さっきいた、メイドのマールに魔力で怪我をさせてから、ずっと抑え込むのにいっぱいいっぱいで。ほとんど、寝たきりでボーッとしてて、あんまりこの世界の記憶も無いの。2年ぐらい前まで、ずっとベッドで寝てた。だから、まだ令嬢言葉に慣れないの。この話し方が落ち着く。この世界の常識もよく知らない。」

「それで、ストーリー変わったんだ。」

「ストーリー?」

「ゲームでは、貴女が、ガンガン魔力暴発して、他人に怪我させて迷惑かけるけど、そのおかげで魔力を放出して元気になって、クロードと婚約破棄して、第3王子と婚約するの。」

「何それ?本当?」

「そこで、学院で出てきた主人公、ヒロインに嫌がらせして、お決まりの、卒業パーティーで婚約破棄の上、処刑か修道院送り。」

「うわー。それ聞いたら、学院とか行かなくて良かった。」

「私も助かった。」


2人で顔を合わせて、また、クスクスと笑う。何か楽しい。

出会ったばかりだというのに。


「ねぇ、じゃあ、魔力を放出したら、もっと元気になれるの?」

「可能性としては、多分。」

「じゃあ、放出する訓練をどうにかして受けたらいいのね?」

「訓練ねぇ。どういった方法が良いのかしら?」

「わからないけど。クロードに頼りっぱなしも、ちょっとね。」

「そうねぇ。今のところ、彼以外に魔力を吸い出してもらってないの?」

「そうよ。」

「うわぁ。私、恨まれそう。」

「どうして?」

「だって、魔王様、リリスティール様にベタ惚れじゃない。魔力の訓練に男性の魔法使いとか関わると、絶対怒りそう。女性魔法使い、意地でも探して来そう。」

「そうかも。」

「この国の男性って、甘いよね、セリフが」

「そうなの?クロードが恥ずかしいくらいに甘いのは知ってるけど、他の男性と話した事ないし。」

「ああ私の旦那様も…」

転生者って教えて良いものか、分からず、黙った。

「甘すぎるわね。」

とりあえず、言葉をつなぐ。


「どんな風に?」

「人が居ない移動中は、すぐに膝に座らされて、からかわれて、他の男性を見てはいけないって、よく言われるわ。」

「ああ。何かクロードと似てる。」

「でも、元々の私の好み、ドストライク過ぎて、全然逆らえない。」

「えええ。ここに来て、まさかの惚気っ?」

「言われてみたら、初めて惚気たのかも。」

「初めてなの?」

「うーん。宰相様だから、結構、人気あったのよね。今でもあるのかしら?下手に惚気なんて言ったら、恨まれそうだわ。」

「社交界、怖っ。」

「そうねぇ。」

「もう、ずっと行きたくないわ。」

「そうもいかないでしょ?」

「この年齢で、全然、この世界のこと知らないのよ。寝たきりで、勉強どころではなかったし。」

「元々、病弱って皆が知ってるし、公爵家令嬢にそんな文句つけられるのって、限られるから大丈夫よ。」

「限られるって言われても、アウェー感が半端ないの。この間のパーティーも、本当に、逃げ出したくて。行かなきゃ良かったって、ずっと思ってた。」

「そんなに?」


部屋がノックされ、さっきのメイドさんがお茶のお代わりは如何ですか?と、入ってきた。


そういえば、お茶はのんでるけど、話に夢中で、お菓子食べてないわね。


「美味しいお茶だわ。シモール産の茶葉かしら?」

「そうでございます。」

笑顔でメイドが答える。

「つい、話が弾んでしまって、お菓子に手をつけていなかったわ。綺麗なお菓子ですわね。」

「お気遣いありがとうございます。当家の料理人が作らせて頂きました。」

小ぶりのスコーンと、クッキー、一口サイズのタルトが可愛い。

メイドが綺麗に礼を取る。流石公爵家。メイドも一流な感じね。

「マール。ありがとう。」

リリスティールが声をかけると、

「御用がありましたら、お声かけ下さいませ。」と言って退出して行った。


「流石、メイドさんも一流ね。」

「そうなの?」

「ええ。だって、彼女、薬師でしょう?薬師をメイドとして使うなんて、公爵家は凄いわね。リリスティール様の専属なの?」

「そうだけど。私、マールが薬師って、はじめて知ったのだけど。」

「彼女の銀のネックレス。丸いペンダントトップに、葉と、天秤を象ったデザインが入ってるでしょう。あれが、薬師の証よ。」

「そうなのね。自分の身の回りの人なのに、知らない事が多すぎて。」

「薬師は、平民上がりの方も多いけど。髪色が薄い茶色だし、微妙に魔素を感じたから、もしかしたら、土属性の魔法も使えるのかも。だとしたら、薬師としては、調合に便利だから、とっても向いてると思うし。もしかしたら、出自は、男爵家か子爵家のお嬢様かもしれないわよ?」

