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戯け①

心地良い風が髪を後ろに靡かせる。久しぶりに気楽な外出だなと手綱を握る手にも余裕がある。


今朝方、城にお使いが来て登城する様にと伝えられ急いで準備をした。そんなに直ぐ着くものでもないので暇ではあるが……箱という身分でもないし。



というか慣れてはきたがそろそろ事前準備という概念を持って欲しい。今日も城の人や、茶々には迷惑をかけた。


朝起きて、茶々が隣に居ることに疑問を持つよりも先にお使いが来ているという情報が先に入ってきたし。可愛い寝顔だなとそっと頭を撫でて、城内の人に指示をして出てきた。


昨日業務のようなものは一通り終わらしてあったから良い……いや良くはない。今日は茶々と屋敷を回る予定であったのだ。そのために必死で仕事を終わらしたのに……ええいクソ!




それでも表情に出すわけにもいかず、あくまで穏やかな表情と声色を意識する。


「今度は何があったのでしょうね?」


俺は少し後ろで着いてきている半兵衛さんに声をかける。父である秀吉は殿、信長に既に呼び出されている。


「貴方は武士の子供にしては本当に表情が分かりやすい人ですね」


そして彼はクスッと笑う。俺は少しムッとするが、流石軍師と誉めることで自分に非はないということにした。


「いやいや、決して今日は楽しみにしていた日なのに、急に呼び出されて不快とか思ってませんよ。昨日終わらした作業はなんなんだなんて思ってません」


半兵衛さんは今度は口を開けて笑う。口に当てられた手がどことなく大人っぽい。


「思ってるんですね……毎度毎度急だなとは思いますが。それほど奥方を大事に思われていることですね、良いことです」


若干小馬鹿にされているような気がしたが、突っかかってもあしらわれるだけなので大人しく食い下がる。


「恐らく武田関係の何か何でしょうが……戦では無いとなるとわかりませんね」


天才軍師もお手上げのこの状況であるが、俺も皆目検討もつかない。この時期で戦以外の大きな動きはないはずだが……?


「まぁ、予想のつくような方なら、こんな大勢の人はつかないと思いますけどね。彼のそういうところに人は惹かれるのでしょう」


あくまでも淡々と語るが、そのトーンはどこか楽しそうでさえあった。


「……楽しそうですね」


俺の質問に少し首を傾げた


「ええ、こんな日々は隠居の身では過ごせなかったんですから」


そう言って微笑むと忘れていたと言わんばかりに、クスッと笑ってから


「それに貴方という興味深い人間を間近でみていられるというのも中々の贅沢ですから」


「お世辞がお上手なことで」


あくまでも冷静を装いつつも、半兵衛さんに褒められたという気持ちが先行して、自然と口角が柔らかくなっていくのがわかる。


柔らかい風が再び吹くと、今度は追い風になる。何もかもが上手くいっている。心配事はない。心配事はないのだ。


俺は手綱をギュッと握った。







城につくなり、急足で殿の元に通された。そんなに急ぎならば、そう言ってくれれば良いのに。


「遅いぞ、太郎!貴重な話が終わってしまったぞ!」


襖を開けると、殿と一名外国人がいた……


「此奴が今度の戦に必要な武器などの手配を手伝ってくれると……必要な物も話も聞けた、下がって良いぞ」


すると外国人はスッと立ち上がり消えていった。


「彼奴のような人間の話は面白い……甲斐の話じゃが」


そうきたか。いきなりの密会ムードに俺も気を引き締める。

雑談より格段とボリュームを下げて、声を低くする。


幾度か経験したがいまだに慣れない。この時は時間に流れが嫌にゆっくりに感じてならない。冷たい汗が鎖骨のあたりをツーっと通った後で、今度は生え際に滲んだ汗が気になる。


それでも何とか集中しようと、必死で耳を傾ける。


「先程、南蛮で……入れた……後はわかるな?」


コクリ


手短な返事ににするためジェスチャーのみで対応する。


すると大きな物音がして、人が入ってくる。勿論信長は激昂しようとしたが……様子がおかしかった


「……徳川殿、三方ヶ原に置いて武田軍と開戦!!我が援軍を含めた兵で必死の戦いも虚しく敗戦です!」


……きた……血の気が引く思いながらも必死に自我を保つために布を握る。


「……竹千代は」


信長の短い言葉が轟いて、恐れながらも更に声が大きくなっている。


「徳川殿は何とか生き延びておりますが、被害は甚大。織田家の平手殿が討死です」




少し間があいて、信長はそれ以上は何も聞かず、直ぐに立ち去っていった。一歩一歩踏みしめるように。



その時俺は不謹慎ながらヒシヒシと感じていた……人生で感じたことのない背中の大きさ……




ここから織田信長は





天下に向かい歩いて行くのだと

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