子供がしたことですし①
復帰後なんで腕が落ちたなって思います
ご指摘お願いします!
たくわんを放り込んでポリポリと噛む。今のものと違い、変な化学調味料がないので素朴な味わいだ。ご飯を放り込み、生きている心地と一緒に噛みしめる。甘みが広がり、腹を満たしていく。
満腹とは、人の心も満たしてくれるようだ。心豊かに考える、というのは色々な条件が必要なようだ。ようやく背中とお腹の間に隙間ができた気がする。天井を見つめる暇もなくなり、規則正しい生活になると、俺の体にようやく脂肪がつくようになった。
俺が織田信長の子供として過ごすことになってから、尾張国では色々な出来事が起こっていった。
そして手習いが始まり1ヶ月となる。一応転生時の付属能力があるのでそつなくこなしているが、戦国時代の屈強な精神力だけは今も身に付かず、苦戦を強いられている。だがその他はそこら辺の大人なら圧倒できる才能をみせつけている。
そして織田家では主に3つの勢力が誕生した。
俺を「捨て子」として見るものと、
「信長の子」として見るもの、
「奇妙丸の嫡男の座を奪える才能」を持つものとしてみるものの大きく分けても三派閥になった。
なにを言っているんだこのガキはと言われるかもしれんが、戦国時代のお家事情というのは家臣や城主全員が敏感に反応するっていうのを身を持って感じた。風船に針を当てるより簡単に破裂しそうな雰囲気は異常である。肌に突き刺さりそうなほどピリピリしている。
捨て子として見るのは柴田勝家などの勢力。こちらは頭が少し足りない脳筋野郎が多いが、実力は確か。柴田勝家自体はバカじゃないしね。鬼柴田と恐れられていたのはその体格もそうだが、戦のうまさもピカイチだったと言われている。ここに来て話したかった人物の一人である。
「信長の子」として見るものは佐久間信盛などの信長の父信秀の代から仕えていて、それプラスちょっと堅い感じの方達。忠誠心の強いのも相まって、悪気のないのがよりたちが悪い。あくまでも信長様の子供。失礼のないように、けど持ち上げすぎないように。どっちつかずという感じである。
そして最後「奇妙丸の嫡男の座を奪える才能」としてみているのが、前田利家、丹羽長秀、木下藤吉郎。1番の疑問はこの時点で藤吉郎が織田家にいたかどうか。まぁそれはいいとして信長を支え、少し頭が切れるものは俺の並々ならぬチート能力に気付いたらしい。特に今あげた3名のうち、前田さんは俺に接触してきた。色々聞かれたけど全部奇妙丸の真似して誤魔化したけど。あとは藤吉郎は俺の面倒見係だからいつも何気ない感じで聞いてくるので警戒しないといけない。
つまり俺には敵がいるのだ。4歳の子供を敵対視するのは「柴田勝家」率いる勢力だ。まぁあんまり気にしていないのだが。けど居づらいのは確かだ。敵対視といえど、実害は今の所ない。けど「いつかこいつを貶めてやろう」という雰囲気は感じる。
今日は父信長に呼ばれて着替えを済ませて話すことになっている。こんなことを考えるのもこの辺にしよう。父と話すのは凄い集中力を要するのだ。言葉一つで首が飛ぶかも知れんからな。
何かやらかしただろうか?ご飯もそこまで食べ過ぎているわけでもないしな〜?
着物というのはなんていい肌触りなのだろう。安心感を与えてくれる。俺はその安心感を身にまとい、正確にいうと藤吉郎に着せてもらってるんだが。そして藤吉郎に連れられて、部屋を出た。
廊下を藤吉郎の後ろについて歩く。歩き方も作法も全部教えてもらった。一通り覚えて、実践しているわけだが、このそろりと歩くのはどうにも足が疲れる。たまにギィーという音がすると、部屋から何人かが出てきてしまうからかなわない。
それにしても父上はなんで茶室で話をしたがるのだ。茶室は城の中でも、俺の部屋からかなり遠いところにあるため、足腰をいじめてくるのだ。現代と違い、ズボンでないから結構歩きにくいのである。あと、成人の歩幅になれると、今更このサイズ感は厳しいものがある。
ようやくのことで着いて、藤吉郎が確認を取ると、俺一人で茶室に足を踏み入れる。そっと座り、顔を上げると、父上の隣に、美しい女性が座っていた。
俺がキョトンとしていると、父上が重い空気も何のそのと言わんばかりに口を開いた。
「お主には母親がいなかったな?」
「はい、捨て子でしたので」
「これが俺の正室の帰蝶だ。今日からお主の母親だ。何かあれば相談するといい。
「はい!よろしくお願いします帰蝶様!」
文句を言うわけにもいかず、いささか強引で帰蝶さんが可哀想だと思ったが素直に従う。柳のような男でなければいけない。
「母上でいいですよ、にしても本当に4つなのですか?これほどまでに礼儀正しいとは」
目をまん丸くして、クスリと笑う帰蝶はマムシ斎藤道三の娘であり、信長の正室だが子供はいなかったらしい。ということは俺は正室の子供という扱いでいいのかな?
養子だけど。そう考えると興奮してきたな。
「ああ、少々つまらんがこの戦国の世では活躍するだろうな。では下がれ、桜捨丸に話がある」
そうやって帰蝶さんが出て行くと、信長は俺を見据えて、目を開く。
「どうだ? 城ぐらしは窮屈か?」
「滅相もございません、皆様よくしていただき感謝しています......ただ」
「ただ?」
言うべきが悩んだが、やはり恨んでるとかはないけど消される前に摘めるものは摘んでおきたいので言うことにした。やらなきゃ、やられるとか現代では言われてたけど本当にそうだって思う。
「私のことをよく思わないものがいるようですね。実害はないにしろ、不安を感じ……」
「ほう?誰だ?申してみよ」
一息入れて話を続けようとすると、間髪入れずに話しかけてくる。すかさず信長は眉をピクと動かすだけだったがそれだけでも威圧感十分である。先程までみしていた豪快な笑顔を残しながら、張り詰めた空気へと部屋を変化させる。俺は唇を強く噛んだ。
「名前を申すのは少し......」
「申せといっておるのだ!」
おお......さすが信長......とんでもなく重い空気に押し潰されそうになる。
しかし、告げ口みたいで嫌だな......話切り出したの俺だけど。
威圧感に押され俺は口を恐る恐る開いた。
「柴田殿等の腕の立つ武将たちです」
信長の顔に青筋がいくつかできた気がした。俺の顔はどんどん青ざめていた
赤く鮮やかな襖と、視界にはいった青色の着物に包まれた細い足をみつめて、より小さくなった。