表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

第四話 変心

おかしな夢から目覚めた健一が見たものは……

 ぼくがおかしなユメから目をさますと、へやのようすがかわっていました。

 なんだか古くさくなっている上に、ぼくのべんきょう机がなくなっていて、かわりにもう一台ベッドがあります。それに、なぜだか体がおもたく、コシのところがズキンズキンといたいのです。

 いったい、ぼくはどうしてしまったのだろう。

 考えていると、へやのドアがノックされて、だれか入って来ました。ぼくのぜんぜん知らないおばさんです。

「あなた、いつまで寝てるの。会社に遅れたって知らないわよ。あら、何よ。ハトが豆デッポウくったみたいな顔して」

「あのう、すみませんが、おばさんはだれですか?」

「ふん、おばさんで悪かったわね。さあ、ふざけてないで、早く起きてちょうだい」

「ええと、ええと、下のへやにぼくのママがいるはずなので、ママをよんでもらってもいいですか?」

「何バカなこと言ってるの。お義母さんはもうとっくに。うーん、熱でもあるのかしら」

 おばさんはぼくのおでこに手をあてました。

「熱はないわねえ。昨日は腰が痛むからって、お酒も飲まずに寝ちゃったから、二日酔いってこともないだろうし」

 このおばさんは、何を言っているのだろう。ぼくは、だんだんしんぱいになってきました。

 やっぱり、ちゃんとだれなのかきいてみよう。でも、人に名前をきくときは、自分から先に言わないといけないって、ママが言っていました。

「あのう、ぼくは河深かふか小学校二年三組のさむ沢けん一といいますが、おばさんはどなたですか?」

「はいはい。わたしは寒沢圭子でございますよ」

「あ、それじゃあ、親せきの人ですね。はじめまして」

 でも、おばさんはなぜかこわいものを見るような目をしています。

「ねえ、あなた、もう冗談はそれくらいにしてよ。気味が悪いわ」

「えっ、じょうだんってウソってことですか。ぼくはウソなんかついてませんよ」

 おばさんはますますこまったようなかおになり、ドアをあけてさけびました。

「ちょっとお、健介、来てくれない。お父さんの様子が変なのよ」

 まだほかにだれかいるのでしょうか。

 トントントンとかいだんを上がる足音がして、大学生くらいの知らないお兄さんが来ました。

「なんだよう、こんな朝っぱらから。親父は一ヶ月前にリストラされて子会社に出向になってから、ずっと変だったろう。今更いまさらどうしたっていうんだよ」

「そうじゃないの。変っていうより気持悪いのよ。まるで自分を小学生だと思ってるみたいなの」

「そんな馬鹿なことがあるかよ」

 お兄さんがぼくのそばに来ました。

「なあ、親父。おふくろがキモイって言ってるから、もう悪ふざけはやめなよ」

「ぼくはウソなんかついてません。ほんとうです。お兄さんも親せきの人ですか?」

 お兄さんもへんなかおになりました。

 おばさんはしんぱいそうに、お兄さんの手をひっぱりました。

「ね、言ったとおりでしょ。やっぱり病院に連れて行ったほうがいいのかしら」

「うーん、ちょっと待って。もしかして、博士なら原因がわかるかもしれない」

「博士って健介のゼミの先生?」

「ああ、古井戸博士は不可思議なことが三度のめしより好きな人だから、呼べばすぐに来ると思うよ」

「だけど、お医者様じゃないんでしょ」

「専門は超時空間物理学だけど、確か医学博士の資格も持ってたはずだよ」

「じゃ、お願いするわ。その間、わたしはお父さんをなだめてるから」

 お兄さんがへやを出て行くと、おばさんはニコニコわらってぼくを見ました。

「あなた、いえ、健一くんは何も心配しなくていいのよ」

「でも、でも、ぼくはびょうきなんかじゃありません。おねがいですから、ママをよんでください」

「ええと、健一くんのママはね、遠いところにお出かけしちゃったのよ。わたしと健介は、その、お留守番を頼まれたの。だから、安心してわたしたちに任せておいてね」

 ああ、ぼくはどうしたらいいんだろう。しんぱいでしんぱいでたまりません。

 そのとき、またかいだんを上がる音がしました。こんどは二人のようです。

「まあ、ずいぶん早かったわね」

「ああ、偶然だと思うけど、ちょうど近くにいらっしゃったよ」

 お兄さんのあとから、白いふくをきたおじいさんが入って来ました。

 おばさんは、おじいさんにペコペコあたまを下げています。

「まあ、初めまして、健介の母でございます。ご迷惑をおかけします」

「いやいや、ちょうど研究所の時間異常検知器に反応があってのう。この近くで小規模な時間流の乱れが発生したらしいので、調べておったんじゃ。おおよそのことは健介くんから聞いたが、間違いなくタイムスリップじゃな」

「え、タイム、なんですか?」

「タイムスリップ、平たく言えば、時間の地滑じすべりじゃな。まあ、普通は身も心もスリップするわけじゃが、ご主人はたまたま心だけズレたんじゃな」

「はあ、なんだかよくわかりませんが、治るんでしょうか?」

「うむ。これが体ごとなら機械がないとどうしようもないが、心だけじゃから、この場でなんとかなるじゃろう」

「良かったわあ。お願いします」

 白いふくのおじいさんは、ぼくのそばに来ました。

「ええと、健一くん、じゃったな。心配せんでええよ。わしがすぐに治してやるでなあ」

「あの、ぼく、びょうきなんでしょうか?」

「いや、そうではない。どちらかといえば、これは事故じゃな。まあ、細かい理屈は言ってもわかるまいがのう。それより、健一くん、わしの人差し指を見てごらん」

「はい」

「ほら、ゆっくりらすぞ。きみもこれに合わせてゆっくり息を吐いてえ、吸ってえ、三、二、一、ハイ!」


 おれがおかしな夢から目覚めると、部屋の様子が変わっていた。

 全体的に真新しいし、子供用の学習机がある。それに妙に体が軽く、爽快そうかいだ。腰の痛みもない。

 どうなっているのか考えていると、ノックの音がして誰か入って来た。

「健ちゃん、早く起きないと学校に遅刻しますよ。あら、どうしたの、変な顔して」

 これは夢の続きに違いない。何故なら、そこに立っているのは、若いころのままの姿をした、五年前に死んだおふくろだったのだ。

 その時、どこか遠くから老人の声が響いてきた。

『ええい、しまった、しまった。逆になったわい。やり直しじゃ』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