「この短時間に、そんなにわかるの?」

「まぁ。この世界、長いですし。」

「ますます、社交とか不安になって来た。」

「大丈夫よ。魔王クロードがバリア張ってくれるわよ。」

「魔王って、何で魔王なの?」

ふふふとリリスティールが笑う。

「学院でのあだ名よ。もう、あの人、表情筋、無いのかってくらい無表情で怖いじゃない?入学当初は魔力値は普通で、学力と総合査定でトップだったけど、リリスティール様の魔力ももらってから、無双よ。卒業前とか、演習、教師7対1でやってたわよ。どれだけ強いのよ。」

「ええ?無表情なの?いつもニコニコしてるけど?」

「きっと、貴女にだけよ。」

「うわぁ。」

「そういえば、アイリーン様はお元気?」

「母?元気よ。昼間は治癒師協会に行ってるからいないけど。」

「もしかして、自分のお母様が聖女と名高いのも知らないの?」

リリスティールが、えっ?って顔をしてる。これは知らないんだわ。

「…知らない。」

「私、記憶が戻った時の怪我を治して頂いたの。」

「母に?」

「そう。」

「学院入学前だったのに、アイリーン様に、リリスティール様の体調が良くなったら、絶対、リリスティール様の側に行くって言っちゃって。どうして、自分から破滅フラグに突っ込んで行ったのかって、落ち込んだわ。」

「どういう流れで、そうなったのかわからないんだけど。母と約束してたから来てくれたの?」

「それだけじゃないわよ。貴女と話したかったの。」

「そう?」

「そうよ。私も、こんなに楽しいなんて思わなかった。」

「同郷みたいな気分よね。」

「本当。」


自然と、笑顔になる。


「もし。もし、私が社交に出ないといけなくなったら、助けてくれる?」

リリスティールが、急に真剣な表情で尋ねてくる。

「もちろんよ。」

私の返事に、リリスティールが笑う。


2人のおしゃべりは止まらない。

あっという間に、約束の1時間が過ぎる。


「また来てくださる?」

メイドがいる為、また令嬢言葉に戻したリリスティールに返事をする。

「ええ。また。私、6月に結婚式と、披露のパーティーをしますの。もし、もし、リリスティール様が体調が良ければ、クロード様といらっしゃって。」

「本当に?でも、私が行っても大丈夫かしら。」

「大歓迎よ。クロード様が許せば、でしょうけど。」

「クロードにお願いするわ。」

「貴女がお願いしたら、クロード様は断らないでしょう?」

「そうかしら?過保護なの。」

「限られた、選ばれた人間しか呼ばない内輪のパーティーだから、気軽に来て下さると嬉しいわ。気分が悪くなったら、すぐに休めるように、お部屋も準備しておくわ。」

「そんなに気を使ってもらったら、申し訳ないわ。」

「ホストとして当たり前の配慮ですもの。だから、リリスティール様、あと、2ヶ月ありますわ。暖かくなってきますから、もっと、お元気になって。」

「そうね。頑張るわ。ありがとう。本当に今日は楽しかった。」

「ええ。それでは、失礼致しますわ。」

「また来てくださいませ。」

「ええ、必ず。」



こうして、私はリリスティールという友を得たのだった。





「ローズ。リリスティール嬢はどうだった?」

帰宅した旦那様が、開口一番に尋ねたのは、リリスティールとの関係だった。

「たくさんお話して、楽しかったわ。」

ふわりと抱きしめられ、頭を撫でられる。

「それは良かった。いい関係が築けそう?」

「友達になったと思うわ。また、会いにいく約束をしたの。」

思い出すと、楽しくて、ふふふと笑ってしまう。

「君が楽しそうで、何より。」

そう言って、額にキスを落とされた。

リオンも、過保護ね。

目の前にある優しさに、つい、甘えてしまう。


守られている安心感が、心地よかった。

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黎明 ルークスタッドの後日談、連載中 不器用令嬢、騎士になる カイウスの恋愛話、主に嫁視点を書いてます。  こちらもよかったら読んで下さい。
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